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17 すごい愛①
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「それに、僕は前世でも裏切ったつもりもない。あの時期に王軍が出兵することは、誰だってわかっていたはずだ。国が滅んだことだって、僕のせいにされれば堪らない」
前世の中でスパイが居て、情報が漏れて、そして、王様は殺されてしまって、もう滅びる寸前だった。
そして、信じていた婚約者が帰って来た途端に、お姫様は殺されてしまった。
「ああ。そうだろうな。だが、何故かスパイの疑いを掛けられていた人物が俺だと言うことになっていたな。それを証言したのは、確かお前だっただろう。あの後、黒木はすぐに亡くなってしまった……前世、有耶無耶になったままだった事を、今ここで問う。何故、俺の名前を出した」
藤崎くんがとても怒っている理由。私も理解した。藤崎くんはスパイではないのに、スパイだとされた理由が黒木くんの証言だったって事?
それは怒っても、仕方ないと思う。
「それは……誰しも間違いはある事です」
「では、間違いだとわかっていながら、猫塚に俺に近づくなと言った?」
二人はしばし睨み合い、黒木くんはふうっと大きく息をついた。
「帰ります。お二人で前世の記憶でも語り合ったらどうですか。感動の再会でしょうし」
黒木くんは気に入らない様子で、私の横をすり抜けて行った。
にっ……逃げたんだよね? 藤崎くんの言っている事に、反論出来ないから?
「……猫塚」
「はっ……はいっ」
黒木くんの背中が完全に見えなくなるまで黙って見ていた藤崎くんは、私の名前を呼んだので、ビクッとしてしまった。
さっきまで怒られていたのは私ではないんだけど、迫力が凄くて怖かったんだよね。
けど……藤崎くんが怒る理由もわかる。だって、彼は裏切られたと思っていたままに、婚約者を殺されてしまっていたんだもんね。
それって、前世の私の話らしいんだけど。
「話せる? 今から」
「うっ……うん!」
そして、藤崎くんは歩き出したので、私は彼の背中を追った。
今まで私のことを殺したとんでもない人だと思っててごめんなさい……っていうか、藤崎くん背中も格好良い……。
藤崎くんがファーストフードの店に入り、私の分の飲み物を買ってくれると、静かに話し出した。
「……前世のことなんだけど」
「うんっ」
「どこまで記憶を、取り戻している?」
「あ。えっと……そうだね。亡くなった時のことだけだよ」
だから、藤崎くんのことをずっと怖い人だと思っていました。それを察した彼は、大きく息をついて話し出した。
「俺はね。結構戻っている。猫塚が亡くなった後も、ずっと生きていた。あの世界では自ら命を断つと生まれ変われないって言われていて……老衰で死ぬまで生きていた」
「そうなんだ」
私は軽く頷いた。
あの時、今にも国が滅ぼされんとしていた時だったけど、藤崎くんは助かったんだ。
良かったなあって思った。お姫様は婚約者のことをすごく好きだったし、好きな人が長く生きていてくれた方が良いだろうってそう思うし……。
「……前世の記憶って……記憶では俺なんだけど、自分でもないって思うよね。俺は確かにここで生まれ変わったんだけど、前世では猫塚の前世の人のことを愛していたんだ。すごく……けど、誤解されたまま亡くなったという後悔の念は、ずっと残っていた」
苦しそうに、藤崎くんは言った。
そうなんだ。ずっと……けど、お姫様は誰から何を言われようと、ずっと婚約者のことを信じていたんだよね。
彼女が亡くなってしまう。最期の瞬間まで。
「あの……あの、お姫様はずっと婚約者のこと、信じていたよ。周囲の人からは裏切ったと言われていたけど、ずっと信じていた。だから、裏切ったって思ったまま、亡くなってないと思う」
これって、もしかしたら、慰めにはならないかもしれない。
婚約者は彼女を喪ったことは確かで、前世の婚約者に会うために、自ら命を断つこともなく寿命を全うしたのだ。
それって、すごい愛だ。
だから、そんな人の記憶を持つ彼に、お姫様は愛して信じたままで亡くなったんだよって伝えたかった。
「そうなのか……」
藤崎くんは大きく息をついた。
前世の中でスパイが居て、情報が漏れて、そして、王様は殺されてしまって、もう滅びる寸前だった。
そして、信じていた婚約者が帰って来た途端に、お姫様は殺されてしまった。
「ああ。そうだろうな。だが、何故かスパイの疑いを掛けられていた人物が俺だと言うことになっていたな。それを証言したのは、確かお前だっただろう。あの後、黒木はすぐに亡くなってしまった……前世、有耶無耶になったままだった事を、今ここで問う。何故、俺の名前を出した」
藤崎くんがとても怒っている理由。私も理解した。藤崎くんはスパイではないのに、スパイだとされた理由が黒木くんの証言だったって事?
それは怒っても、仕方ないと思う。
「それは……誰しも間違いはある事です」
「では、間違いだとわかっていながら、猫塚に俺に近づくなと言った?」
二人はしばし睨み合い、黒木くんはふうっと大きく息をついた。
「帰ります。お二人で前世の記憶でも語り合ったらどうですか。感動の再会でしょうし」
黒木くんは気に入らない様子で、私の横をすり抜けて行った。
にっ……逃げたんだよね? 藤崎くんの言っている事に、反論出来ないから?
「……猫塚」
「はっ……はいっ」
黒木くんの背中が完全に見えなくなるまで黙って見ていた藤崎くんは、私の名前を呼んだので、ビクッとしてしまった。
さっきまで怒られていたのは私ではないんだけど、迫力が凄くて怖かったんだよね。
けど……藤崎くんが怒る理由もわかる。だって、彼は裏切られたと思っていたままに、婚約者を殺されてしまっていたんだもんね。
それって、前世の私の話らしいんだけど。
「話せる? 今から」
「うっ……うん!」
そして、藤崎くんは歩き出したので、私は彼の背中を追った。
今まで私のことを殺したとんでもない人だと思っててごめんなさい……っていうか、藤崎くん背中も格好良い……。
藤崎くんがファーストフードの店に入り、私の分の飲み物を買ってくれると、静かに話し出した。
「……前世のことなんだけど」
「うんっ」
「どこまで記憶を、取り戻している?」
「あ。えっと……そうだね。亡くなった時のことだけだよ」
だから、藤崎くんのことをずっと怖い人だと思っていました。それを察した彼は、大きく息をついて話し出した。
「俺はね。結構戻っている。猫塚が亡くなった後も、ずっと生きていた。あの世界では自ら命を断つと生まれ変われないって言われていて……老衰で死ぬまで生きていた」
「そうなんだ」
私は軽く頷いた。
あの時、今にも国が滅ぼされんとしていた時だったけど、藤崎くんは助かったんだ。
良かったなあって思った。お姫様は婚約者のことをすごく好きだったし、好きな人が長く生きていてくれた方が良いだろうってそう思うし……。
「……前世の記憶って……記憶では俺なんだけど、自分でもないって思うよね。俺は確かにここで生まれ変わったんだけど、前世では猫塚の前世の人のことを愛していたんだ。すごく……けど、誤解されたまま亡くなったという後悔の念は、ずっと残っていた」
苦しそうに、藤崎くんは言った。
そうなんだ。ずっと……けど、お姫様は誰から何を言われようと、ずっと婚約者のことを信じていたんだよね。
彼女が亡くなってしまう。最期の瞬間まで。
「あの……あの、お姫様はずっと婚約者のこと、信じていたよ。周囲の人からは裏切ったと言われていたけど、ずっと信じていた。だから、裏切ったって思ったまま、亡くなってないと思う」
これって、もしかしたら、慰めにはならないかもしれない。
婚約者は彼女を喪ったことは確かで、前世の婚約者に会うために、自ら命を断つこともなく寿命を全うしたのだ。
それって、すごい愛だ。
だから、そんな人の記憶を持つ彼に、お姫様は愛して信じたままで亡くなったんだよって伝えたかった。
「そうなのか……」
藤崎くんは大きく息をついた。
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