上 下
33 / 60

33 裏帳簿②

しおりを挟む
◇◆◇


 夜明け鳥の声も聞こえぬ間に、扉を開けてくれたソフィアを見て、ルシアは静かに微笑んだ。

「……もう朝で良いですよね? すぐにお助けすることが出来ず、申し訳ございません」

 どうやらソフィアはテレンスの言い付けを守って朝を待ち、ルシアを助けようと近くに居てくれたらしい。

 ルシアは両親の犯罪の証拠となる裏帳簿を持ち、立ち上がった。

「いいえ。貴女は役目があるのだから、目立つことは避けて正解よ……今日、カミーユに会えるかしら? 連絡を付けて欲しいの。いいえ。今日でなくても、出来るだけ早く会いたいと伝えてくれる?」

 ソフィアが手にしていた毛布を肩に掛けられ、ルシアは歩き出した。

 この夜の間に、ユスターシュ伯爵家を終わらせる覚悟は出来ていた。

(それに、私が平民になってしまえば、処女でなくなってしまったことも何の不都合もないわ。ある程度の仕事は出来るのだから、両親が権力やお金を失ってさえしまえば逃げることだって出来るはずよ)

 それは、ルシアがずっと望んでいたはずのことだった。けれど、胸の痛みを無視することは出来なかった。この裏帳簿を見なかったことにしてさっきあった場所へ戻してしまえば、約束された未来があった。

 テレンスだって約束したことは確かなのだし、王族カミーユが直接出て行けば従わざるを得ないだろう。

 けれど、ルシアは秘密を抱えたままで、罪悪感を抱えながら生きていくことは出来ないと思った。

(これで良いのよ。全部、なかったことにすれば良い。カミーユと結婚出来るなんて、すべてなかったものと思えば……)

 ソフィアが今日の昼なら会えるという情報をくれて、ルシアは馬車を出してくれと御者へと指示した。

 御者はルシアからそれを言われて、変な表情になっていた。

 ルシアが城に行くのを許されていたのは、カミーユへと無駄な努力をしに行くことをテレンスが容認していたからだ。だが、仕事の妨げになるような真似をすれば、彼は娘に容赦しないだろう。

 ルシアはここで城に向かえば、両親が捕まり、自分も平民になることを覚悟していた。

 カミーユはいつも通り、パメラの元で身支度を済ませたルシアの前に現れた。

「……どうした。ルシアが会いたいと言い出すなど、珍しいな」

 彼はソファに座っていたルシアの隣に腰掛け、暗い表情のルシアの顔を覗き込んだ。

「……カミーユに、明かさなければならないことがあります」

「なんだ? 改まって……君のことなら、俺の方がかなり詳しいと思うんだが?」

 片眉を上げたカミーユに、ルシアは父の書庫から見付けた裏帳簿を渡した。

 カミーユはそれを受け取り、無言で中を見ていた。

「これだけは、言わせてください。私……殿下のことが好きです」

 静かにそう言った彼女の言葉を聞いて、カミーユはルシアを抱き寄せた。

「……ありがとう。これで、すべての証拠が揃った」

「え?」

 彼との別れを覚悟していたルシアは、整った顔に嬉しそうな表情を浮かべたカミーユを見て唖然とした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話

もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。 詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。 え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか? え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか? え? 私、アースさん専用の聖女なんですか? 魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。 ※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。 ※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。 ※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。 R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

【R18】利害一致のお飾り婚だったので初夜をすっぽかしたら大変なことになった

春瀬湖子
恋愛
絵に描いたような美形一家の三女として生まれたリネアだったが、残念ながらちょっと地味。 本人としては何も気にしていないものの、美しすぎる姉弟が目立ちすぎていたせいで地味なリネアにも結婚の申込みが殺到……したと思いきや会えばお断りの嵐。 「もう誰でもいいから貰ってよぉ~!!」 なんてやさぐれていたある日、彼女のもとへ届いたのは幼い頃少しだけ遊んだことのあるロベルトからの結婚申込み!? 本当の私を知っているのに申込むならお飾りの政略結婚だわ! なんて思い込み初夜をすっぽかしたヒロインと、初恋をやっと実らせたつもりでいたのにすっぽかされたヒーローの溺愛がはじまって欲しいラブコメです。 【2023.11.28追記】 その後の二人のちょっとしたSSを番外編として追加しました! ※他サイトにも投稿しております。

【R18】転生聖女は四人の賢者に熱い魔力を注がれる【完結】

阿佐夜つ希
恋愛
『貴女には、これから我々四人の賢者とセックスしていただきます』――。  三十路のフリーター・篠永雛莉(しのながひなり)は自宅で酒を呷って倒れた直後、真っ裸の美女の姿でイケメン四人に囲まれていた。  雛莉を聖女と呼ぶ男たちいわく、世界を救うためには聖女の体に魔力を注がなければならないらしい。その方法が【儀式】と名を冠せられたセックスなのだという。  今まさに魔獸の被害に苦しむ人々を救うため――。人命が懸かっているなら四の五の言っていられない。雛莉が四人の賢者との【儀式】を了承する一方で、賢者の一部は聖女を抱くことに抵抗を抱いている様子で――?  ◇◇◆◇◇ イケメン四人に溺愛される異世界逆ハーレムです。 タイプの違う四人に愛される様を、どうぞお楽しみください。(毎日更新) ※性描写がある話にはサブタイトルに【☆】を、残酷な表現がある話には【■】を付けてあります。 それぞれの該当話の冒頭にも注意書きをさせて頂いております。 ※ムーンライトノベルズ、Nolaノベルにも投稿しています。

騎士団専属医という美味しいポジションを利用して健康診断をすると嘘をつき、悪戯しようと呼び出した団長にあっという間に逆襲された私の言い訳。

待鳥園子
恋愛
自分にとって、とても美味しい仕事である騎士団専属医になった騎士好きの女医が、皆の憧れ騎士の中の騎士といっても過言ではない美形騎士団長の身体を好き放題したいと嘘をついたら逆襲されて食べられちゃった話。 ※他サイトにも掲載あります。

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

(完結)バツ2旦那様が離婚された理由は「絶倫だから」だそうです。なお、私は「不感症だから」です。

七辻ゆゆ
恋愛
ある意味とても相性がよい旦那様と再婚したら、なんだか妙に愛されています。前の奥様たちは、いったいどうしてこの方と離婚したのでしょうか? ※仲良しが多いのでR18にしましたが、そこまで過激な表現はないかもしれません。

【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」 「え、じゃあ結婚します!」 メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。 というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。 そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。 彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。 しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。 そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。 そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。 男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。 二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。 ◆hotランキング 10位ありがとうございます……! ―― ◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ

処理中です...