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35 真実②
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(そう……そうだわ。私の記憶がなくなってしまったのは、前世の記憶が蘇ったからだろうと思っていた……だから、あの時から両親が変わってしまっても気が付かなかったんだ)
ルブラン王国からの帰路。船内で何か大きな騒ぎがあったようだと思い返す。海に誰かが落ちて鮫に食われていたようなのだが、船員名簿にある名前は全員乗っていたのだ。だから、船員たちは首を捻っていて乗客たちも不思議だと噂していた。
(ああ。あの時……あの時に、本当の両親は……)
カミーユの話とルシアの中におぼろげにある記憶を併せれば、ユスターシュ伯爵夫妻は何もかもを奪われ、海に投げ捨てられた。
その時に、折よく前世を思い出し記憶を失わなければ、用無しになったはずの娘のルシアだって危なかったかもしれない。
「君の叔父ユスターシュ卿は、遠征の多い騎士団に属する騎士だ。何年か振りに会った兄夫婦は別人のようで、可愛がられていたはずの姪は虐げられている。兄夫婦がおかしくなったから調査して欲しいと、何度も嘆願があったと聞くが、外見はどう見ても本人たちだし、昔からの知り合いも本人に間違いないだろうと言う。だから、慎重に調査にしていた……彼の言葉は、真実だったのだ。彼の言葉を信じなかった者を管理する王家の責任でもある。すまない」
謝ってはならぬと教育されているはずの王族カミーユは、大きな衝撃を受け何も言えないままのルシアの手を握り唇を寄せた。
「……いいえ。カミーユの責任でもありません……マーティン叔父様は私を助けてくれようと、何度も動いてくださいました。そうだったのですね……あの人たちは、私の両親ではなかった」
何度だって、おかしいと思ったことはあった。実の娘ルシアを虐げ、爵位を受け継ぐことが出来ぬ弟マーティンへの嘲るような態度。
この異世界では普通ならば思いつかぬような知識を持つ娘を、結婚もさせずに使い潰そうとするその考えも、普通ならば有り得ない。
「そうだ。ユスターシュ伯爵家の持つ船団や、ウィスタリア王国での貴族という身分が欲しかったのだろう。君を政略結婚に使わないと、簡単に判断することだって当然だ。実の娘でもなく……ただ単に金銭目的の乗っ取りならば、ユスターシュ伯爵家の今後も知ったことではないというところだろう」
「確かに父も母も、ユスターシュ伯爵家がどうなろうと自分たちの知るところではないと言っておりました。そういうことだったのですね」
両親は最初から、享楽的な性格なのだろうと思っていた。だが、貴族の当主となる前に、そんな性格であれば真面目な性格の弟マーティンが、後継者に選ばれたのではないか。
「君は幼少の記憶を失っていると言ってたな。だから、本来の両親を知らないんだ……それで、命が助かったというのも皮肉なことだが……これで、君の両親を捕縛することが出来る。いや、犯罪者だ。人の身分を掠めとるなど、許されるようなことではない」
「ああ……そんな……」
はらはらと悲しげに頬に涙を流したルシアを、カミーユは優しく抱き寄せた。
「それに、ルシアがもし口を滑らせれば、命の危険があるだろう。だから、調査が終わり捕縛するに足る確たる証拠が掴めるまでは、お前本人にも何も言えなかった……すまなかった」
ユスターシュ伯爵家の継承者でもある弟一人だけの証言では、足りなかった。だから、慎重に調査をしていたと言われれば、ルシアは納得することが出来た。マーティンは兄夫婦が居なくなれば得をする人間なのだ。
(あの人たちは私から全てを奪い、ただ疑われないためにそばに置いた犯罪者なんだ。家族愛なんて、ある訳がない……だって、他人だったのだから)
「私……一人になってしまいました」
ユスターシュ伯爵家はルシア一人になり、継承権を持つ叔父の手に渡るだろう。マーティンがルシアを虐げるということは有り得ないだろうが、それでも寂しい思いだった。
「……俺はその目には、見えていないのか?」
カミーユは呆れたように軽く溜め息をつくと、泣いてるルシアに深い口づけを仕掛けた。
ルブラン王国からの帰路。船内で何か大きな騒ぎがあったようだと思い返す。海に誰かが落ちて鮫に食われていたようなのだが、船員名簿にある名前は全員乗っていたのだ。だから、船員たちは首を捻っていて乗客たちも不思議だと噂していた。
(ああ。あの時……あの時に、本当の両親は……)
カミーユの話とルシアの中におぼろげにある記憶を併せれば、ユスターシュ伯爵夫妻は何もかもを奪われ、海に投げ捨てられた。
その時に、折よく前世を思い出し記憶を失わなければ、用無しになったはずの娘のルシアだって危なかったかもしれない。
「君の叔父ユスターシュ卿は、遠征の多い騎士団に属する騎士だ。何年か振りに会った兄夫婦は別人のようで、可愛がられていたはずの姪は虐げられている。兄夫婦がおかしくなったから調査して欲しいと、何度も嘆願があったと聞くが、外見はどう見ても本人たちだし、昔からの知り合いも本人に間違いないだろうと言う。だから、慎重に調査にしていた……彼の言葉は、真実だったのだ。彼の言葉を信じなかった者を管理する王家の責任でもある。すまない」
謝ってはならぬと教育されているはずの王族カミーユは、大きな衝撃を受け何も言えないままのルシアの手を握り唇を寄せた。
「……いいえ。カミーユの責任でもありません……マーティン叔父様は私を助けてくれようと、何度も動いてくださいました。そうだったのですね……あの人たちは、私の両親ではなかった」
何度だって、おかしいと思ったことはあった。実の娘ルシアを虐げ、爵位を受け継ぐことが出来ぬ弟マーティンへの嘲るような態度。
この異世界では普通ならば思いつかぬような知識を持つ娘を、結婚もさせずに使い潰そうとするその考えも、普通ならば有り得ない。
「そうだ。ユスターシュ伯爵家の持つ船団や、ウィスタリア王国での貴族という身分が欲しかったのだろう。君を政略結婚に使わないと、簡単に判断することだって当然だ。実の娘でもなく……ただ単に金銭目的の乗っ取りならば、ユスターシュ伯爵家の今後も知ったことではないというところだろう」
「確かに父も母も、ユスターシュ伯爵家がどうなろうと自分たちの知るところではないと言っておりました。そういうことだったのですね」
両親は最初から、享楽的な性格なのだろうと思っていた。だが、貴族の当主となる前に、そんな性格であれば真面目な性格の弟マーティンが、後継者に選ばれたのではないか。
「君は幼少の記憶を失っていると言ってたな。だから、本来の両親を知らないんだ……それで、命が助かったというのも皮肉なことだが……これで、君の両親を捕縛することが出来る。いや、犯罪者だ。人の身分を掠めとるなど、許されるようなことではない」
「ああ……そんな……」
はらはらと悲しげに頬に涙を流したルシアを、カミーユは優しく抱き寄せた。
「それに、ルシアがもし口を滑らせれば、命の危険があるだろう。だから、調査が終わり捕縛するに足る確たる証拠が掴めるまでは、お前本人にも何も言えなかった……すまなかった」
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「……俺はその目には、見えていないのか?」
カミーユは呆れたように軽く溜め息をつくと、泣いてるルシアに深い口づけを仕掛けた。
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