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08 箱の中
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いけない。何を考えていたんだろう。ギャビンがここで私を好きだと言ってくれている理由は、単に乙女ゲームの強制力が働いているからなのに。
「おい! ギャビン! 居ないのか? もしかして……レイラは訪ねて来ていないのか?」
それは、もうどこかへ行ってしまっているだろうと思い込んでいた、騎士ジョルジュの声だった。
私は扉の外に出ることも出来ず、ギャビンの真剣な青い目を見つめるしかない。
さっき、扉を出てなくて、セ、セーフ? けど、ギャビンには既に見つかってるし……ギャビンとジョルジュは、実はお母様方が姉妹で、従兄弟同士なのだ。
ここでギャビンと共に居る私がジョルジュに見つかってしまうのは、絶対に得策ではない。好感度が段階を上がるたびに、嫉妬したり執着する様子が描かれるジョルジュは、頭に血が昇りやすい。
「ギャビン? 何で返事もしないんだ? おーい」
王族と貴族で身分は違えど、ギャビンとジョルジュは気安い関係だ。お母様同士が仲が良いこともあり、王族への多少の無礼は許されている。
このままだと、焦れたジョルジュは部屋の中に入って来かねない。
私はどうすべきかと悩んだ挙句に、ジョルジュの声には応えずに黙ったまま私を見ていたギャビンの手を引いて彼の衣装部屋へと入り込んだ。
「……レイラっ? どうしたんだ?」
「しっ! お願いします。私が良いと言うまで、何も言わずにジョルジュに知られないように、黙っててください……事情はまた、後で説明しますから」
私はギャビンの衣装部屋の中にあった、大きな宝箱のような物入れに目をつけた。まさかこんな箱の中に、王子様と私が入っているなんて誰も思わないはずだ。
もし、強引なジョルジュが入って来ても、この箱の中を確認したりはしないだろう。
ギャビンに色々と説明している暇はないし、彼に黙っていて欲しいと頼んで聞いてくれる保証はない。
一刻も早く乙女ゲームの好感度に振り回されている三人の好感度を元の状態に戻すために、黒うさぎのトリスタンに会わなきゃいけないのに!
「えっ? レイラ?」
何も言わずに私にされるがままだったギャビンも、自ら狭い箱の中へ入った私に手招きをされて困惑していた。
よくよく考えなくても、王子様は箱の中に入って隠れたりしないと思う。必要ないし。
ガチャっと開いた蝶番の音に、私は小声で言った。
「ギャビン。良いから、入ってください!」
「っ……ちょっと待って。レイラっ……」
私はギャビンが慌てているのも聞かずに、箱の蓋を下ろした。
「これは、どういうことなの? レイラ」
箱の大きさなどの関係もあり、後ろから私を抱きすくめる体勢になったギャビンは、耳の辺りで囁くように言った。
「お願い。今はジョルジュに見つかると、色々面倒なんです。また、説明しますから……」
小声で返した私は自分たち二人が、狭い空間の箱の中でとんでもない体勢になってしまっていることに気がついた。
「ごめん……これは、わざとじゃない」
「大丈夫。わかっています。ギャビン殿下は、そんな人ではないですから」
後ろから抱きすくめるようになっているギャビンの腕は私の体の前に回されていて、狭い箱の大きさの関係上、彼の手は胸の上に手があった。
これは……完全に不可抗力。ギャビンはだから、さっき私に待って欲しいって言ったんだ……。
「本当に……ごめん。ただの、生理現象だから」
私は耳元で囁く恥ずかしそうなギャビンが何を言いたいのかを察し、慌てて妙な慰めを口走ってしまった。
「きっ……気にしないでください! よっ……良くありますよ」
良くは、ないよ!! こんな状況、日常では絶対良くはないよ!!
……何言ってんの。本当に馬鹿じゃないの。ううん。その通りなの。
良くわかってる。にっちもさっちもいかない、良く分からないこんな状況にしてしまった馬鹿はこの私だった。
「おい! ギャビン! 居ないのか? もしかして……レイラは訪ねて来ていないのか?」
それは、もうどこかへ行ってしまっているだろうと思い込んでいた、騎士ジョルジュの声だった。
私は扉の外に出ることも出来ず、ギャビンの真剣な青い目を見つめるしかない。
さっき、扉を出てなくて、セ、セーフ? けど、ギャビンには既に見つかってるし……ギャビンとジョルジュは、実はお母様方が姉妹で、従兄弟同士なのだ。
ここでギャビンと共に居る私がジョルジュに見つかってしまうのは、絶対に得策ではない。好感度が段階を上がるたびに、嫉妬したり執着する様子が描かれるジョルジュは、頭に血が昇りやすい。
「ギャビン? 何で返事もしないんだ? おーい」
王族と貴族で身分は違えど、ギャビンとジョルジュは気安い関係だ。お母様同士が仲が良いこともあり、王族への多少の無礼は許されている。
このままだと、焦れたジョルジュは部屋の中に入って来かねない。
私はどうすべきかと悩んだ挙句に、ジョルジュの声には応えずに黙ったまま私を見ていたギャビンの手を引いて彼の衣装部屋へと入り込んだ。
「……レイラっ? どうしたんだ?」
「しっ! お願いします。私が良いと言うまで、何も言わずにジョルジュに知られないように、黙っててください……事情はまた、後で説明しますから」
私はギャビンの衣装部屋の中にあった、大きな宝箱のような物入れに目をつけた。まさかこんな箱の中に、王子様と私が入っているなんて誰も思わないはずだ。
もし、強引なジョルジュが入って来ても、この箱の中を確認したりはしないだろう。
ギャビンに色々と説明している暇はないし、彼に黙っていて欲しいと頼んで聞いてくれる保証はない。
一刻も早く乙女ゲームの好感度に振り回されている三人の好感度を元の状態に戻すために、黒うさぎのトリスタンに会わなきゃいけないのに!
「えっ? レイラ?」
何も言わずに私にされるがままだったギャビンも、自ら狭い箱の中へ入った私に手招きをされて困惑していた。
よくよく考えなくても、王子様は箱の中に入って隠れたりしないと思う。必要ないし。
ガチャっと開いた蝶番の音に、私は小声で言った。
「ギャビン。良いから、入ってください!」
「っ……ちょっと待って。レイラっ……」
私はギャビンが慌てているのも聞かずに、箱の蓋を下ろした。
「これは、どういうことなの? レイラ」
箱の大きさなどの関係もあり、後ろから私を抱きすくめる体勢になったギャビンは、耳の辺りで囁くように言った。
「お願い。今はジョルジュに見つかると、色々面倒なんです。また、説明しますから……」
小声で返した私は自分たち二人が、狭い空間の箱の中でとんでもない体勢になってしまっていることに気がついた。
「ごめん……これは、わざとじゃない」
「大丈夫。わかっています。ギャビン殿下は、そんな人ではないですから」
後ろから抱きすくめるようになっているギャビンの腕は私の体の前に回されていて、狭い箱の大きさの関係上、彼の手は胸の上に手があった。
これは……完全に不可抗力。ギャビンはだから、さっき私に待って欲しいって言ったんだ……。
「本当に……ごめん。ただの、生理現象だから」
私は耳元で囁く恥ずかしそうなギャビンが何を言いたいのかを察し、慌てて妙な慰めを口走ってしまった。
「きっ……気にしないでください! よっ……良くありますよ」
良くは、ないよ!! こんな状況、日常では絶対良くはないよ!!
……何言ってんの。本当に馬鹿じゃないの。ううん。その通りなの。
良くわかってる。にっちもさっちもいかない、良く分からないこんな状況にしてしまった馬鹿はこの私だった。
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