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46 出会い③

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「……あ。私、あなたに愛されたいなどと、望んでおりませんって……確か……」

 ジョサイアの状況を聞いただけで、何もかも早とちりをしてしまい、妙なことをしてしまった恥ずかしい記憶が呼び起こされて、なんだか穴があれば入りたいくらい、いたたまれなくなった。

「そうです。今から想いを告げようと思っていた女性から、そう宣言されて、頭が真っ白になって、ここで何をどう言えば良いか、わからなくなって……」

 ええ。それは、そうなりますよね!

「確かに、そうなってしまうと思うわ。あの時の私ったら……本当に、恥ずかしい。本当に、酷いことをしてしまって。ごめんなさい」

 え。その上で結婚式後に、落ち着いて話そうと、私への事情説明を再挑戦しようとしていたジョサイアにも、私……嘘でしょう。

 思い込みの激しい自分が、どれだけ彼が歩み寄ろうとしていても、すべての頑張りを無にしていたかを知り、くらりと目眩がしそうになった。

「僕も流石に、一年後には、君にわかってもらえると思いました。僕とはまだ話す気のないレニエラにも、それまでには、話す機会もどこかにあるだろうと……僕は君が強がっているのは、わかっていました」

 彼もあの時のことを思い出したのか、ジョサイアは苦笑してそう言ったけど、もし好きな人と結婚出来たのに……一年後に離婚しましょうと、提案されたら?

 すごく嫌だわ。信じられない。全部、私がしたことだけど。

「辛かったと思います。ごめんなさい……けど、私はジョサイアのことを、嫌いだったから、あれを言った訳ではないです。傷ついてしまった貴方には、本当に好きな人と幸せになって欲しくて……だから」

「僕はそうするつもりです。レニエラ」

 私の目を真っ直ぐに見つめる、清水の川のような水色の瞳。あの時も、彼はそう私に言ったはずだ。

 貴方には好きな人と幸せになって欲しいと、そう言った私に。

「ジョサイア……私。貴方を好きになることが、怖かったの。誰かを好きになっても、好きになって貰えなければ、辛いだけだもの。だから、私……」

 だから、先回りして、私に好意的な言葉を使いそうなジョサイアから、逃げていた。

 ……だって、もう絶対に、傷つきたくなかったから。

「彼のことが、本当は、好きだったんですね」

 ジョサイアに何度目か……また、それを確認するように言われ、私はその時に、やっと好きだったんだと、自分でも認めることが出来た。

 静かに頷いた私の目から、涙がこぼれて止まらなかった。

 あの人のことが、好きだった。だから、いつも辛かったし、嫌だった。

 好きだったから、髪を引っ張られるのも、お気に入りのドレスを貶されるのも、嫌だった。出来たら優しくして、褒めて欲しかった。けど、そうしては貰えなくて、いつも泣きそうになって……。

「……そうです。私はあの人のことが、好きで……だから、あんな風にひどい状態で婚約破棄をされて、すごく傷ついて。仕事を持って、一人で生きて行こうと決めました」

「僕は君のことを見ていたので、ずっと……だから、誰よりも知っていました。レニエラが彼のことが好きだからこそ、深く傷ついていたのだと」

 なんとも思って居ない人になら、何を言われても何をされても、別に平気だったはずだ。

 けど、あれを好きだった人からされてしまったからこそ、私の心はひどく傷ついてしまった。もう傷つきたくないって、思ってしまうくらい。

「ジョサイアは……私がずっと強がっていたことを、知っていたんですね」

 ずっと平気だと、周囲にも自分にも言い続けていた。あんなこと、全然大したことない傷ついていないって。

「ええ。僕は君のことが好きなので、レニエラが好きな人も、ちゃんとわかっていました。だから、あの話を聞いた時に、この手で殺したいと思うくらいには腹が立った」

 ジョサイアは、真剣な表情でそう言った。一年前の彼は、王太子と共に他国の貴族学校へ通っていたはずだ。私の噂を聞いても、彼はどうしようもなかったに違いない。

 それにそれが一年前なら、オフィーリア様との結婚式の準備を始めていて、止めてしまうことも難しかったはず。だから、彼は……。

「ありがとう……私のこと、好きになってくれて……」

 ハンカチで私の涙を丁寧に拭き取ると、ジョサイアは苦笑して言った。

「それは、別にお礼を言うことでもないです。勝手に僕が好きになっただけですから……あの時も、こうして慰めて涙を拭ってあげたかった。好きな人に冷たくされて泣きそうになった、名前も知らない女の子の涙を」

 遠い過去の日を思い出すように、ジョサイアは目を細めた。
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