8 / 10
09 追いかけっこ
しおりを挟む
「おーい。ギャビン? おかしいな……居ないのか?」
ギャビンを探して彼の部屋の中をうろうろしている様子のジョルジュの能天気な声が聞こえて、私はもう涙が出そうになった。
なんなの。ジョルジュ! 呼び掛けても応えないってことは、もう良いでしょう。
もう良いから、早くどこかに行ってよー!!
事情のある私とは違いジョルジュから隠れる必要なんて何もないはずの部屋の主ギャビンは、私のお願いしたことを忠実に守り、息を殺して動かなかった。
騎士ジョルジュは荒っぽい性格からわかる通り、大きな足音がわかりやすいから居ないと思っていたのに、部屋の中に居てビックリしてバッタリなんてことはなさそう。
箱に閉じ込められている私は、早く時間よ過ぎ去れーと強く念じるほかない。
「え……ねえ。レイラ。もしかして、ジョルジュもクロエ嬢から、レイラへと心変わりしたのかな?」
小声でギャビンが言い出した推理は、完全に的を射ていた。
そうなんですよ……貴方もジョルジュも、ここに居ないハイドも……クロエから好感度を移されただけで、私のことを好きっていう訳ではないんです!
「なっ……ギャビン殿下。何を言い出すんですか?」
そういえば、部屋の前の廊下でジョルジュが大きな声で話していた内容は、同じように部屋の中に居た彼だってわかっているだろう。
「いや……すまない。僕もそうだったから、もしかしたらジョルジュもと思ってしまっただけだ。しかし、昨夜の卒業パーティでは大騒動だったし、団長がクロエを身を挺して庇った時には、感動したよ」
それは、確かにそうでしょう!
あれは、ヒロインが攻略ルートに入っているヒーローの見せ場なので、クロエの推しが貴方だったら、ギャビンの役目だったんですよー!
なんて、そんなことを軽率に口に出す訳にもいかない。私は言いたくても言えないといううずうずした気持ちを抑えて、なかなか諦めないジョルジュが部屋の中から去っていくのを待っていた。
「ねえ……レイラ。君が何故、僕の気持ちが嘘だと思うのか、手短に説明は出来る?」
こっ……こんな状態で、込み入った説明は無理かもしれない。私が身じろぎするたびに、ギャビンが動きたいのを我慢しているのを感じる。
「待ってください。トリスタンと、会ってからでないと……」
「トリスタン……? まさか、君が今付き合っている恋人の名前か?」
若干険のある声音になったギャビンに、私はふるふると首を振った。
「まさか! 性別は雄かもしれませんが、黒うさぎのトリスタンです。とにかく、彼に会ってからでないと、説明出来ません!」
「黒うさぎ……? ああ……僕の宮にある薔薇園には、黒うさぎが住みついているという話があるね」
ギャビンだって『秘密の花園』があるここに住んでいるのだから、黒うさぎのトリスタンの話は聞いたことがあるようだった。
「ええ。その黒うさぎです。とにかく、その彼に会うまでは少し待って欲しいです」
「そうか……君がそう言うのなら、僕も少し我慢することにする。だが……僕は幼い頃から、婚約者の……君だけが好きだったんだ。それだけは、絶対に誤解しないで欲しい」
それって、私ではなくてクロエへの感情なんだけど、それを指摘する訳にはいかない。とにかく、早くトリスタンを捕まえないと。
「わかっています……」
「本当に、僕の言っていることをわかってくれてる?」
ギャビンは私が違う意味で頷いたことを悟ったのか、切なそうな声でそう言った。
ギャビンを探して彼の部屋の中をうろうろしている様子のジョルジュの能天気な声が聞こえて、私はもう涙が出そうになった。
なんなの。ジョルジュ! 呼び掛けても応えないってことは、もう良いでしょう。
もう良いから、早くどこかに行ってよー!!
事情のある私とは違いジョルジュから隠れる必要なんて何もないはずの部屋の主ギャビンは、私のお願いしたことを忠実に守り、息を殺して動かなかった。
騎士ジョルジュは荒っぽい性格からわかる通り、大きな足音がわかりやすいから居ないと思っていたのに、部屋の中に居てビックリしてバッタリなんてことはなさそう。
箱に閉じ込められている私は、早く時間よ過ぎ去れーと強く念じるほかない。
「え……ねえ。レイラ。もしかして、ジョルジュもクロエ嬢から、レイラへと心変わりしたのかな?」
小声でギャビンが言い出した推理は、完全に的を射ていた。
そうなんですよ……貴方もジョルジュも、ここに居ないハイドも……クロエから好感度を移されただけで、私のことを好きっていう訳ではないんです!
「なっ……ギャビン殿下。何を言い出すんですか?」
そういえば、部屋の前の廊下でジョルジュが大きな声で話していた内容は、同じように部屋の中に居た彼だってわかっているだろう。
「いや……すまない。僕もそうだったから、もしかしたらジョルジュもと思ってしまっただけだ。しかし、昨夜の卒業パーティでは大騒動だったし、団長がクロエを身を挺して庇った時には、感動したよ」
それは、確かにそうでしょう!
あれは、ヒロインが攻略ルートに入っているヒーローの見せ場なので、クロエの推しが貴方だったら、ギャビンの役目だったんですよー!
なんて、そんなことを軽率に口に出す訳にもいかない。私は言いたくても言えないといううずうずした気持ちを抑えて、なかなか諦めないジョルジュが部屋の中から去っていくのを待っていた。
「ねえ……レイラ。君が何故、僕の気持ちが嘘だと思うのか、手短に説明は出来る?」
こっ……こんな状態で、込み入った説明は無理かもしれない。私が身じろぎするたびに、ギャビンが動きたいのを我慢しているのを感じる。
「待ってください。トリスタンと、会ってからでないと……」
「トリスタン……? まさか、君が今付き合っている恋人の名前か?」
若干険のある声音になったギャビンに、私はふるふると首を振った。
「まさか! 性別は雄かもしれませんが、黒うさぎのトリスタンです。とにかく、彼に会ってからでないと、説明出来ません!」
「黒うさぎ……? ああ……僕の宮にある薔薇園には、黒うさぎが住みついているという話があるね」
ギャビンだって『秘密の花園』があるここに住んでいるのだから、黒うさぎのトリスタンの話は聞いたことがあるようだった。
「ええ。その黒うさぎです。とにかく、その彼に会うまでは少し待って欲しいです」
「そうか……君がそう言うのなら、僕も少し我慢することにする。だが……僕は幼い頃から、婚約者の……君だけが好きだったんだ。それだけは、絶対に誤解しないで欲しい」
それって、私ではなくてクロエへの感情なんだけど、それを指摘する訳にはいかない。とにかく、早くトリスタンを捕まえないと。
「わかっています……」
「本当に、僕の言っていることをわかってくれてる?」
ギャビンは私が違う意味で頷いたことを悟ったのか、切なそうな声でそう言った。
24
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。
白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。
筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。
ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。
王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?
悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです
朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。
この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。
そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。
せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。
どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。
悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。
ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。
なろうにも同時投稿
悪役令嬢に転生したようですが、前世の記憶が戻り意識がはっきりしたのでセオリー通りに行こうと思います
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したのでとりあえずセオリー通り悪役ルートは回避する方向で。あとはなるようになれ、なお話。
ご都合主義の書きたいところだけ書き殴ったやつ。
小説家になろう様にも投稿しています。
光の王太子殿下は愛したい
葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。
わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。
だが、彼女はあるときを境に変わる。
アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。
どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。
目移りなどしないのに。
果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!?
ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。
☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
転生した悪役令嬢はシナリオ通りに王子に婚約破棄されることを望む
双葉葵
恋愛
悪役令嬢メリッサ・ローランドは、卒業式のパーティで断罪され追放されることを望んでいる。
幼い頃から見てきた王子が此方を見てくれないということは“運命”であり決して変えられない“シナリオ”通りである。
定刻を過ぎても予定通り迎えに来ない王子に一人でパーティに参加して、訪れる断罪の時を待っていたけれど。険しい顔をして現れた婚約者の様子が何やら変で困惑する。【こんなの“シナリオ”になかったわ】
【隣にいるはずの“ローズ”(ヒロイン)はどこなの?】
*以前、『小説家になろう』であげていたものの再掲になります。
その国外追放、謹んでお受けします。悪役令嬢らしく退場して見せましょう。
ユズ
恋愛
乙女ゲームの世界に転生し、悪役令嬢になってしまったメリンダ。しかもその乙女ゲーム、少し変わっていて?断罪される運命を変えようとするも失敗。卒業パーティーで冤罪を着せられ国外追放を言い渡される。それでも、やっぱり想い人の前では美しくありたい!
…確かにそうは思ったけど、こんな展開は知らないのですが!?
*小説家になろう様でも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる