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19 時計②

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◇◆◇


「お……終わった……」

 ルシアはベッドの上に倒れ込むと、もう指一本でさえ動かしたくないと思った。

 何年も前から毎日続く激務の上に、半日も時間が遅れてしまうと、とんでもないことになってしまうことを今日初めて知った。

(嘘みたい……どうにかして、なんとかなった……)

 城からルシアが慌てて戻れば、案の定彼女待ちの決裁書類は机の上に溢れているし、他の船団のトラブルも重なって、とんでもない時間に邸へと戻ることになってしまった。

 やっと自室へと戻ってきたものの、就寝前の湯あみをすることも無理そうで、ルシアはこのまま目を閉じてしまおうと思った。

 よくよく考えれば、城で湯あみを済ませているし、それで構わないだろう。

 そして、城でカミーユとの間に何かあったかを思い出せば、身体中が熱くなり、悲鳴をあげて手足をバタバタを動かしベッドの上を転げ回りたくなった。

(あれって、本当に……本当に、本当だよね?)

 確実に実際にあったことなのだが、ルシア自身でも半信半疑だ。

 それに、カミーユは自身からの申し出でルシアと恋仲にはなったが、今はまだそれは明かせないと言っていた。

(あれって、どういう意味なのかしら……ユスターシュ伯爵家へ輸送を任せてくれるという話にも、問題を解決してからと言っていたし……それに、何か繋がることなのかも)

 それに、ああして彼と話をしてみると『氷の王子』と言われるまでに周囲への冷たい態度も、カミーユ本人がしたくてしているという訳ではなさそうだ。

 ルシアは彼が真面目で不器用であるように感じたし、閨教育も見るだけで済ませるくらいに潔癖な部分を持っているのだろう。

(あ。駄目。考えると……眠くなって来た……明日、また考えよう)

 ルシアはここ何年も、終わりのない迷路を走り続ける悪夢のような日々だった。

 だが、第二王子カミーユのおかげでそこから抜け出すことが出来そうで、王族の彼が待ってくれというのなら、その期間ルシアは大人しく待てば良いだけの話だ。

 思えばルシアはその夜、ユスターシュ伯爵家にやって来て初めて、微笑みながら眠りについたのだった。

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