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22 側近②

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「そうだろうと思うよ。当時、婚約者だったオフィーリア・マロウが、そうすることが当たり前だと言えば、国有数の資産家で、造作なくそういう希望を叶えることが出来るのなら、義兄さんはそうせざるをえない」

「それって、ジョサイアが、彼女をそれほどまでに大事にして、愛していたってことでしょう?」

「……どうなのかな。彼女の要求を相手にするのが、面倒だったのかもしれないよ。多忙で時間もないんだから、彼女の言いなりに与えていれば黙ってくれるならと思ったのかもね。ジョサイア義兄さんは現王の側近として、これまでに女遊びなんてしている暇はなかっただろうと思うし、単に普通の女性との付き合い方を、知らないんだと思うよ」

「え……そうなのかしら? ジョサイアは、あんなにも美形なのよ?」

 既に彼と結婚をしている私がこんなことを言ってしまうのもなんだけど、ジョサイアがただ立って居るというだけで、どうにかして喋りたいと思うご令嬢なんて、うようよ寄って来そうだもの。

「姉さんは大事に育てられた深窓の貴族令嬢だ。だから、王家側近の仕事を知らないし、本来ならその必要もないんだけど……側近の特権を与えられるためだけに、彼らは王の周囲を囲んでいる訳ではない。私的な時間も常に侍ることもそうだけど、王や王太子がもし恋愛関係になりそうな女性と話している時だって、決して、彼を一人には……女性と二人きりには出来ないんだ」

「それって、恋愛に至りそうな会話も、全部……側近には聞かれてしまうってこと?」

 それは、嫌だ……たとえ、幼い頃から一緒に居た親しい友人同士だとしても。

「役目上、仕方ない。だからこそ、側近は王家に近く血筋の良い高位貴族の息子だけしか居ないだろう? 余計なことを言うようなお喋りは、そもそも弾かれて側近になんてなれないよ。それに暗殺や誘拐の危険を防ぎ、近付く相手を見張る役目だって担っている。いかにも王族警護のためといった物々しい格好をした、野暮な護衛騎士とはまた別に、だよ」

「あ。そういえば、ジョサイアは軍で訓練も受けていたって、聞いたことがあるわ……」

 夜会で良く見るようなひょろりとした上品な貴族とはまったく違い、ジョサイアは鍛えられた身体をしていた。アメデオはそれを聞いて納得したのか、何度か頷いていた。

「それも、そういう役目の一環だろうね。表向きの理由なんか、どうでも良いんだよ。彼だけでなく、側近全員がある程度の戦闘は出来ると思う。何かあれば、彼らが王を守るためだ」

「そっか……そうよね。ジョサイアはアルベルト様とは貴族学校だって、一緒だったと聞いたから」

「そういう意味で、側近は王とはほぼ同年である必要がある。しかも、従兄弟でモーベット侯爵みたいな、選りすぐりの王家側近には、親に決められた婚約者が幼い頃から居るんだよ。恋愛にうつつを抜かしている時間なんて、陛下以上にないと思って良いよ」

 アメデオに冷静に王と側近の関係を説明を受ければ、ジョサイアには時間があるはずがないと、それもそうだと理解することが出来た。

 陛下を生活すべての中心として動くのであれば、彼らは私的な時間なんて持てないんだわ。

「陛下が王位に就いた時も、彼らにも身分がなければと、側近数人もほぼ同時に爵位を継いだのよね」

 だから、私の夫であるジョサイアだって、若くして侯爵位に就いたんだった。お義父様はまだ若く健康で、息子に爵位を譲る必要なんてなかったのに。

「そうそう。幼い頃から地位を固めてきた側近たちは、王を守るための盾になるから、政治的に考えれば、王太子が即位するなら、彼らだって各家の貴族当主である必要があるよね。爵位も持たぬ若造が何をと、議会で言われても、その通りなんだから……何も言えなくなるしね」

 ジョサイアは、普通の貴族ではない。王家の血も濃いし、名実共に王家の側近だ。

 そんな彼がオフィーリア様以外の女性と、親しくしたことはないだろうという、アメデオの簡単な推論だって成り立つ。

「……ねえ。アメデオ。ジョサイアはオフィーリア様のことを、忘れられないのではないかしら?」

 幼い頃から、少し前まで婚約者同士で……とりあえずで結婚した妻の私にだって、彼女と同じようにして大事にしているくらいだもの。

 未だに忘れられず……妻の私を、居なくなった彼女の代わりにしているのかもしれない。
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