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62 情①
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「騙したのね。ショーン」
私はそれとなく周囲を見回し、自分が今居る状況を素早く確認した。
二人が乗っている馬車は走っていて、かなりの速度が出ているみたい。ショーンには私は何も出来ないと見くびられているようで、手も足も縛られてはいない。
けれど、確かにこの速度の馬車からは、絶対飛び降りられないわ。
「……レニエラ。お前。良い気になるなよ。運が良く結婚出来たかもしれないが、お前は俺が居ないと何も出来ない駄目な人間だ。これからは、俺の言うことだけ聞いていれば良い」
……そうだ。婚約している時にも、ショーンにはこの言葉を何度も言われた。その度に嫌だった。
「お前なんて、俺以外に結婚してくれるやつが居るわけがない」と。
結局のところ、ジョサイアは彼が望んでくれて結婚した訳だし、ショーンの言っていたことはすべて間違っていたってことになるわ。
「あら……それでは、ショーンにとって、もう既に結婚した私は要らない人間ではないの?」
「それは、俺が決めることだ!」
私は大きな声に驚いてびくっと身体を揺らしたけど、ここは言わなければいけないことは言うべきだわ。
ショーンがこんなことをしても、私たちが結婚出来るわけがないもの。
「ちょっと……そう言われると、話にもならないわ。現に私は既に結婚しているし、夫のジョサイアとも上手くいっているじゃない……貴方の言って居たことは……」
「うるさいうるさい!! いい加減、その生意気な口を閉じろ。俺はお前の意見なんて、求めてないんだよ!」
激昂したショーンは癇癪を起こしたように大声で言って、それを聞いた私は、はあっと大きくため息をついた。
きっと、ショーンの予想した通り……私は、貴方が何度も言っていたことは、間違いだったじゃないと私は続けて言おうとした。
……それが勘に障ったのね。
ショーンは自分が間違っていたことを、絶対に認めたくないんだと思う。彼にしてみたら、私は完全に下に居るべき存在で、自分には決して逆らわないと思われているから。
けれど、それは今の私がショーンの過去の暴言を、何もかも間違いに出来たから言えることだ。
そういった意味で、本当にジョサイアと……オフィーリア様には感謝しかない。
過去の私はショーンに何度も何度も言われた言葉で、心は頑なになっていた。「お前なんて」と、いつも言われ続けて……ジョサイアから優しさを向けられても、それを受け取れなかったのは、ショーンがかけたこの呪いがあったからだ。
「それでは、私をモーベット侯爵邸へ帰してくれない? 私はもう、貴方の言うとおりに黙っていないわ。ショーン……私は変わったのよ。貴方の婚約者だったレニエラ・ドラジェは、もう居ないの」
「おい。うるさい。黙れと言っているだろう?」
ショーンに剣呑な視線を向けられて、私はこくりと喉を鳴らした。頭の中では、これ以上彼に何も言ってはいけないと、甲高い警鐘が鳴り響いていた。
私はそれとなく周囲を見回し、自分が今居る状況を素早く確認した。
二人が乗っている馬車は走っていて、かなりの速度が出ているみたい。ショーンには私は何も出来ないと見くびられているようで、手も足も縛られてはいない。
けれど、確かにこの速度の馬車からは、絶対飛び降りられないわ。
「……レニエラ。お前。良い気になるなよ。運が良く結婚出来たかもしれないが、お前は俺が居ないと何も出来ない駄目な人間だ。これからは、俺の言うことだけ聞いていれば良い」
……そうだ。婚約している時にも、ショーンにはこの言葉を何度も言われた。その度に嫌だった。
「お前なんて、俺以外に結婚してくれるやつが居るわけがない」と。
結局のところ、ジョサイアは彼が望んでくれて結婚した訳だし、ショーンの言っていたことはすべて間違っていたってことになるわ。
「あら……それでは、ショーンにとって、もう既に結婚した私は要らない人間ではないの?」
「それは、俺が決めることだ!」
私は大きな声に驚いてびくっと身体を揺らしたけど、ここは言わなければいけないことは言うべきだわ。
ショーンがこんなことをしても、私たちが結婚出来るわけがないもの。
「ちょっと……そう言われると、話にもならないわ。現に私は既に結婚しているし、夫のジョサイアとも上手くいっているじゃない……貴方の言って居たことは……」
「うるさいうるさい!! いい加減、その生意気な口を閉じろ。俺はお前の意見なんて、求めてないんだよ!」
激昂したショーンは癇癪を起こしたように大声で言って、それを聞いた私は、はあっと大きくため息をついた。
きっと、ショーンの予想した通り……私は、貴方が何度も言っていたことは、間違いだったじゃないと私は続けて言おうとした。
……それが勘に障ったのね。
ショーンは自分が間違っていたことを、絶対に認めたくないんだと思う。彼にしてみたら、私は完全に下に居るべき存在で、自分には決して逆らわないと思われているから。
けれど、それは今の私がショーンの過去の暴言を、何もかも間違いに出来たから言えることだ。
そういった意味で、本当にジョサイアと……オフィーリア様には感謝しかない。
過去の私はショーンに何度も何度も言われた言葉で、心は頑なになっていた。「お前なんて」と、いつも言われ続けて……ジョサイアから優しさを向けられても、それを受け取れなかったのは、ショーンがかけたこの呪いがあったからだ。
「それでは、私をモーベット侯爵邸へ帰してくれない? 私はもう、貴方の言うとおりに黙っていないわ。ショーン……私は変わったのよ。貴方の婚約者だったレニエラ・ドラジェは、もう居ないの」
「おい。うるさい。黙れと言っているだろう?」
ショーンに剣呑な視線を向けられて、私はこくりと喉を鳴らした。頭の中では、これ以上彼に何も言ってはいけないと、甲高い警鐘が鳴り響いていた。
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