9 / 18
09 テスト休み中の家庭教師①
しおりを挟む
「ここはここを、代入して……」
さすがに学年トップの藤崎くんの教え方は控えめに言っても、とてもわかりやすい。
実際問題、青丘中学は私立で進学校で授業の進みは、公立中学に比較してもかなり早いらしい。
だから、選ばれし者しか入れない進学校とは言え、私以外にだって取り残されてしまっている子も居ると聞く。
勉強を教えてくれるので、ひとつ机を挟んで藤崎くんは私の前の席を使い、振り返って座っていた。
しかし、藤崎くんには前世の記憶があるのかというのがまず先に気になってしまい、いまいち飲み込めない。
私たち前世で婚約者だったらしいんですけど、もしかして、そちらも何か思い出されていらっしゃいます……?
なんて、面と向かって聞けるはずもなく、私は上の空で声変わりしたてのような低い声での数学の説明を聞いているしかない。
こんな事態にした犯人絵里香ちゃんは部活があると言って、去って行ってしまった。
彼女には何の悪気もなく私が喜んでくれるだろうと望みを叶えてくれただけだというのに、少々憎らしい気持ちになってしまう事には仕方ない。
だって、あの夢が前世の記憶だったという確信を得ることになるなんて、思わなかったもの。
「……あの、聞いてる?」
「きっ……聞いてるよ!」
解き方を説明していたはずの藤崎くんにいぶかしげに確認された私は、慌てて言った。
わざわざ時間を割いて教えて頂いているという立場なのに、なんという失礼をしてしまっているのか……。
いや、顔を上げたら整った藤崎くんと目が合って慌てて椅子を引いたら、思ったより大きな音がして私の方が驚いてしまった。
「大丈夫……?」
「大丈夫!」
藤崎くんの質問に答えるしか出来ていないけれど、何を言って良いのかわからないのだ。
つい数時間前まで、藤崎くんは話したこともない好きな人で、その時の私ならばこんなシチュエーションは喜びでしかなかったはずだ。
けれど、今は……証人も居る前世の婚約者で……私を殺した人。
今世は関係ないって頭のどこかに居る常識的な私は思うんだけど、やっぱりそれは気になるよ。
自分が亡くなった場面しか思い出していないけれど、あの時のお姫様は『愛していた婚約者を最期まで信じていたけれど、その彼に殺されてしまった』んだもの。
前世のこの人なんだよね。
「うん。なら良いんだけど……」
藤崎くんはいきなりおかしな動きをした私に、苦笑していた。きっと、変な女だと思っていると思う。
こんなにも、格好よい人にそう思われてしまうのは悲しい。好きな人どうこうでもなく、女性は格好良い男性を本能的に好きで、そういう人に嫌われてしまうと悲しいものなのだと思う。
「ごめんね……なんだか、緊張しちゃって」
「いや、初対面だし仕方ないよ。続きは、また明日にする?」
続きをするのは当たり前だよねと言わんばかりに藤崎くんが発した言葉に、私の動きは止まってしまった。
「……え?」
「あれ? 聞いて無い? 俺の部活休みの間、放課後に勉強教えるように頼まれてる。さっきの……あの女の子から」
えっ……絵里香ちゃーん!! なんという……友情に厚い優しい女、余計なことしてくれちゃって……本来なら絶対、嬉しいけど、嬉しいけどー!!!
今日だけだと思っていたのに、本当にですか……。
にこにこしてそう言った藤崎くんに、私は何も言えずに固まるしかなかった。
さすがに学年トップの藤崎くんの教え方は控えめに言っても、とてもわかりやすい。
実際問題、青丘中学は私立で進学校で授業の進みは、公立中学に比較してもかなり早いらしい。
だから、選ばれし者しか入れない進学校とは言え、私以外にだって取り残されてしまっている子も居ると聞く。
勉強を教えてくれるので、ひとつ机を挟んで藤崎くんは私の前の席を使い、振り返って座っていた。
しかし、藤崎くんには前世の記憶があるのかというのがまず先に気になってしまい、いまいち飲み込めない。
私たち前世で婚約者だったらしいんですけど、もしかして、そちらも何か思い出されていらっしゃいます……?
なんて、面と向かって聞けるはずもなく、私は上の空で声変わりしたてのような低い声での数学の説明を聞いているしかない。
こんな事態にした犯人絵里香ちゃんは部活があると言って、去って行ってしまった。
彼女には何の悪気もなく私が喜んでくれるだろうと望みを叶えてくれただけだというのに、少々憎らしい気持ちになってしまう事には仕方ない。
だって、あの夢が前世の記憶だったという確信を得ることになるなんて、思わなかったもの。
「……あの、聞いてる?」
「きっ……聞いてるよ!」
解き方を説明していたはずの藤崎くんにいぶかしげに確認された私は、慌てて言った。
わざわざ時間を割いて教えて頂いているという立場なのに、なんという失礼をしてしまっているのか……。
いや、顔を上げたら整った藤崎くんと目が合って慌てて椅子を引いたら、思ったより大きな音がして私の方が驚いてしまった。
「大丈夫……?」
「大丈夫!」
藤崎くんの質問に答えるしか出来ていないけれど、何を言って良いのかわからないのだ。
つい数時間前まで、藤崎くんは話したこともない好きな人で、その時の私ならばこんなシチュエーションは喜びでしかなかったはずだ。
けれど、今は……証人も居る前世の婚約者で……私を殺した人。
今世は関係ないって頭のどこかに居る常識的な私は思うんだけど、やっぱりそれは気になるよ。
自分が亡くなった場面しか思い出していないけれど、あの時のお姫様は『愛していた婚約者を最期まで信じていたけれど、その彼に殺されてしまった』んだもの。
前世のこの人なんだよね。
「うん。なら良いんだけど……」
藤崎くんはいきなりおかしな動きをした私に、苦笑していた。きっと、変な女だと思っていると思う。
こんなにも、格好よい人にそう思われてしまうのは悲しい。好きな人どうこうでもなく、女性は格好良い男性を本能的に好きで、そういう人に嫌われてしまうと悲しいものなのだと思う。
「ごめんね……なんだか、緊張しちゃって」
「いや、初対面だし仕方ないよ。続きは、また明日にする?」
続きをするのは当たり前だよねと言わんばかりに藤崎くんが発した言葉に、私の動きは止まってしまった。
「……え?」
「あれ? 聞いて無い? 俺の部活休みの間、放課後に勉強教えるように頼まれてる。さっきの……あの女の子から」
えっ……絵里香ちゃーん!! なんという……友情に厚い優しい女、余計なことしてくれちゃって……本来なら絶対、嬉しいけど、嬉しいけどー!!!
今日だけだと思っていたのに、本当にですか……。
にこにこしてそう言った藤崎くんに、私は何も言えずに固まるしかなかった。
26
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
わたしの婚約者は学園の王子さま!
久里
児童書・童話
平凡な女子中学生、野崎莉子にはみんなに隠している秘密がある。実は、学園中の女子が憧れる王子、漣奏多の婚約者なのだ!こんなことを奏多の親衛隊に知られたら、平和な学校生活は望めない!周りを気にしてこの関係をひた隠しにする莉子VSそんな彼女の態度に不満そうな奏多によるドキドキ学園ラブコメ。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?
待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。
けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た!
……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね?
何もかも、私の勘違いだよね?
信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?!
【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!
かつて聖女は悪女と呼ばれていた
楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」
この聖女、悪女よりもタチが悪い!?
悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!!
聖女が華麗にざまぁします♪
※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨
※ 悪女視点と聖女視点があります。
※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
稀代の悪女は死してなお
楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」
稀代の悪女は処刑されました。
しかし、彼女には思惑があるようで……?
悪女聖女物語、第2弾♪
タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……?
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる