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09 追いかけっこ
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「おーい。ギャビン? おかしいな……居ないのか?」
ギャビンを探して彼の部屋の中をうろうろしている様子のジョルジュの能天気な声が聞こえて、私はもう涙が出そうになった。
なんなの。ジョルジュ! 呼び掛けても応えないってことは、もう良いでしょう。
もう良いから、早くどこかに行ってよー!!
事情のある私とは違いジョルジュから隠れる必要なんて何もないはずの部屋の主ギャビンは、私のお願いしたことを忠実に守り、息を殺して動かなかった。
騎士ジョルジュは荒っぽい性格からわかる通り、大きな足音がわかりやすいから居ないと思っていたのに、部屋の中に居てビックリしてバッタリなんてことはなさそう。
箱に閉じ込められている私は、早く時間よ過ぎ去れーと強く念じるほかない。
「え……ねえ。レイラ。もしかして、ジョルジュもクロエ嬢から、レイラへと心変わりしたのかな?」
小声でギャビンが言い出した推理は、完全に的を射ていた。
そうなんですよ……貴方もジョルジュも、ここに居ないハイドも……クロエから好感度を移されただけで、私のことを好きっていう訳ではないんです!
「なっ……ギャビン殿下。何を言い出すんですか?」
そういえば、部屋の前の廊下でジョルジュが大きな声で話していた内容は、同じように部屋の中に居た彼だってわかっているだろう。
「いや……すまない。僕もそうだったから、もしかしたらジョルジュもと思ってしまっただけだ。しかし、昨夜の卒業パーティでは大騒動だったし、団長がクロエを身を挺して庇った時には、感動したよ」
それは、確かにそうでしょう!
あれは、ヒロインが攻略ルートに入っているヒーローの見せ場なので、クロエの推しが貴方だったら、ギャビンの役目だったんですよー!
なんて、そんなことを軽率に口に出す訳にもいかない。私は言いたくても言えないといううずうずした気持ちを抑えて、なかなか諦めないジョルジュが部屋の中から去っていくのを待っていた。
「ねえ……レイラ。君が何故、僕の気持ちが嘘だと思うのか、手短に説明は出来る?」
こっ……こんな状態で、込み入った説明は無理かもしれない。私が身じろぎするたびに、ギャビンが動きたいのを我慢しているのを感じる。
「待ってください。トリスタンと、会ってからでないと……」
「トリスタン……? まさか、君が今付き合っている恋人の名前か?」
若干険のある声音になったギャビンに、私はふるふると首を振った。
「まさか! 性別は雄かもしれませんが、黒うさぎのトリスタンです。とにかく、彼に会ってからでないと、説明出来ません!」
「黒うさぎ……? ああ……僕の宮にある薔薇園には、黒うさぎが住みついているという話があるね」
ギャビンだって『秘密の花園』があるここに住んでいるのだから、黒うさぎのトリスタンの話は聞いたことがあるようだった。
「ええ。その黒うさぎです。とにかく、その彼に会うまでは少し待って欲しいです」
「そうか……君がそう言うのなら、僕も少し我慢することにする。だが……僕は幼い頃から、婚約者の……君だけが好きだったんだ。それだけは、絶対に誤解しないで欲しい」
それって、私ではなくてクロエへの感情なんだけど、それを指摘する訳にはいかない。とにかく、早くトリスタンを捕まえないと。
「わかっています……」
「本当に、僕の言っていることをわかってくれてる?」
ギャビンは私が違う意味で頷いたことを悟ったのか、切なそうな声でそう言った。
ギャビンを探して彼の部屋の中をうろうろしている様子のジョルジュの能天気な声が聞こえて、私はもう涙が出そうになった。
なんなの。ジョルジュ! 呼び掛けても応えないってことは、もう良いでしょう。
もう良いから、早くどこかに行ってよー!!
事情のある私とは違いジョルジュから隠れる必要なんて何もないはずの部屋の主ギャビンは、私のお願いしたことを忠実に守り、息を殺して動かなかった。
騎士ジョルジュは荒っぽい性格からわかる通り、大きな足音がわかりやすいから居ないと思っていたのに、部屋の中に居てビックリしてバッタリなんてことはなさそう。
箱に閉じ込められている私は、早く時間よ過ぎ去れーと強く念じるほかない。
「え……ねえ。レイラ。もしかして、ジョルジュもクロエ嬢から、レイラへと心変わりしたのかな?」
小声でギャビンが言い出した推理は、完全に的を射ていた。
そうなんですよ……貴方もジョルジュも、ここに居ないハイドも……クロエから好感度を移されただけで、私のことを好きっていう訳ではないんです!
「なっ……ギャビン殿下。何を言い出すんですか?」
そういえば、部屋の前の廊下でジョルジュが大きな声で話していた内容は、同じように部屋の中に居た彼だってわかっているだろう。
「いや……すまない。僕もそうだったから、もしかしたらジョルジュもと思ってしまっただけだ。しかし、昨夜の卒業パーティでは大騒動だったし、団長がクロエを身を挺して庇った時には、感動したよ」
それは、確かにそうでしょう!
あれは、ヒロインが攻略ルートに入っているヒーローの見せ場なので、クロエの推しが貴方だったら、ギャビンの役目だったんですよー!
なんて、そんなことを軽率に口に出す訳にもいかない。私は言いたくても言えないといううずうずした気持ちを抑えて、なかなか諦めないジョルジュが部屋の中から去っていくのを待っていた。
「ねえ……レイラ。君が何故、僕の気持ちが嘘だと思うのか、手短に説明は出来る?」
こっ……こんな状態で、込み入った説明は無理かもしれない。私が身じろぎするたびに、ギャビンが動きたいのを我慢しているのを感じる。
「待ってください。トリスタンと、会ってからでないと……」
「トリスタン……? まさか、君が今付き合っている恋人の名前か?」
若干険のある声音になったギャビンに、私はふるふると首を振った。
「まさか! 性別は雄かもしれませんが、黒うさぎのトリスタンです。とにかく、彼に会ってからでないと、説明出来ません!」
「黒うさぎ……? ああ……僕の宮にある薔薇園には、黒うさぎが住みついているという話があるね」
ギャビンだって『秘密の花園』があるここに住んでいるのだから、黒うさぎのトリスタンの話は聞いたことがあるようだった。
「ええ。その黒うさぎです。とにかく、その彼に会うまでは少し待って欲しいです」
「そうか……君がそう言うのなら、僕も少し我慢することにする。だが……僕は幼い頃から、婚約者の……君だけが好きだったんだ。それだけは、絶対に誤解しないで欲しい」
それって、私ではなくてクロエへの感情なんだけど、それを指摘する訳にはいかない。とにかく、早くトリスタンを捕まえないと。
「わかっています……」
「本当に、僕の言っていることをわかってくれてる?」
ギャビンは私が違う意味で頷いたことを悟ったのか、切なそうな声でそう言った。
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