絶対零度殿下からの隠れ溺愛は秘蜜の味。

待鳥園子

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23 カーテンの中②

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◇◆◇


「……ユスターシュ伯爵令嬢、それでは私はこれで仕事に戻ります」

「はい。シャンペル卿。ありがとうございます」

 ルシアをこの会場まで連れて来るという役目を終えたヒューバートは、にっこりと微笑み去って行った。

 この先のバルコニーに行けばカミーユが居ると聞き、歩いていたルシアは前のカーテンが開き、いきなり手を引かれて驚いた。

 カーテンの中は真っ暗で、何も見えない。口には大きな手があり、悲鳴をあげようにもどうしようもない。

(何……? 誰なの?)

 こんな警備の固い王宮の中で不審人物が居るとは思えないが、背中から強い力で抱きしめられたルシアは恐怖に震えた。

「……しっ。俺だ。カミーユだ。頼むから、声を出さないでくれ」

 聞こえてきたのは、この先のバルコニーで待っているはずのカミーユの声だった。

「……カミーユ。驚いた。どうして、こんなことをしたんですか?」

「バルコニーは万が一にも人目に付く可能性があるから、絶対に抱きしめたりキスをしたり、君と接触するなと言われたんだ」

 憮然とした声音でそう説明されても、ルシアはこんなカーテンの中で会うことになってしまう意味がわからなかった。

「それで、良くないですか?」

 カミーユとは確かに会えて嬉しいが、この前のような性急な行為は困るし、外で会うのならそれもないならそちらの方が良いとルシアは考えた。

「……いいや。ルシアはわかっていない。お前は本当に酷い女だ。寸止めという言葉を知っているか? なんなら、拷問にも使われる手段だと言うのに……しかも、俺より、仕事を取るだと?」

 この前仕事があるのでと慌ててルシアが去ってしまったことを、カミーユは根に持っているようだった。

「それは、カミーユがユスターシュ伯爵家への仕事も承認するまでは時間がかかるし、私たちの関係も秘密にしようと決めたからです。私はこれまで通りの生活を送るとしたら、仕事から手を抜けません」

「知っている! だから、俺だってこんな夜会の時間中くらいしか、時間が取れなかったんだ」

「……どういうことですか?」

 質問を投げかけた唇は、いい加減に黙れとばかりに、すぐさまカミーユの唇で塞がれ、舌を絡めた深いキスを仕掛けられた。

 戸惑っていたルシアもいつのまにか彼と同じように口づけに夢中になり、空気の薄い狭い空間の中で、閉じ込められたように互いに唾液を貪り合った。
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