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63 情②
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ショーンは婚約していた時には、軽い暴言は良く吐かれたし、「なんだこれは」と髪の毛だって引っ張られていたことは確かにあった。
けれど、殴られたことはなかった。今、殴られるかもしれないという恐怖を強く感じた。
ここで私たちは長い間沈黙し、ショーンは何かを考えているのか、真っ暗な窓の外をうつろな目をして見ていた。揺れる馬車は荒れた道を走っていて、きっとここは整備された街道でもない。
このまま、彼の好きに……連れて行かれる訳にはいかない。
ショーンとは、幼い頃から婚約者だった。嫌な奴で乱暴者になったけど、幼い頃に優しくて好きだったという感情は、ずっと消せなかった。
彼が好きだったからこそ、変わってしまって悲しかった。
今だって、そうだ。幼かったあの少年の部分がまだ少しでも残っているのなら、もしかしたらまだ……私の話を理解してくれるかもしれないと、心のどこかで期待してしまっている。
「……ねえ。ショーン。私へ婚約破棄を、一年前に言い出したでしょう?」
「……ああ」
馬車の轍の音だけが聞こえる中の、私の質問に投げやりに答えたショーンは、私が居る方を向く気はないようだ……ううん。そうよ。オフィーリア様だって怒っていたように、自分と向き合うことをしない人となんて、一生を添い遂げる結婚するのは無理だわ。
だって、話し合う気も無ければ、どんな事態でも摺り合わせが出来ない。
「どうして、あんなことをしたの? 婚約を継続するくらいなら……婚約破棄なんて、しなければ良かったのに」
そうよ。今になって私を連れて逃げるくらいなら、あんなことをしなければ良かったのに。
……そうしたら、今頃は結婚適齢期の私たちは、結婚式の準備をしていたはずだわ。
「うるさいな! あの時は捨てられそうになったお前が、俺に縋って来るところだろう!」
「……え?」
あまりにあり得ないことを言ったショーンに、私は口をぽかんと開けて頭が真っ白になった。
そんな私の反応がショーンにとっては意外だったのか、彼は私の方へ向き直り、いかにも気に入らないといった様子で言った。
また大きな声で怒鳴ったショーンは、まるで会ったことのない別の男性のように思えた。今すぐに逃げ出したいと、得体が知れないゾゾっとした恐怖が体中を覆った。
「おい。通常であれば婚約破棄されたら一生、貴族令嬢として結婚も出来ずに、修道女になるか薄給で家庭教師になるくらいしか道はない……レニエラはあのいけすかない弟の影響か、本当に生意気で言うことを聞かなかったから、泣いて謝ってくれば俺は可哀想なお前を庇う予定だった。そこで仲直りすれば、俺の寛容さも際立つだろ?」
なっ……何言っているの? 言っていることが、本当に意味不明過ぎて、理解が出来なくて……駄目。もう同じ空間に居ることすら、無理なんだけど。
ショーンは私に言いたいことを言ってやったとでも思ったのか、フンっと鼻を鳴らすと窓へと視線を戻した。
私はというと、逆に落ち着いていた。
けれど、殴られたことはなかった。今、殴られるかもしれないという恐怖を強く感じた。
ここで私たちは長い間沈黙し、ショーンは何かを考えているのか、真っ暗な窓の外をうつろな目をして見ていた。揺れる馬車は荒れた道を走っていて、きっとここは整備された街道でもない。
このまま、彼の好きに……連れて行かれる訳にはいかない。
ショーンとは、幼い頃から婚約者だった。嫌な奴で乱暴者になったけど、幼い頃に優しくて好きだったという感情は、ずっと消せなかった。
彼が好きだったからこそ、変わってしまって悲しかった。
今だって、そうだ。幼かったあの少年の部分がまだ少しでも残っているのなら、もしかしたらまだ……私の話を理解してくれるかもしれないと、心のどこかで期待してしまっている。
「……ねえ。ショーン。私へ婚約破棄を、一年前に言い出したでしょう?」
「……ああ」
馬車の轍の音だけが聞こえる中の、私の質問に投げやりに答えたショーンは、私が居る方を向く気はないようだ……ううん。そうよ。オフィーリア様だって怒っていたように、自分と向き合うことをしない人となんて、一生を添い遂げる結婚するのは無理だわ。
だって、話し合う気も無ければ、どんな事態でも摺り合わせが出来ない。
「どうして、あんなことをしたの? 婚約を継続するくらいなら……婚約破棄なんて、しなければ良かったのに」
そうよ。今になって私を連れて逃げるくらいなら、あんなことをしなければ良かったのに。
……そうしたら、今頃は結婚適齢期の私たちは、結婚式の準備をしていたはずだわ。
「うるさいな! あの時は捨てられそうになったお前が、俺に縋って来るところだろう!」
「……え?」
あまりにあり得ないことを言ったショーンに、私は口をぽかんと開けて頭が真っ白になった。
そんな私の反応がショーンにとっては意外だったのか、彼は私の方へ向き直り、いかにも気に入らないといった様子で言った。
また大きな声で怒鳴ったショーンは、まるで会ったことのない別の男性のように思えた。今すぐに逃げ出したいと、得体が知れないゾゾっとした恐怖が体中を覆った。
「おい。通常であれば婚約破棄されたら一生、貴族令嬢として結婚も出来ずに、修道女になるか薄給で家庭教師になるくらいしか道はない……レニエラはあのいけすかない弟の影響か、本当に生意気で言うことを聞かなかったから、泣いて謝ってくれば俺は可哀想なお前を庇う予定だった。そこで仲直りすれば、俺の寛容さも際立つだろ?」
なっ……何言っているの? 言っていることが、本当に意味不明過ぎて、理解が出来なくて……駄目。もう同じ空間に居ることすら、無理なんだけど。
ショーンは私に言いたいことを言ってやったとでも思ったのか、フンっと鼻を鳴らすと窓へと視線を戻した。
私はというと、逆に落ち着いていた。
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