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07 電話

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 けれど、高校生の七瀬くんは私に、ここで戦うべきだと言ってくれた。

 悲しみに負けて泣いて日々苦しむくらいなら、この名刺をスマートフォンに打ち込んで、酷い言葉をまた投げ返すでもなく、大人として冷静に法律でやり返してやれと。

「わかった……焼肉、奢るね」

 七瀬くんの叔父さんならば、十年経ったとしても、甥の連絡先を知っているはずだ。すべて終えて私から焼肉を奢ると突然連絡があれば、驚くかもしれない。

 あの時に、七瀬くんが助けてくれたのは、同じ教室に居る自分のことを好きな同級生の、未来の姿だったのだと……。

 また、制服姿の七瀬くんはバスの中へと消えて、私は彼に貰った名刺をじっくりと見た。

「七瀬法律事務所……すごい」

 私は弁護士なんて身内に居ないし、そういえば、七瀬くんも特進クラスで学年テスト順位は、いつも一桁で頭が良かった。

 緊張しつつ電話番号を打ち込むと、数コールしてから電話に出た。

『はい。七瀬法律事務所です』

 低い……若い男性の声だ。

「あっ……ご相談を、お願いしたいです」

『かしこまりました。とりあえずのご相談でしたら、当事務所は一時間無料で受け付けております。また、相談中に詳細にお聞きしますが、お客様のご相談される内容は、どのような事案でしょうか?」

「元婚約者の、不貞行為です……婚約中に浮気をされていたんですが虚偽の理由で、婚約解消に至りました。慰謝料を取れるなら、取りたいです。今日、発覚したので……明日は平日ですが、休みを取っているので、いつでも相談に行けます」

『……かしこまりました。それでは、午後二時からは、ご都合いかがでしょうか?』

「大丈夫です」

『お名前の方を。よろしくお願いします』

「浮田萌音です」

『……っ……あ。はい。失礼しました。お待ちしております!』

「? よろしくお願いします」

 一瞬、私の名前を聞いて……吹き出さなかった?

 けど、正直言えばキラキラネームっぽい珍しい名前でもあるし、たまにそういうことはある……電話口の彼も、私の名前に驚いたのかもしれない。

 元婚約者を訴えると心に決めて仕舞えば、なんだか楽になった。

 私はようやくやって来たいつものバスへと乗り込んで、明日弁護士に何を言うべきかを書き出してまとめるために、スケジュール帳を取り出した。


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