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06 前世の確信②
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私はそれから、黒木くんがとても気になるようになった。
全然、全く……異性として、好きでもないのに。
黒木くん本人が聞けば『こっちだって別に好きでもないし、失礼な話だ』と思われるかもしれないけれど、実際問題そういうことなので仕方ない。私側の恋愛感情は0だと思う。
それなのに、入学式の日に一目惚れをした藤崎くんより、断然気になっている。唯一定期的に彼を見ることの出来る昼休みだって、黒木くんを思わず探してしまうほどである。
……思い出したのかと思った……って、何? 何を? あの中世風の世界観での出来事?
これが頭の中をぐるぐる回って、どこまでも終わらないのだ。
けど、だからって『私ってもしかして、前世裏切られたお姫様だったこと、知ってたりする?』なんて、聞ける訳がない。
いわゆる中二病って言うか、私たちってその通りそういう世代だし……若干、可哀想な目で見られるかもしれないけど『今だけの一過性で、そういうものだからね』と慰められるかもしれない。
聞けない。けど、聞きたい。聞けない。
あんな夢を見てさえなかったら、こっちが意味ありげなことを言いがちな世代だし仕方ないよねと、さらっと流せたかもしれないのに!!
「きっ……気になるっ……!」
黒木くんのあの謎一言が気になってたまらない私は、三日経ってから居ても立ってもいられなくなっていた。だって、普通のことなら黒木くんに直接聞けば良い話だ。
けど、これは私の社会的信用を落としてしまうかもしれない、かなり危険な質問だもの。
これだって使いようによっては『前世お姫様なんだよね♡』というそういうキャラ付けさえしてしまえば、皆の人気者になる道だってあるかもしれない。
けど、それって凡人の私には、難易度高すぎるけど……! 神クラスのユーモアセンスとお姫様レベルの容姿が要るよね。私、両方ないから無理だと思うの。絶対無理。
黒木くんが友達に『あいつ、自分の前世お姫様だと思っているらしいよ』とひそひそ声で聞いているところまで想像出来ちゃって、待って待って止めて止めて、別にそういう訳でもないんだけどー!?
「美波ちゃん。どうしたの?」
「えっ……絵里香ちゃんっ!」
授業中なのに、席を立って私に質問を!? と思ったら、色々と妄想し過ぎて既に休み時間だった。
このところ授業中でも気になって堪らない、黒木くんのあの一言を考えている間に休み時間になっていたみたいで私は慌てた。
えっ……待って。課題とか次の授業範囲、聞くの忘れてた!
「考え事してたら、授業終わってた……」
「うん。私後ろの席からずっと見てたんだけど、美波ちゃんすっごく悩んでいるのがわかって面白かったよ」
言葉の通り、面白かったと思って居そうな絵里香ちゃんは、悪気なく言った。
人を楽しませることが出来たなら、私の悩みにも意義があって……なんて、そういうあれでもなくて!
「うん。そうなんだよね……実は、気になっていることがあるんだけど、当人には聞けなくて……」
「え。そうなの? 美波ちゃんって、なんでもすぐに相手に聞いちゃいそうなのに……あっ……そういえば、美波ちゃんに良いニュースがあるんだけど……」
「え? 何々?」
絵里香ちゃんが何か言いそうになったところで、ガラッと引き戸が開いて、担任の先生のダミ声が教室に響いた。
「集会があるから集まれー」
二時間目の終わりに、たまに校内集会がある。それが今日だったみたい。
これから全校生徒が体育館に集まらないといけないし、出席番号順だから熱塚と吉沢は離ればなれになるしかない。短い別離の瞬間。
「あ。今日、集会あるんだ! 後から言うね!」
そう言って、機嫌良さそうな笑顔の絵里香ちゃんは奥の扉から去って行った。
私は廊下に出て出席番号順に並んだ。ここで整列が出来れば、A組から出発して順に体育館に向かって行く。私たちはC組なので、ここで待っている事しか出来ない。
そして、私が今一番に気になる人物、黒木くんの姿が目に入った。あの目が細い狐顔……特徴的なあの顔が夢の中に出て来てもおかしくないよね。
パッと彼と目が合ったけど、黒木くんは、なぜかわざとらしく視線を逸らした。
……どうして、そんなに思わせぶりなの?
もう決めた。これは、聞くしかない。本人に。
私はそう決めた。ええ。決めました。何言われても気になるから、もう本人に直接聞く。
言いたい人は中二病でもなんでも、なんとでも好きに言えば良いと思う。けど、私はこれから中二病を公言して生きることにする。
気になっていることを気になっているまま解決せずに生きて行くなんて、絶対に無理。
集会が終わり、列がばらけて各自教室へと帰りだした時、私は一人で前を行く黒木くんの肩を叩いた。
「ねえ。もしかして、婚約者に裏切られて亡くなったお姫様に私似てない?」
校長先生の退屈な話を聞きながら、私はずーっとこの聞き方について考えていた。これならばギリギリのラインで、お姫様願望女子ではないかと思って貰えるかも知れない。
黒木くんは細い目を細めて、噛みしめるようにして呟いた。
「やっぱり、思い出したんだ……猫塚さん」
そして、私と黒木くんは立ち止まって、黙ったまま見つめ合った。
全然、全く……異性として、好きでもないのに。
黒木くん本人が聞けば『こっちだって別に好きでもないし、失礼な話だ』と思われるかもしれないけれど、実際問題そういうことなので仕方ない。私側の恋愛感情は0だと思う。
それなのに、入学式の日に一目惚れをした藤崎くんより、断然気になっている。唯一定期的に彼を見ることの出来る昼休みだって、黒木くんを思わず探してしまうほどである。
……思い出したのかと思った……って、何? 何を? あの中世風の世界観での出来事?
これが頭の中をぐるぐる回って、どこまでも終わらないのだ。
けど、だからって『私ってもしかして、前世裏切られたお姫様だったこと、知ってたりする?』なんて、聞ける訳がない。
いわゆる中二病って言うか、私たちってその通りそういう世代だし……若干、可哀想な目で見られるかもしれないけど『今だけの一過性で、そういうものだからね』と慰められるかもしれない。
聞けない。けど、聞きたい。聞けない。
あんな夢を見てさえなかったら、こっちが意味ありげなことを言いがちな世代だし仕方ないよねと、さらっと流せたかもしれないのに!!
「きっ……気になるっ……!」
黒木くんのあの謎一言が気になってたまらない私は、三日経ってから居ても立ってもいられなくなっていた。だって、普通のことなら黒木くんに直接聞けば良い話だ。
けど、これは私の社会的信用を落としてしまうかもしれない、かなり危険な質問だもの。
これだって使いようによっては『前世お姫様なんだよね♡』というそういうキャラ付けさえしてしまえば、皆の人気者になる道だってあるかもしれない。
けど、それって凡人の私には、難易度高すぎるけど……! 神クラスのユーモアセンスとお姫様レベルの容姿が要るよね。私、両方ないから無理だと思うの。絶対無理。
黒木くんが友達に『あいつ、自分の前世お姫様だと思っているらしいよ』とひそひそ声で聞いているところまで想像出来ちゃって、待って待って止めて止めて、別にそういう訳でもないんだけどー!?
「美波ちゃん。どうしたの?」
「えっ……絵里香ちゃんっ!」
授業中なのに、席を立って私に質問を!? と思ったら、色々と妄想し過ぎて既に休み時間だった。
このところ授業中でも気になって堪らない、黒木くんのあの一言を考えている間に休み時間になっていたみたいで私は慌てた。
えっ……待って。課題とか次の授業範囲、聞くの忘れてた!
「考え事してたら、授業終わってた……」
「うん。私後ろの席からずっと見てたんだけど、美波ちゃんすっごく悩んでいるのがわかって面白かったよ」
言葉の通り、面白かったと思って居そうな絵里香ちゃんは、悪気なく言った。
人を楽しませることが出来たなら、私の悩みにも意義があって……なんて、そういうあれでもなくて!
「うん。そうなんだよね……実は、気になっていることがあるんだけど、当人には聞けなくて……」
「え。そうなの? 美波ちゃんって、なんでもすぐに相手に聞いちゃいそうなのに……あっ……そういえば、美波ちゃんに良いニュースがあるんだけど……」
「え? 何々?」
絵里香ちゃんが何か言いそうになったところで、ガラッと引き戸が開いて、担任の先生のダミ声が教室に響いた。
「集会があるから集まれー」
二時間目の終わりに、たまに校内集会がある。それが今日だったみたい。
これから全校生徒が体育館に集まらないといけないし、出席番号順だから熱塚と吉沢は離ればなれになるしかない。短い別離の瞬間。
「あ。今日、集会あるんだ! 後から言うね!」
そう言って、機嫌良さそうな笑顔の絵里香ちゃんは奥の扉から去って行った。
私は廊下に出て出席番号順に並んだ。ここで整列が出来れば、A組から出発して順に体育館に向かって行く。私たちはC組なので、ここで待っている事しか出来ない。
そして、私が今一番に気になる人物、黒木くんの姿が目に入った。あの目が細い狐顔……特徴的なあの顔が夢の中に出て来てもおかしくないよね。
パッと彼と目が合ったけど、黒木くんは、なぜかわざとらしく視線を逸らした。
……どうして、そんなに思わせぶりなの?
もう決めた。これは、聞くしかない。本人に。
私はそう決めた。ええ。決めました。何言われても気になるから、もう本人に直接聞く。
言いたい人は中二病でもなんでも、なんとでも好きに言えば良いと思う。けど、私はこれから中二病を公言して生きることにする。
気になっていることを気になっているまま解決せずに生きて行くなんて、絶対に無理。
集会が終わり、列がばらけて各自教室へと帰りだした時、私は一人で前を行く黒木くんの肩を叩いた。
「ねえ。もしかして、婚約者に裏切られて亡くなったお姫様に私似てない?」
校長先生の退屈な話を聞きながら、私はずーっとこの聞き方について考えていた。これならばギリギリのラインで、お姫様願望女子ではないかと思って貰えるかも知れない。
黒木くんは細い目を細めて、噛みしめるようにして呟いた。
「やっぱり、思い出したんだ……猫塚さん」
そして、私と黒木くんは立ち止まって、黙ったまま見つめ合った。
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