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10 告白
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団長が城へと戻り彼の息子が代理として参加すると発表されてからも、特に大きな混乱などはなかった。
発表前に大きな鳥型の魔物が現れて、割と強いみたいだけどそれをジュリアスがあっさりと倒してしまったせいもあるかもしれない。
夕食前に集まった皆へ副団長ハミルトンさんは、無表情なままで淡々と団長は王に呼ばれて帰ったけど息子さんが代理で来てますという事情を話し、団長の隠し子発覚で多少騒ついた程度だった。
「団長って……やっぱり、女が居たんだな……しかも、成人済みの息子まで居たのか」
「あの人は汚れてしまった英雄なんだから、家族の為に表向きは独身を通すしかなかったんじゃないか……」
ボソボソと内緒話が耳に入り団長の部下にあたる騎士たちの噂話を聞いて、私は驚いた。汚れてしまった英雄……?
団長のことを語る時は常に「あの人なら大丈夫」と言われるばかりで、そんなの……初耳だけど。
当事者であるジュリアスはハミルトンさんに紹介されてから、にこやかに部下たちのの輪に入って、そつなく挨拶をしているようだ。
流石年の功というのか、初対面を装いつつも自己紹介と挨拶をしていて対応は感じ良くてすごく好感度高そう。
「え……汚れてしまった、英雄? どういうこと」
「誰かから、何か聞きましたか」
なんとなくの独り言に頭の上から返事があって驚き過ぎた私は、心臓が口から飛び出るかと思った。
「わ! ハミルトンさん……びっくりしました。いえ……さっき、そういう噂している人が居て」
私が言葉の先を濁すと、副団長……というか、団長代理になった彼は、はあっと大きなため息をついた。
「実は……団長は城中で神殿に仕える司祭を切り殺したことがあります。ですが、その時点で団長は二回世界を救っています。ですから、陛下は特別に恩赦を与え、その罪は不問になったんです……」
「え? あのジュリアスが? 嘘でしょう。信じられない……」
ジュリアスは沈着冷静で、私は彼が怒ったところを見たことがない。エセルバードを叱りつけている時は流石に厳しい態度を見せることはあるけど、それ以外は理知的で温厚だ。
彼が城の中で強い怒りをもって人を切り殺してしまうなんて、とても想像つかない。
「それに被害者の司祭が、市井でも人気のある慈悲深い司祭として有名だったんです。十年ほど前に団長は彼を殺してしまったことで堕ちた英雄や汚れてしまった英雄と呼ばれるようになりました……ですが、私はどうしても団長がそんなことをするとは、今でも思えないんですよ……」
私もそれには完全に同意する。だって、それだとあのエセルバードが今生きてるの、絶対おかしいと思うもん。
「私も、そう思います! ……けど、団長は彼を殺してしまった理由を、何か言っていたんですか……?」
気になるのは、それをした動機だ。もしかしたら、殺されそうになったからやむを得ずの正当防衛なのかもしれないし……。
「いいえ……団長は司祭との間にあった詳しい事情については黙秘を貫き、ただ『自分が怒りに任せて切り殺してしまった』としか、取り調べに対しては言わなかったそうです」
若い頃から彼の右腕を務めているというハミルトンさんはその頃からずっと、私と同じ思いだと思う。
あの団長……ジュリアスがそんなことをするなんて、考えられない。けど、本人はそう言っているし、なんなら世界を救っているからとその罪も恩赦を受けてしまった。
きっと、何かそれをしたとしたなら、彼には何か特別な事情があるはずだって……そう思ってしまう。
「あ……ハミルトンさん……私、ハミルトンさんが怪我したら、キスした方が良いですか」
そういえば、この人だけはジュリアスが若返ったことを知っている。怪我をしたらそれで治せてしまうことを、知っているのだ。一応確認しようとしたら、無表情で首を横に振られた。
「いえ。私は妻一筋ですので。瀕死の重傷の際は、お願いするかも知れませんが」
「わかりました。命の危険が迫る時は、私もそういう恥ずかしさなどは捨てます」
ハミルトンさんは真面目に答えたので、私も真面目に返した。
「ありがとうございます。では、そういうことで」
発表前に大きな鳥型の魔物が現れて、割と強いみたいだけどそれをジュリアスがあっさりと倒してしまったせいもあるかもしれない。
夕食前に集まった皆へ副団長ハミルトンさんは、無表情なままで淡々と団長は王に呼ばれて帰ったけど息子さんが代理で来てますという事情を話し、団長の隠し子発覚で多少騒ついた程度だった。
「団長って……やっぱり、女が居たんだな……しかも、成人済みの息子まで居たのか」
「あの人は汚れてしまった英雄なんだから、家族の為に表向きは独身を通すしかなかったんじゃないか……」
ボソボソと内緒話が耳に入り団長の部下にあたる騎士たちの噂話を聞いて、私は驚いた。汚れてしまった英雄……?
団長のことを語る時は常に「あの人なら大丈夫」と言われるばかりで、そんなの……初耳だけど。
当事者であるジュリアスはハミルトンさんに紹介されてから、にこやかに部下たちのの輪に入って、そつなく挨拶をしているようだ。
流石年の功というのか、初対面を装いつつも自己紹介と挨拶をしていて対応は感じ良くてすごく好感度高そう。
「え……汚れてしまった、英雄? どういうこと」
「誰かから、何か聞きましたか」
なんとなくの独り言に頭の上から返事があって驚き過ぎた私は、心臓が口から飛び出るかと思った。
「わ! ハミルトンさん……びっくりしました。いえ……さっき、そういう噂している人が居て」
私が言葉の先を濁すと、副団長……というか、団長代理になった彼は、はあっと大きなため息をついた。
「実は……団長は城中で神殿に仕える司祭を切り殺したことがあります。ですが、その時点で団長は二回世界を救っています。ですから、陛下は特別に恩赦を与え、その罪は不問になったんです……」
「え? あのジュリアスが? 嘘でしょう。信じられない……」
ジュリアスは沈着冷静で、私は彼が怒ったところを見たことがない。エセルバードを叱りつけている時は流石に厳しい態度を見せることはあるけど、それ以外は理知的で温厚だ。
彼が城の中で強い怒りをもって人を切り殺してしまうなんて、とても想像つかない。
「それに被害者の司祭が、市井でも人気のある慈悲深い司祭として有名だったんです。十年ほど前に団長は彼を殺してしまったことで堕ちた英雄や汚れてしまった英雄と呼ばれるようになりました……ですが、私はどうしても団長がそんなことをするとは、今でも思えないんですよ……」
私もそれには完全に同意する。だって、それだとあのエセルバードが今生きてるの、絶対おかしいと思うもん。
「私も、そう思います! ……けど、団長は彼を殺してしまった理由を、何か言っていたんですか……?」
気になるのは、それをした動機だ。もしかしたら、殺されそうになったからやむを得ずの正当防衛なのかもしれないし……。
「いいえ……団長は司祭との間にあった詳しい事情については黙秘を貫き、ただ『自分が怒りに任せて切り殺してしまった』としか、取り調べに対しては言わなかったそうです」
若い頃から彼の右腕を務めているというハミルトンさんはその頃からずっと、私と同じ思いだと思う。
あの団長……ジュリアスがそんなことをするなんて、考えられない。けど、本人はそう言っているし、なんなら世界を救っているからとその罪も恩赦を受けてしまった。
きっと、何かそれをしたとしたなら、彼には何か特別な事情があるはずだって……そう思ってしまう。
「あ……ハミルトンさん……私、ハミルトンさんが怪我したら、キスした方が良いですか」
そういえば、この人だけはジュリアスが若返ったことを知っている。怪我をしたらそれで治せてしまうことを、知っているのだ。一応確認しようとしたら、無表情で首を横に振られた。
「いえ。私は妻一筋ですので。瀕死の重傷の際は、お願いするかも知れませんが」
「わかりました。命の危険が迫る時は、私もそういう恥ずかしさなどは捨てます」
ハミルトンさんは真面目に答えたので、私も真面目に返した。
「ありがとうございます。では、そういうことで」
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