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45 轟音②

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 ルシアが絶望しかけたその時、空の上で何かが大きく弾けたかのような、とんでもない轟音が響いた。

 その部屋に居たルシアの姿を持つエリザベスと、悪辣な犯罪者は動揺し、上を見上げ戸惑っているようだった。

(……今よ!)

 それを好機と見たルシアは彼らの脇をすり抜け、鍵の掛かっていない扉を開けて部屋を飛び出した。

「くそ……待て!」

 彼女を呼び止める声が聞こえたが、まさか待つ訳もなく、エリザベスの姿を持つルシアは玄関の方向へと駆け抜けた。

「おや……エリザベス様。どうかなさいましたか?」

 廊下を走って来たルシアを見て、初老の執事は不思議そうにしていた。落ち着いている彼を見て、あれはエリザベスとあの犯罪者だけしか知らないのだと思った。

(……ここはワーリントン公爵邸だわ。ここで密かに私と成り代わって、カミーユ殿下を騙しユスターシュ伯爵家を乗っ取る気だったのね。絶対に許さないわ)

 折よくこの執事は、ルシアのことをエリザベスと思っている。それならば、エリザベスとあの犯罪者よりも、この姿を持つこちらの命令を聞くだろう。

「……城へ行くわ。急ぎよ。早く馬車を用意しなさい」

 居丈高に命令し早くしろと廊下の先を指差した。

「かしこまりました! すぐに、玄関に馬車を回して参ります」

 焦っている執事は、走って玄関ホールへと行った。

 流石にあの二人は、すぐにはここへ駆けつけて来ない。この状況でエリザベスの姿を持つ偽物だと言ったところで、自分たちの犯罪を明かしてしまうのがオチだろう。

(……あの大きな音は、一体なんだったのかしら? よくわからないけれど、助かったわ)

 ルシアがユスターシュ邸へと向かったのは昼日中、今はもうとっぷり日が暮れた夜のようだ。

 ルシアはすぐに用意された馬車に乗り込み、城へと向かった。

 城の中は、何かあったのか騒々しい。

 それは、カミーユの宮に行くに従って混乱は大きくなり、廊下を行き交う者の慌ただしい様子だった。ルシアは急いでいたものの、エリザベスのふくよかな身体は、早足の度に揺れて歩きにくかった。

 そこに、カミーユが身体の大きな騎士を何人か引き連れて現れ、ルシアは歓喜した。彼ならば、この苦境を必ず救ってくれると思ったからだ。

「カミーユ……様!」

 王族の彼をこの場で呼び捨てしてしまいそうになり、ルシアは慌てて敬称を付けた。

「なんだ。ワーリントンの……今は急ぎだ!」

 怒っているカミーユに氷のように冷たい視線を向けられ、ルシアは戦慄した。

(怖い……以前に、私が向けられていたよりも、もっと冷たい視線……カミーユってこんな人だったんだ)

 『氷の王子様』の異名に相応しい冷たい態度と、厳しい視線。それに晒されながら、ルシアはここで自分がルシア・ユスターシュである証明をなんとかせねばと思った。

「……あの、シャンペル卿は……どこにいらっしゃいますか? カミーユ殿下」

 震える声で咄嗟にそう聞き、カミーユはそれを聞いて不機嫌に顔を顰めた。

「なんだ。お前がヒューバートに、何の用がある? 言っとくがあいつは面食いで……待て。もしかして、お前」

 カミーユがその時、何かに気がついたようだった。

 目の前にはいつもとは違う怯えた様子のエリザベスに、忽然と姿を消し居なくなってしまったルシア。

 それに、先ほど彼女が発した言葉を聞いて、何かを思ったはずだ。

(どうか、気がついて! カミーユと私の二人しか、この話はわからないはず……)

 エリザベスの姿をしたルシアは、彼を懸命に見つめた。

「待て……話を聞く。部屋を用意しろ。お前、そうか。そうなんだな?」

 確認するようにカミーユが聞いたので、ルシアは涙を流して何度も頷いた。

(やっぱり……カミーユは姿が違っても、気がついてくれた!)

 カミーユはそんな彼女を見て、素早く駆け寄り、背中に手を当てるとすぐに用意されたという部屋へ向かった。
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