9 / 78
09 式後②
しおりを挟む
「結婚式、お疲れさまでした。ジョサイア」
結婚初夜だということで、私は当然のように使用人たちに浴室で磨きあげられ、準備を済ませてから夫婦の主寝室へと入った。
式用の衣装からまだ着替えをしていないジョサイアは、祝いの席で新郎だからと祝い酒を相当飲まされていた。
今はとろんとした色気ある目つきで、ベッドに腰掛けていた。窮屈だったのか黒い上着だけを脱いで、白いシャツの胸元もボタンを外し大きく広げていた。
……あら。いけない。容姿の整った男性の剥き出しの色気は、目の毒だわ。
これは、利害の一致した契約結婚で、私とジョサイアは愛し合っている訳ではない。死ぬまで添い遂げる本当の夫ではないのだから、子どもが出来てもいけない。私は早々に自室へと引き上げた方が良さそう。
結婚式でのお祝いムードの醒めやらぬ今では、あんなに多くの親しい方々からの祝福を貰って……と、ついつい罪悪感が湧いてしまうけど、本当に愛し合っていた二人だったとしても離婚する夫婦だって多いんだから、時間が経てば彼だって冷静になれるはず。
「ええ……レニエラ。君は本当に、美しかった……君用に一からドレスを作り直せなかったことは、大変不満だが」
このところ、ジョサイアをひどく悩ませていたはずの結婚式も、もう既に終わってしまったというのに、彼は私のドレスのことをまだ気にしてる様子。
契約妻にも気を使う優しい夫に、私は微笑んで肩をすくめた。
「気にしないで。ジョサイア。あんな豪華なドレスを一から作り直すなんて、何ヶ月掛かると思っているの? 王家専門のお針子室が不眠不休でサイズ直しをしてくれて、まるで私用に最初から誂えてくれたみたいだったわ。素晴らしい技術よね。貴方も、素敵だったわね……今日はゆっくり休んで。邸に滞在中の親族の手前、形だけでもここに来ただけで、私はすぐに隣の自室に行くわ」
そう言って私がこの部屋の続き部屋、つまり自室の扉の方向へ歩き出そうとすると、ぼんやりとしていたジョサイアは慌ててベッドから立ち上がった。
「待って! レニエラ。少し、話をしないか。結婚式まであまりに多忙過ぎて、僕たちはこれまでにろくに話し合うことが出来なかった。ゆっくり話そう。その……僕らの、これからのこととか……」
そう言ってジョサイアは、私に近くにあるソファを指差した。
確かに彼が私と話せていないと言ったことは事実なので、それもそうかと軽く頷いて、柔らかなソファへと腰掛けた。
結婚初夜だということで、私は当然のように使用人たちに浴室で磨きあげられ、準備を済ませてから夫婦の主寝室へと入った。
式用の衣装からまだ着替えをしていないジョサイアは、祝いの席で新郎だからと祝い酒を相当飲まされていた。
今はとろんとした色気ある目つきで、ベッドに腰掛けていた。窮屈だったのか黒い上着だけを脱いで、白いシャツの胸元もボタンを外し大きく広げていた。
……あら。いけない。容姿の整った男性の剥き出しの色気は、目の毒だわ。
これは、利害の一致した契約結婚で、私とジョサイアは愛し合っている訳ではない。死ぬまで添い遂げる本当の夫ではないのだから、子どもが出来てもいけない。私は早々に自室へと引き上げた方が良さそう。
結婚式でのお祝いムードの醒めやらぬ今では、あんなに多くの親しい方々からの祝福を貰って……と、ついつい罪悪感が湧いてしまうけど、本当に愛し合っていた二人だったとしても離婚する夫婦だって多いんだから、時間が経てば彼だって冷静になれるはず。
「ええ……レニエラ。君は本当に、美しかった……君用に一からドレスを作り直せなかったことは、大変不満だが」
このところ、ジョサイアをひどく悩ませていたはずの結婚式も、もう既に終わってしまったというのに、彼は私のドレスのことをまだ気にしてる様子。
契約妻にも気を使う優しい夫に、私は微笑んで肩をすくめた。
「気にしないで。ジョサイア。あんな豪華なドレスを一から作り直すなんて、何ヶ月掛かると思っているの? 王家専門のお針子室が不眠不休でサイズ直しをしてくれて、まるで私用に最初から誂えてくれたみたいだったわ。素晴らしい技術よね。貴方も、素敵だったわね……今日はゆっくり休んで。邸に滞在中の親族の手前、形だけでもここに来ただけで、私はすぐに隣の自室に行くわ」
そう言って私がこの部屋の続き部屋、つまり自室の扉の方向へ歩き出そうとすると、ぼんやりとしていたジョサイアは慌ててベッドから立ち上がった。
「待って! レニエラ。少し、話をしないか。結婚式まであまりに多忙過ぎて、僕たちはこれまでにろくに話し合うことが出来なかった。ゆっくり話そう。その……僕らの、これからのこととか……」
そう言ってジョサイアは、私に近くにあるソファを指差した。
確かに彼が私と話せていないと言ったことは事実なので、それもそうかと軽く頷いて、柔らかなソファへと腰掛けた。
366
お気に入りに追加
1,187
あなたにおすすめの小説
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。
そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ……
※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。
※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。
※この作品は小説家になろうにも投稿しています。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる