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67 てがかり③
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ショーンの婚約破棄から、一年経った今でも自分の何が悪かったのかと、何度も何度も考えることがあった。
けれど、ショーン一人だけが悪い訳でもないし、彼から見れば私だって悪いところはあったはずだ。
私はショーンに関して、自分が何を言っても話が通じないと諦めていた部分があった。本来なら、お互いに話し合うべきだったのかもしれない。
結婚するのなら、見て見ぬふりで不利益を被るのは、自分のはずなのに。
もしくは、オフィーリア様のように、自分に向かい合って話すように仕向けたり働きかけるとか……色々とやりようはあったはずだ。
関係を繋ぎたいと考える、お互いの努力が足りなかっただけで、今思うとどちらも、そう悪くはなかったのだろう……私を誘拐するまではね。
「レニエラ。先に馬車へ乗ってください。とにかく、王都へと戻ります」
短く私に告げたジョサイアは、物々しい騎士何人かが集まった辺りに、何かを指示しに戻ったようだった。
ジョサイアが乗り込んだ途端に、馬車は走り出したからそういう指示をしていたのだろう。
「……ジョサイア。どうして、ここに私が居るとわかったの?」
私が隣の席に座っていたジョサイアへそう聞くと、彼は意味ありげに微笑んだ。
「レニエラ。気が付かなかった? 過去の君が、間接的に君を助けたんだ……意図せずに、だけど」
「……どういうことなの?」
彼の謎解きのような言葉の意味が、ますますわからない。
「今君の持っている農園は、果汁を出荷しているんだよね?」
確かにその通りだったので、私は頷いた。
「え? ええ……果汁は酒造するために、卸すことになっているわ」
私が商品化しようとしているのは、実が出来る前の花なのだけど、果皮からも香油が抽出出来るので果汁は、また別に売ることになっていた。
「そう。出荷予定だった果汁の樽は、荷馬車に詰め込まれ、出発寸前だった……君が攫われそうになったところを、農園を任せていた男性が見掛けてね」
「まあ! カルムだわ。もしかして、カルムが助けを呼んでくれたの?」
そういえば、あの時のカルムは果汁の出荷作業で忙しそうだった。
「ああ。彼はとにかく君が乗った馬車の追跡を優先し、救助をよこしてもらうように知らせた。そして、積んでいた樽の中の果汁を、ところどころ道に撒いたんだ。そうすれば、香りが君の居場所を教えてくれる」
「すごい……そんな使い道があるなんて、知らなかったわ」
あまりに思いもよらなかった果汁の使い道に私は微笑み、ジョサイアは苦笑しつつ頷いた。
「確かに柑橘の香りは、甘酸っぱくて良いね。冷たい空気の中で、よく香った。明日、道を行く人は驚くだろうね。僕にとっては誘拐された妻への道筋を教えてくれる……唯一の手がかりだった」
けれど、ショーン一人だけが悪い訳でもないし、彼から見れば私だって悪いところはあったはずだ。
私はショーンに関して、自分が何を言っても話が通じないと諦めていた部分があった。本来なら、お互いに話し合うべきだったのかもしれない。
結婚するのなら、見て見ぬふりで不利益を被るのは、自分のはずなのに。
もしくは、オフィーリア様のように、自分に向かい合って話すように仕向けたり働きかけるとか……色々とやりようはあったはずだ。
関係を繋ぎたいと考える、お互いの努力が足りなかっただけで、今思うとどちらも、そう悪くはなかったのだろう……私を誘拐するまではね。
「レニエラ。先に馬車へ乗ってください。とにかく、王都へと戻ります」
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「……どういうことなの?」
彼の謎解きのような言葉の意味が、ますますわからない。
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確かにその通りだったので、私は頷いた。
「え? ええ……果汁は酒造するために、卸すことになっているわ」
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「そう。出荷予定だった果汁の樽は、荷馬車に詰め込まれ、出発寸前だった……君が攫われそうになったところを、農園を任せていた男性が見掛けてね」
「まあ! カルムだわ。もしかして、カルムが助けを呼んでくれたの?」
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「ああ。彼はとにかく君が乗った馬車の追跡を優先し、救助をよこしてもらうように知らせた。そして、積んでいた樽の中の果汁を、ところどころ道に撒いたんだ。そうすれば、香りが君の居場所を教えてくれる」
「すごい……そんな使い道があるなんて、知らなかったわ」
あまりに思いもよらなかった果汁の使い道に私は微笑み、ジョサイアは苦笑しつつ頷いた。
「確かに柑橘の香りは、甘酸っぱくて良いね。冷たい空気の中で、よく香った。明日、道を行く人は驚くだろうね。僕にとっては誘拐された妻への道筋を教えてくれる……唯一の手がかりだった」
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