絶対零度殿下からの隠れ溺愛は秘蜜の味。

待鳥園子

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31 閉所②

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◇◆◇


 城に来て庭園で、ルシアはぼんやりと咲きたての花を見つめていた。

 父はルシアが未だにカミーユに提案書を見ても貰えていないと思っているし、ソフィアからはそう誤解させておいた方が都合が良いとカミーユに会えない日でも城へとやって来て時間を潰していた。

(綺麗……そういえば、こんな風にのんびり時を過ごすなんて、有り得なかったものね)

 前世の記憶を思い出し、両親から仕事をするよう家に閉じ込められ、こんな風にただ時間が過ぎていくのを待つことはなかった。

 誰もが絶対に不可能だと思われていた壁を乗り越えて、何らかの問題が解決するまで待っている時間はそう悪いものでもなかった。

 ルシアはそろそろ帰ろうかと立ち上がり、城門へ歩き出すと、走り来る足音を聞いて何気なく背後を振り返った。

「あら。カミーユ……どうなさったのですか?」

 こうして日の光の下、ルシアがカミーユに会ったのは、久しぶりのことだ。秘密にしなければいけないと言い含められていたし、呼び出されるのは閉鎖されたひと目のない空間だった。

 カミーユは戸惑うルシアの手を握ると、来た方向へと彼女の手を引いた。

「いや、少々時間に空きが出来たんだ。良かったら話そう。君が好きなあの辺りはひと目もないし……」

 その時、前から庭師が歩いていて来るのが見えて、カミーユは慌てて元の方向へと歩き出した。つんのめるほどに急ぎ足で歩く彼に驚き、ルシアは駆け足でそれに続きながら訴えた。

「あのっ……カミーユ。無理することはないと思います。また数日後には来ますし……」

「そうしたら、会えるかわからんだろう! しっ……待て」

 城のほど近くまで戻り、メイドたち数人が洗濯籠を持っているのを確認し、カミーユはすぐそこにあった扉を開いた。

 しかし、それは掃除道具を収納するためにあったものだったらしく、すぐそこに部屋の壁はあって、ルシアを抱きしめた時に彼女の背中のすぐそこで扉は閉まった。

「あの……」

「……何も言うな。何か言いたいことはわかっているが、何も言うな」

 声をひそめたカミーユは、人目を避け続けた結果、狭い空間に閉じ込められた現状が恥ずかしいらしい。それに、すぐそこからはついさっき見たメイドたちの笑い声が聞こえていた。

 しばし黙って抱き合ったまま時間は過ぎ、ルシアは段々と心配になって来た。

(さっき、少々時間が空いたと言っていたけど……どのくらい? 誰かを待たせたりしないかしら?)

「カミーユ。時間……大丈夫です? 仕事に間に合いますか?」

 ルシアは多忙な彼を心配して言ったのだが、カミーユは苦笑いして答えた。

「この状況で、俺の仕事の心配はするな。お前はいつも仕事仕事だな。俺とどっちが大事なんだ?」

 冗談めかした彼の言葉を、まさか自分が聞くと思わなかったルシアは言った。

「……どちらもです。生きていくためには、両方必要ですから」

 互いに見つめ合い、どちらからともなくキスをした。舌を絡ませ合いながらカミーユはいつものように、彼女の胸を触ろうとしたが、ルシアは両手でそれに抵抗した。

 しかし、男性の力には勝つことが出来ず、冷たい外気にふるりと胸が出て荒々しく揉まれているのを感じ、ルシアは抵抗を諦めた。

(どうせ、あのメイドたちが仕事を終えるまでここを出られないもの……時間がかかっても仕方ないわね)

 不意に閉じていた瞼に光を感じ、振りむこうとしたルシアをきつく抱きしめてカミーユは言った。

「おい。せめて何か声を掛けてくれたら良くないか?」

「申し訳ありません。もっともらしい理由を見付け、ようやく人払い出来たところで、私の配慮が足りませんでした」

(しゃっ……シャンペル卿ー!! また、こんなところを彼に見られてしまった)

 カミーユの護衛騎士たちが彼の傍を離れている訳がなく、閉じ込められてしまった二人をどうにかして助けてくれようとしたのだろう。

「……礼は言う。だが、一度その扉を閉めろ」

「かしこまりました」

 助けてくれたというのに、怒られてしまったヒューバートには申し訳ないが、慌てて胸元を隠したルシアはカミーユを見上げて言った。

「もう一度キスしても良いですか?」

「……それは、確認しなくても良いことではないのか?」

 再度のキスを交わしていた二人は、遠慮がちな扉を叩く音に気が付き離れると苦笑いした。

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