40 / 60
40 仕返し①
しおりを挟む
ユスターシュ伯爵夫婦が本物の彼らは何年も前に殺され、あれは成り代わった犯罪者だったという知らせがウィスタリア王国に駆け抜けた。
手広く商売を手がけ、大きな船団をいくつも持つユスターシュ伯爵家は、別人に乗っ取られていて麻薬密輸などの犯罪にも手を染めていたんだと、とんでもない騒ぎになった。
ユスターシュ伯爵令嬢ルシアはその中で、可哀想な悲劇の主人公として、誰もに同情される存在になっていた。
既に社交界デビューも済ませているはずの年齢にも関わらず、家のために身を粉にして働き、身を飾ることも許されずに偽の両親には虐待されていた。
第二王子カミーユ・ヴィメールにそれを救われ、氷の王子と呼ばれた彼の心を溶かした奇跡の恋物語の貴族令嬢として誰もが彼女を英雄視し讃えていた。
(気まずいわ……)
貴族令嬢らしい恰好をしたルシアは城内を歩いているだけだというのに、熱っぽい視線を男女共に向けられて居た堪れない思いだった。
犯罪者の魔の手から逃れたユスターシュ伯爵邸には、騎士団の仕事が整理付き次第、次代ユスターシュ伯爵となる叔父マーティンが家族を連れて帰る事になった。
そして、ルシアは第二王子カミーユの仮の婚約者として、彼の宮に留まっていた。
即位前で今は実質の政務を任された王太子アダムスも。今まで女性を寄せ付けなかった弟カミーユがルシアと結婚したいと言い出したことを歓迎し、保護のためにも城に居るようにと言い渡したのだ。
ルシアは部屋に閉じ籠っていることに飽きて、城の中を歩けば誰もが自分を物語の主人公のように褒め讃え、偽両親の詳しい話を聞きたがったりした。
けれど、今はまだ彼らは捕まらず捜査中で、そんな中にルシアしか知らぬ情報を明かしてしまう訳にもいかない。申し訳なく思いながらもそれを理由に話せないと告げれば残念そうな表情で引き下がってはくれるが、ひっきりなしにそんな面々は現れた。
ようやく、そんな状態が落ち着き、部屋へ移動しようとすると遠くから声を掛けられた。
「あら……! そちらは、ルシア・ユスターシュ伯爵令嬢ではなくて?」
いかにも高位貴族令嬢らしい女性が廊下の先に居て、ひと目を気にしながらにも歩いていたルシアに気が付いたようだ。
ルシアはこの時、聞こえなかった振りをして通り過ぎるか数秒迷った。彼女との距離はかなり遠く、大きな声で呼び止められるような女性が、まともであるとはとても思えなかった。
しかし、大声でルシアを呼んだ女性は、ふっくらとした身体に纏ったドレスを揺らし早足で彼女に近付いて来た。
(に……逃げられないわ!)
ルシアはこれは見ないふり聞こえないふりをするのは無理だろうと、大人しくその場に留まり、高位貴族令嬢らしき彼女の訪れを待った。
靴音も高らかにルシアの前に現れた女性は、頭のてっぺんから靴の先までじろじろと観察し、可哀想な存在を見るように猫撫で声を出した。
「あら……あらあらあら……両親を騙る犯罪者二人と同じ邸で暮らしていたというのに、まったく怪我もないようで良かったわ。ああ……私のことは、知らないわよね。これまでに虐待されて社交界デビューも出来なかったんでしょう? なんて、可哀想なの!」
ルシアの身の上を勝手に嘆き出した彼女に、面を喰らってしまった。
ふくよかな身体に豊かな胸を持つと言えば聞こえが良いが、飽食の余り肉を過分に増やしてしまったらしく、彼女は大袈裟に身体を揺らすたびに肉が揺れていた。
(え……何……何なの)
手広く商売を手がけ、大きな船団をいくつも持つユスターシュ伯爵家は、別人に乗っ取られていて麻薬密輸などの犯罪にも手を染めていたんだと、とんでもない騒ぎになった。
ユスターシュ伯爵令嬢ルシアはその中で、可哀想な悲劇の主人公として、誰もに同情される存在になっていた。
既に社交界デビューも済ませているはずの年齢にも関わらず、家のために身を粉にして働き、身を飾ることも許されずに偽の両親には虐待されていた。
第二王子カミーユ・ヴィメールにそれを救われ、氷の王子と呼ばれた彼の心を溶かした奇跡の恋物語の貴族令嬢として誰もが彼女を英雄視し讃えていた。
(気まずいわ……)
貴族令嬢らしい恰好をしたルシアは城内を歩いているだけだというのに、熱っぽい視線を男女共に向けられて居た堪れない思いだった。
犯罪者の魔の手から逃れたユスターシュ伯爵邸には、騎士団の仕事が整理付き次第、次代ユスターシュ伯爵となる叔父マーティンが家族を連れて帰る事になった。
そして、ルシアは第二王子カミーユの仮の婚約者として、彼の宮に留まっていた。
即位前で今は実質の政務を任された王太子アダムスも。今まで女性を寄せ付けなかった弟カミーユがルシアと結婚したいと言い出したことを歓迎し、保護のためにも城に居るようにと言い渡したのだ。
ルシアは部屋に閉じ籠っていることに飽きて、城の中を歩けば誰もが自分を物語の主人公のように褒め讃え、偽両親の詳しい話を聞きたがったりした。
けれど、今はまだ彼らは捕まらず捜査中で、そんな中にルシアしか知らぬ情報を明かしてしまう訳にもいかない。申し訳なく思いながらもそれを理由に話せないと告げれば残念そうな表情で引き下がってはくれるが、ひっきりなしにそんな面々は現れた。
ようやく、そんな状態が落ち着き、部屋へ移動しようとすると遠くから声を掛けられた。
「あら……! そちらは、ルシア・ユスターシュ伯爵令嬢ではなくて?」
いかにも高位貴族令嬢らしい女性が廊下の先に居て、ひと目を気にしながらにも歩いていたルシアに気が付いたようだ。
ルシアはこの時、聞こえなかった振りをして通り過ぎるか数秒迷った。彼女との距離はかなり遠く、大きな声で呼び止められるような女性が、まともであるとはとても思えなかった。
しかし、大声でルシアを呼んだ女性は、ふっくらとした身体に纏ったドレスを揺らし早足で彼女に近付いて来た。
(に……逃げられないわ!)
ルシアはこれは見ないふり聞こえないふりをするのは無理だろうと、大人しくその場に留まり、高位貴族令嬢らしき彼女の訪れを待った。
靴音も高らかにルシアの前に現れた女性は、頭のてっぺんから靴の先までじろじろと観察し、可哀想な存在を見るように猫撫で声を出した。
「あら……あらあらあら……両親を騙る犯罪者二人と同じ邸で暮らしていたというのに、まったく怪我もないようで良かったわ。ああ……私のことは、知らないわよね。これまでに虐待されて社交界デビューも出来なかったんでしょう? なんて、可哀想なの!」
ルシアの身の上を勝手に嘆き出した彼女に、面を喰らってしまった。
ふくよかな身体に豊かな胸を持つと言えば聞こえが良いが、飽食の余り肉を過分に増やしてしまったらしく、彼女は大袈裟に身体を揺らすたびに肉が揺れていた。
(え……何……何なの)
507
お気に入りに追加
2,051
あなたにおすすめの小説
騎士団専属医という美味しいポジションを利用して健康診断をすると嘘をつき、悪戯しようと呼び出した団長にあっという間に逆襲された私の言い訳。
待鳥園子
恋愛
自分にとって、とても美味しい仕事である騎士団専属医になった騎士好きの女医が、皆の憧れ騎士の中の騎士といっても過言ではない美形騎士団長の身体を好き放題したいと嘘をついたら逆襲されて食べられちゃった話。
※他サイトにも掲載あります。
黒豹の騎士団長様に美味しく食べられました
Adria
恋愛
子供の時に傷を負った獣人であるリグニスを助けてから、彼は事あるごとにクリスティアーナに会いにきた。だが、人の姿の時は会ってくれない。
そのことに不満を感じ、ついにクリスティアーナは別れを切り出した。すると、豹のままの彼に押し倒されて――
イラスト:日室千種様(@ChiguHimu)
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
【R18】騎士団長は××な胸がお好き 〜胸が小さいからと失恋したら、おっぱいを××されることになりました!~
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
「胸が小さいから」と浮気されてフラれた堅物眼鏡文官令嬢(騎士団長補佐・秘書)キティが、真面目で不真面目な騎士団長ブライアンから、胸と心を優しく解きほぐされて、そのまま美味しくいただかれてしまう話。
※R18には※
※ふわふわマシュマロおっぱい
※もみもみ
※ムーンライトノベルズの完結作
異世界の学園で愛され姫として王子たちから(性的に)溺愛されました
空廻ロジカ
恋愛
「あぁ、イケメンたちに愛されて、蕩けるようなエッチがしたいよぉ……っ!」
――櫟《いちい》亜莉紗《ありさ》・18歳。TL《ティーンズラブ》コミックを愛好する彼女が好むのは、逆ハーレムと言われるジャンル。
今夜もTLコミックを読んではひとりエッチに励んでいた亜莉紗がイッた、その瞬間。窓の外で流星群が降り注ぎ、視界が真っ白に染まって……
気が付いたらイケメン王子と裸で同衾してるって、どういうこと? さらに三人のタイプの違うイケメンが現れて、亜莉紗を「姫」と呼び、愛を捧げてきて……!?
色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました
灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。
恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。
【R-18】記憶喪失な新妻は国王陛下の寵愛を乞う【挿絵付】
臣桜
恋愛
ウィドリントン王国の姫モニカは、隣国ヴィンセントの王子であり幼馴染みのクライヴに輿入れする途中、謎の刺客により襲われてしまった。一命は取り留めたものの、モニカはクライヴを愛した記憶のみ忘れてしまった。モニカと侍女はヴィンセントに無事受け入れられたが、クライヴの父の余命が心配なため急いで結婚式を挙げる事となる。記憶がないままモニカの新婚生活が始まり、彼女の不安を取り除こうとクライヴも優しく接する。だがある事がきっかけでモニカは頭痛を訴えるようになり、封じられていた記憶は襲撃者の正体を握っていた。
※全体的にふんわりしたお話です。
※ムーンライトノベルズさまにも投稿しています。
※表紙はニジジャーニーで生成しました
※挿絵は自作ですが、後日削除します
大事な姫様の性教育のために、姫様の御前で殿方と実演することになってしまいました。
水鏡あかり
恋愛
姫様に「あの人との初夜で粗相をしてしまうのが不安だから、貴女のを見せて」とお願いされた、姫様至上主義の侍女・真砂《まさご》。自分の拙い閨の経験では参考にならないと思いつつ、大事な姫様に懇願されて、引き受けることに。
真砂には気になる相手・檜佐木《ひさぎ》がいたものの、過去に一度、檜佐木の誘いを断ってしまっていたため、いまさら言えず、姫様の提案で、相手役は姫の夫である若様に選んでいただくことになる。
しかし、実演の当夜に閨に現れたのは、檜佐木で。どうも怒っているようなのだがーー。
主君至上主義な従者同士の恋愛が大好きなので書いてみました! ちょっと言葉責めもあるかも。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる