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04 初恋

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 これは、自分が経験するしかなくて……私だって、夢見たままでその後も生きられるのなら、そうしたかった。

 けれど、人生は現実で私はこの先も生きていかなくてはならないし、結婚すれば、それは誰かと協力出来る。

 楽な道へ進むように、私は親に言われるがままに、結婚することを選んだ。

「……そうですか。あ。バス来ました……お姉さんは乗らないんですか?」

 私は黙って首を振った。私の目には、走るバスは見えていない。

 ダイヤ改正はよくあることだから、十年ほど前の今の時間は、この時間にバスが来ていたのかもしれない。

「またね」

 私が小さく手を振ると、七瀬くんは礼儀正しくお辞儀をして、傘片手に走って去っていった。

 パシャパシャと水の跳ねる音がして、そして、彼はバスに乗り込んだのか、姿はふっと見えなくなってしまった。

 彼が居なくなってしまって、寂しくないと言えば嘘になる。けれど、ここで呼び止めて、どうするの?

 私は七瀬くんのことが、本当に好きだった。
 あまりにも見すぎていたせいか、目だって良く合っていた。けれど、別に嫌な感じはしなかった。嫌われては、いなかったように思う。

 ふとした瞬間、絡み合う視線。クラスの喧騒は、何も聞こえなくなった。

 だから、こんな願望のような不思議な幻を、私は傷ついた時に見てしまったのかもしれない。

 七瀬くんが二年生で転校してしまう時、私は勇気を振り絞って彼に連絡先を聞こうとした。

 必死でニ階から名前を呼んだのに七瀬くんは、笑顔で大きく手を振って行ってしまった。

 彼に私へ少しでも気持ちがあれば、立ち止まってくれたと思う。けれど、あっけなく行ってしまった。

 そこで……追いかければ良かったのかもしれない。けど、そんな勇気、高校生の私には出せなかった。

 ……そして、私は高校生の好きだった時のその人と、話をしてしまうという不思議な体験を終えた。


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