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53 一面①
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「え? 何かあったんですか?」
いつになく浮かれていた様子を見せていたジョサイアは、私たちが妙な雰囲気にあることを知り、スッと真面目な表情になり私の隣へと腰を落ち着けた。
「そうなの。私とアメデオは、ここでその話をしていたところなの。ジョサイア」
ついさっきまで私も彼と同じように浮かれていたはずなのに、どこかの誰かさんのせいで頭が痛い。一年前の話で……しかも、当事者であるはずの私には、その間にショーンから何の連絡もなかった。
それで婚約継続は、どう考えても話は通らないと思う。
もう、嘘でしょう。本当に何が起こったか、信じられないんだけど。
「突然の訪問、申し訳ありません。モーベット侯爵。私は火急の事態のため、父の代理でこちらへ。実は本日、姉の元婚約者……いいえ。先方が主張するところを聞けば、未だ婚約は継続中だったらしいのですが、我が家と姉を訴えるそうです」
席を立ち目上の貴族に対する礼をしたアメデオが困った表情で話し始めた時に、ジョサイアは当然だけど驚いていて、しかも戸惑っているようだ。
「すまない。いきなりで、理解が追いつかない……何の話なんだ?」
「つまり、ショーン・ディレイニーは一年前に大衆の面前で口頭で姉に向け、婚約破棄をしました。ですが、事務的な手続きを、故意にせずにそのままにしていたんです」
「……ディレイニー侯爵令息殿は、婚約不履行で何を望んでいるんだろうか。もし、何かの損害賠償が必要なら、僕が支払いたいと思う……それで、彼の気が済むのなら」
十秒ほど沈黙していたジョサイアにも、ここで私たちに言いたいことが沢山あったとは思う。同じようにショーンの行いが信じられないと言い立てるとか。
けれど彼は、冷静に淡々とこの事態を自分が解決出来る方法を提示していた。
「両親にはショーンは訴えるとだけ言っていたそうです。その時に、特に何かを要求したとは聞いていません。申し訳ありません。母があまりの衝撃に倒れてしまったため、父も彼に詳しい話を聞くことが出来なかったそうです。そして、我が家の名誉のためにお伝えしますが、父は婚約破棄を姉がされてから、先方に婚約解消の手続きを終えたかと口頭での確認もしたそうです」
難しい顔をしたアメデオの説明にジョサイアは、何度か頷いて言った。
「……無理もない。伯爵夫人もお気の毒に。現在、何が起きているかという事態は、僕も確かに把握した。君たちもこれを聞いて、さぞ混乱したと思う。だが、ディレイニー侯爵家の言い分は、誰が聞いたとしてもおかしいと思うだろう。気にすることもない。彼がこちらの過失だと言い立てているのが、書類上の問題だけなのだとすれば、こちらだって訴え返すことだって可能だ」
「まあ。ジョサイア、そうなの?」
私にはショーンが言い出したことについて、訴え返すという選択肢なんて全く思いつかなかった。
ジョサイアは先ほど驚いたは驚いたようだけど、何かに動揺した様子は一切ない。まるで仕事をしている時のような、落ち着いて淡々とした対応だった。
それを見て、なんだかドキッとしてしまったのは事実だ。
だって、夫が格好良いわ。
いつになく浮かれていた様子を見せていたジョサイアは、私たちが妙な雰囲気にあることを知り、スッと真面目な表情になり私の隣へと腰を落ち着けた。
「そうなの。私とアメデオは、ここでその話をしていたところなの。ジョサイア」
ついさっきまで私も彼と同じように浮かれていたはずなのに、どこかの誰かさんのせいで頭が痛い。一年前の話で……しかも、当事者であるはずの私には、その間にショーンから何の連絡もなかった。
それで婚約継続は、どう考えても話は通らないと思う。
もう、嘘でしょう。本当に何が起こったか、信じられないんだけど。
「突然の訪問、申し訳ありません。モーベット侯爵。私は火急の事態のため、父の代理でこちらへ。実は本日、姉の元婚約者……いいえ。先方が主張するところを聞けば、未だ婚約は継続中だったらしいのですが、我が家と姉を訴えるそうです」
席を立ち目上の貴族に対する礼をしたアメデオが困った表情で話し始めた時に、ジョサイアは当然だけど驚いていて、しかも戸惑っているようだ。
「すまない。いきなりで、理解が追いつかない……何の話なんだ?」
「つまり、ショーン・ディレイニーは一年前に大衆の面前で口頭で姉に向け、婚約破棄をしました。ですが、事務的な手続きを、故意にせずにそのままにしていたんです」
「……ディレイニー侯爵令息殿は、婚約不履行で何を望んでいるんだろうか。もし、何かの損害賠償が必要なら、僕が支払いたいと思う……それで、彼の気が済むのなら」
十秒ほど沈黙していたジョサイアにも、ここで私たちに言いたいことが沢山あったとは思う。同じようにショーンの行いが信じられないと言い立てるとか。
けれど彼は、冷静に淡々とこの事態を自分が解決出来る方法を提示していた。
「両親にはショーンは訴えるとだけ言っていたそうです。その時に、特に何かを要求したとは聞いていません。申し訳ありません。母があまりの衝撃に倒れてしまったため、父も彼に詳しい話を聞くことが出来なかったそうです。そして、我が家の名誉のためにお伝えしますが、父は婚約破棄を姉がされてから、先方に婚約解消の手続きを終えたかと口頭での確認もしたそうです」
難しい顔をしたアメデオの説明にジョサイアは、何度か頷いて言った。
「……無理もない。伯爵夫人もお気の毒に。現在、何が起きているかという事態は、僕も確かに把握した。君たちもこれを聞いて、さぞ混乱したと思う。だが、ディレイニー侯爵家の言い分は、誰が聞いたとしてもおかしいと思うだろう。気にすることもない。彼がこちらの過失だと言い立てているのが、書類上の問題だけなのだとすれば、こちらだって訴え返すことだって可能だ」
「まあ。ジョサイア、そうなの?」
私にはショーンが言い出したことについて、訴え返すという選択肢なんて全く思いつかなかった。
ジョサイアは先ほど驚いたは驚いたようだけど、何かに動揺した様子は一切ない。まるで仕事をしている時のような、落ち着いて淡々とした対応だった。
それを見て、なんだかドキッとしてしまったのは事実だ。
だって、夫が格好良いわ。
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