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49 婚約者③
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「姉さん。おかえり」
邸へ帰って来た私は、そこに学生服姿の弟アメデオが居て驚いた。
「……あら! アメデオ。どうしたの? 先に連絡をくれていたら、邸で待っていたのに」
「いや、姉の嫁入り先とは言え、先触れもなくごめん。僕は実はジョサイア義兄さんに伝えなければならない事があって、ここへ急ぎで来たんだ」
「急ぎ……?」
私は緊張感を隠せない表情をした弟アメデオの、慎重な言いようが不思議になって首を傾げた。
それとなく時計を確認すれば、この子は通常ならば、学校で授業を受けている時間のはずだった。
制服を着ているということは、学校に居たはずなのに、こちらへと駆けつけたのかしら?
そんなにも急ぎの用件がまったく見当もつかずに、私は何があったのだろうと不安がよぎった。
「仕事しているはずの城にも行ったんだけど、仕事がようやく片付いた義兄さんは、もう帰宅したと聞いてはいる……今はどこかに寄っているのかもしれないけど、闇雲に探すよりここで待っていた方が良さそうだし、待たせてもらうよ」
「あ……そうよね。そうだったわ」
今までジョサイアの仕事が多忙過ぎたのは、自分と向き合うこともせずに結婚するという選択をした彼に対する、オフィーリア様の嫌がらせだった。
その彼女が「気が済んだから、もう良い」と言ったのであれば、ジョサイアはやっとゆっくりと生活することが出来るんだわ。
「……姉さん。もしかして、何か知ってるの? いや、ごめん。そうも言ってられないんだった。姉さん……実は、今、大変な事態になっているんだ」
「大変なこと……?」
「そうだよ。あいつだ。ショーン・ディレイニーがやってくれた。あいつ、自分で婚約破棄した癖に、我が家と姉さんを婚約不履行で訴えると言い出したんだ」
「え……?」
私は久しぶりに聞いた名前を耳にして「その名前は私の前で出さないって言ったわよね?」などと、アメデオを詰め寄ることなんて出来なかった。
それに続いたのが、あまりに意味不明な言葉だったから。
「つまり、あれだけ派手に人前で、婚約破棄をした訳だからさ。僕らだって貴族院への婚約破棄の手続きは、言い出した側のディレイニー侯爵家がしたんだろうと思い込んでいたし、父さんもディレイニー侯爵に城で偶然会った時に念の為に問い合せたけど、そうしたと先方から口頭で確認したと言っているんだ」
「……そうよね。そうだと思うわ」
何せあの時、信じられない事態に、ドラジェ伯爵家は大混乱だった。
婚約破棄をすると言い立てたのはあちらだし、手続き自体は通常なら向こうがすると思うし、お父様もディレイニー侯爵家に確認したのなら、そう思うのも無理はないわ。
「けど、それはあの馬鹿男……ショーンが、自分は騎士になって大手柄を立てて、馬鹿なことをしたけど生まれ変わったと社交界には認めてもらうし、傷付けた姉さんには土下座して謝るからって泣いて言い張るから、ディレイニー侯爵家は二人の婚約自体は破棄したことにせず、そのままにしてたって言うんだよ」
アメデオが心底不本意だと言わんばかりの苦い表情で吐き捨てたので、あまりに思いもよらない事態になっていたことを知り、私はくらりとして後ろへ倒れそうになった。
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