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01 一目惚れした人気者①
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うだるような暑さの初夏の季節。
月曜日の昼休みは狭い教室の中全員が今か今かと待ちわびて、もったいぶって現れる。
やっとのことでチャイムが鳴ったその瞬間、数学の宮地先生は次の小テストの範囲だけ言い残して去って行った。
「おわったぁ……」
これって数学の授業が終わったことを言いたかったのではなくて、私の数学の成績がすでに一年生一学期で終わったの。
おしまい。終わり。ジ・エンド。完。
……だって、不得意科目だからって一桁の点数取ってしまうなんて、信じられない。
小学校では勉強しなくても割と成績が良い方だったのに、これって進級出来ない訳ではないよね?
たとえここが周辺では偏差値一位の進学校で、今が一年生一学期で二年生になれば文系に進むとしても、あの点数はおかしい。赤点で追試なんて、恥ずかしくて絶対嫌だし……。
私は机に額を付けて、絶望を感じていた。
数学なんて絶対に将来的に使わないのに、やりたい人だけがやれば良い科目の第一位だよ。
「美波ちゃん、ご飯食べに行こうー!!」
「え、うん。行こ行こ……」
同じクラスの仲良し絵里香ちゃんに呼ばれ、顔を上げた私はランチバッグを持ちよろよろと立ち上がった。
とりあえず、今はお腹を満たそう。そうしよう。
だって、お腹空いている時と睡眠取れてない時は人は正常な判断が下せないもんだっておじいちゃんが言っていたもん。
「……どうする? いつもの場所行く?」
歩き出した私に近づいた絵里香ちゃんは、ひそひそ声で言った。
私たちの通う青丘中学校では給食がなくて、購買でパンを買うか、食券買って食堂か、持って来たお弁当を食べるかの三択になる。
校風は結構自由で、昼休みは皆校庭に出たり屋上で食べたり、先輩たちだって好きな場所で好きなように食べている。
「もちろんだよ! 藤崎くん見て元気出さないと、もう死んじゃう……」
「えっ……何か嫌なことでもあったの?」
落ち込んだ様子に驚いているショートカットで快活そうな印象の絵里香ちゃんは、頭が良く真面目な優等生タイプ。
必死で勉強して偏差値の高い私立青丘中学校に入学した私の数学の小テストの点数を聞いたら、多分驚いてしまうはず。
「だって、数学がもうすでに追いつけてないよー! はー……藤崎くんに勉強教えてもらえないかな」
ランチバッグを振り回しながら、私は廊下を歩きそう言った。隣を歩く絵里香ちゃんは苦笑して言った。
「……それは、美波ちゃんが向こうに話しかけてからだよね」
それは、本当にごもっともな意見だ。けど、私自身だってわかっているけれど、すごく解決しづらい問題である。
恥ずかしくて話しかけられない。
そういう理由で私と藤崎くんは全然話したことがないし、一回だけニアミスで助けて貰ったことがあるけど、彼の目には私はその他大勢の中の一人でしかなかった。
私が入学式で一目惚れした藤崎優也くんは、新入生代表で中間テスト一位だった。つまり、秀才揃いのこの高校で入試一位だってこと。
それだけでも凄いのに、彼は長身で姿勢良く黒いサラサラした髪に印象的なくらい真っ黒な色味の瞳。
そして、アイドルって言われても『それはそうだよね』と、思わず信じてしまうくらいに凛々しく整った顔。
もう、とにかく格好良いのだ。
藤崎くんがいつも昼食を取るのは、校庭にある日当たりの良いベンチだ。
全部で四人の男の子たちでわいわい言いながらご飯を食べて、終わったら近くにあるバスケットコートで、2on2で遊んでいるみたい。
周囲の男子はぼやけて見えて、彼だけやけにくっきりと見える気がする好きな人の横顔を見ながら、私はお母さんの作ったサンドイッチを食べていた。
「はーあ……何かきっかけないかなぁ……」
藤崎くんから私が話掛けられることは、一生ないと思う。
だって、自分で言うのもなんだけど、私ってば全然目立つ方でもないし……他と比較して何か特筆すべき点があるかと言うと、性格的に明るくて元気いっぱいなことくらい。
彼からは認識すらされていないのに、色々とすっ飛ばした上で勉強を教えて貰いたいなんて、そんな事言えるはずもなかった……。
月曜日の昼休みは狭い教室の中全員が今か今かと待ちわびて、もったいぶって現れる。
やっとのことでチャイムが鳴ったその瞬間、数学の宮地先生は次の小テストの範囲だけ言い残して去って行った。
「おわったぁ……」
これって数学の授業が終わったことを言いたかったのではなくて、私の数学の成績がすでに一年生一学期で終わったの。
おしまい。終わり。ジ・エンド。完。
……だって、不得意科目だからって一桁の点数取ってしまうなんて、信じられない。
小学校では勉強しなくても割と成績が良い方だったのに、これって進級出来ない訳ではないよね?
たとえここが周辺では偏差値一位の進学校で、今が一年生一学期で二年生になれば文系に進むとしても、あの点数はおかしい。赤点で追試なんて、恥ずかしくて絶対嫌だし……。
私は机に額を付けて、絶望を感じていた。
数学なんて絶対に将来的に使わないのに、やりたい人だけがやれば良い科目の第一位だよ。
「美波ちゃん、ご飯食べに行こうー!!」
「え、うん。行こ行こ……」
同じクラスの仲良し絵里香ちゃんに呼ばれ、顔を上げた私はランチバッグを持ちよろよろと立ち上がった。
とりあえず、今はお腹を満たそう。そうしよう。
だって、お腹空いている時と睡眠取れてない時は人は正常な判断が下せないもんだっておじいちゃんが言っていたもん。
「……どうする? いつもの場所行く?」
歩き出した私に近づいた絵里香ちゃんは、ひそひそ声で言った。
私たちの通う青丘中学校では給食がなくて、購買でパンを買うか、食券買って食堂か、持って来たお弁当を食べるかの三択になる。
校風は結構自由で、昼休みは皆校庭に出たり屋上で食べたり、先輩たちだって好きな場所で好きなように食べている。
「もちろんだよ! 藤崎くん見て元気出さないと、もう死んじゃう……」
「えっ……何か嫌なことでもあったの?」
落ち込んだ様子に驚いているショートカットで快活そうな印象の絵里香ちゃんは、頭が良く真面目な優等生タイプ。
必死で勉強して偏差値の高い私立青丘中学校に入学した私の数学の小テストの点数を聞いたら、多分驚いてしまうはず。
「だって、数学がもうすでに追いつけてないよー! はー……藤崎くんに勉強教えてもらえないかな」
ランチバッグを振り回しながら、私は廊下を歩きそう言った。隣を歩く絵里香ちゃんは苦笑して言った。
「……それは、美波ちゃんが向こうに話しかけてからだよね」
それは、本当にごもっともな意見だ。けど、私自身だってわかっているけれど、すごく解決しづらい問題である。
恥ずかしくて話しかけられない。
そういう理由で私と藤崎くんは全然話したことがないし、一回だけニアミスで助けて貰ったことがあるけど、彼の目には私はその他大勢の中の一人でしかなかった。
私が入学式で一目惚れした藤崎優也くんは、新入生代表で中間テスト一位だった。つまり、秀才揃いのこの高校で入試一位だってこと。
それだけでも凄いのに、彼は長身で姿勢良く黒いサラサラした髪に印象的なくらい真っ黒な色味の瞳。
そして、アイドルって言われても『それはそうだよね』と、思わず信じてしまうくらいに凛々しく整った顔。
もう、とにかく格好良いのだ。
藤崎くんがいつも昼食を取るのは、校庭にある日当たりの良いベンチだ。
全部で四人の男の子たちでわいわい言いながらご飯を食べて、終わったら近くにあるバスケットコートで、2on2で遊んでいるみたい。
周囲の男子はぼやけて見えて、彼だけやけにくっきりと見える気がする好きな人の横顔を見ながら、私はお母さんの作ったサンドイッチを食べていた。
「はーあ……何かきっかけないかなぁ……」
藤崎くんから私が話掛けられることは、一生ないと思う。
だって、自分で言うのもなんだけど、私ってば全然目立つ方でもないし……他と比較して何か特筆すべき点があるかと言うと、性格的に明るくて元気いっぱいなことくらい。
彼からは認識すらされていないのに、色々とすっ飛ばした上で勉強を教えて貰いたいなんて、そんな事言えるはずもなかった……。
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