6 / 10
07 足音
しおりを挟む
私が慌てて入った部屋の前を大きな足音が通り抜けて、近くで立ち止まった。
「おい! そこのお前!」
「……はい? どうか致しましたか、レイジブル様」
近くの使用人らしき人が彼の名前を呼んだ声がして、私は身が竦む思いだった。ジュルジュ・レイジブルは、ユーザーから人気も高かったワイルド系騎士様だ。
彼は出会ったばかりには荒っぽい態度なんだけど、好感度が上がるにつれ対応に糖度が高まると言う、いわゆるギャップ萌えを楽しむ人も多かった。
「ルメッツァーネ公爵令嬢は、見なかったか? 先ほど、裏門から城に入られたと連絡があったのだが……」
「申し訳ありません。私はレイラ様は、本日お見かけしておりません」
私は彼らの会話を聞きながら、遠くから荒っぽい足音が迫ってくるのを聞いて、身を隠した選択は間違っていなかったとホッと安心した。
良かった。ジョルジュって好感度が高くなり過ぎると、執着のあまりヤンデレのような行動を取るようになるのよね。
きっと、私が城へ来れば、知らせるように言っていたに違いない。
荒っぽい足音は近くから去っていって、私は心から安堵した。
「……レイラ。久しぶりだね」
扉の向こう側に集中していた私は、背後から聞こえた声に、私は信じられない思いだった。一難去ってまた一難。
「ギャビン……」
なんでここに居るのと続けて言いかけて、私は言葉を片手で口を覆って止めた。
ここはギャビンが住んでいる宮で、そこへトリスタンに会う目的でやって来たのは私なんだった。
「ずっと、会いたかった。レイラ。君に謝りたくて。今日の朝、君に急ぎで手紙を送ったんだけど、ここに来たということは読んでくれたの?」
私を見る切なげな眼差しも、本来であればクロエに向けられるべきものだ。私はもう既に隠しヒーローと結ばれている彼女の代わり。
そうでしかない役割のはずなのに、胸の辺りがズキンとひどく傷んだ。
朝、ギャビンが私へ送ったという手紙は、クロエへの気持ちが私にすり替わってしまったからなんだろう。
きっと、彼は大きな勘違いをしている。私のことなんて本当は好きではないのに、好きになっていると。
「……謝ることなんて、ありません。ギャビン殿下が私に謝る必要なんて、何もないんです。あの、ごめんなさい。ノックもなく入ってきてしまって……どうか、お許しください」
出来るだけ素っ気なくそう言った私に、ギャビンは整った顔を歪めた。
「どうやら、レイラは僕の手紙を読んで、その話をしにここまで来てくれたと言う訳では……なさそうだね」
王族への最高の敬意を表す礼をした私を見て、ギャビンは寂しそうに笑った。
「ええ。申し訳ありません。私。実は今急いでいるんです! 話なら、別の機会にしてください」
さっき廊下で私を探していたらしいジョルジュも、今では姿が見えない遠くに行っているはずだと思い扉を開こうとしたら、ギャビンが駆け寄って手を引いた。
「待ってくれ。レイラ……僕が悪かった。あの時は誰かに操られるようにして、おかしくなっていたんだ。婚約者の君から心変わりをして、何の段階も踏まずに別の女性を傍に置けば君が怒るのは当然だ。僕が、おかしかったんだ。悪かった。どうか、許して欲しい……」
ついこの前まで、ヒロインクロエを好きだ愛していると恥ずかしげもなく口にしていたギャビンは、どうやら今は婚約解消した私のことを本当に好きになってしまっているらしい。
「……ギャビン殿下……あの、ギャビン。それって、偽物の感情なんです。私の事、あの……好きな訳じゃなくて……それは、違うんです……」
自他ともに認める器用ではない私は、つい咄嗟に嘘をつくことも出来ずに、何も知らないギャビンを訳もわからず困らせるようなことを言ってしまった。
「嘘の感情? 待ってくれ。レイラ……君は、何を言ってるんだ?」
「その……あの……ギャビン殿下は、私のこと好きではないんです。本当に違んです」
思っても見なかったことを、言われたのか。ギャビンはその時、本当に不思議そうなポカンとした顔をしていた。
それもそうだと思う。私だって彼と同じ立場で、そんなことを言われたらそう思うだろう。
どう、上手く説明するべきか……ここは乙女ゲームの世界なんだと、中世風の魔法のある世界の住人に説明するのは、とても難しい。
「いいや……待ってくれ。僕も何か良く分からない呪いにかけられていたかのように、自分の意識が自分ではないものに操られているという感覚はあった。レイラ。勘違いしないでくれ。幼いころから婚約して大事にしていた君への想いは、本物なんだ……ちゃんと時間を掛けて順を追って話せば、わかってくれるはずだ」
本当に、駄目。こんな完璧な容姿を持つ王子様のギャビンに真剣な眼差しで愛を囁かれて……恋に落ちないというのは、とても難しい。
とてもわかりやすい普通の女の子の例としては、この私。甘い言葉に押されてしまっている。今しも、簡単に彼に落ちてしまいそう。
「待って。ギャビン……それは、だから」
その時に私が追い詰められていた扉がドンドンと乱暴に叩かれて、胸が大きく跳ねた。
「おい! そこのお前!」
「……はい? どうか致しましたか、レイジブル様」
近くの使用人らしき人が彼の名前を呼んだ声がして、私は身が竦む思いだった。ジュルジュ・レイジブルは、ユーザーから人気も高かったワイルド系騎士様だ。
彼は出会ったばかりには荒っぽい態度なんだけど、好感度が上がるにつれ対応に糖度が高まると言う、いわゆるギャップ萌えを楽しむ人も多かった。
「ルメッツァーネ公爵令嬢は、見なかったか? 先ほど、裏門から城に入られたと連絡があったのだが……」
「申し訳ありません。私はレイラ様は、本日お見かけしておりません」
私は彼らの会話を聞きながら、遠くから荒っぽい足音が迫ってくるのを聞いて、身を隠した選択は間違っていなかったとホッと安心した。
良かった。ジョルジュって好感度が高くなり過ぎると、執着のあまりヤンデレのような行動を取るようになるのよね。
きっと、私が城へ来れば、知らせるように言っていたに違いない。
荒っぽい足音は近くから去っていって、私は心から安堵した。
「……レイラ。久しぶりだね」
扉の向こう側に集中していた私は、背後から聞こえた声に、私は信じられない思いだった。一難去ってまた一難。
「ギャビン……」
なんでここに居るのと続けて言いかけて、私は言葉を片手で口を覆って止めた。
ここはギャビンが住んでいる宮で、そこへトリスタンに会う目的でやって来たのは私なんだった。
「ずっと、会いたかった。レイラ。君に謝りたくて。今日の朝、君に急ぎで手紙を送ったんだけど、ここに来たということは読んでくれたの?」
私を見る切なげな眼差しも、本来であればクロエに向けられるべきものだ。私はもう既に隠しヒーローと結ばれている彼女の代わり。
そうでしかない役割のはずなのに、胸の辺りがズキンとひどく傷んだ。
朝、ギャビンが私へ送ったという手紙は、クロエへの気持ちが私にすり替わってしまったからなんだろう。
きっと、彼は大きな勘違いをしている。私のことなんて本当は好きではないのに、好きになっていると。
「……謝ることなんて、ありません。ギャビン殿下が私に謝る必要なんて、何もないんです。あの、ごめんなさい。ノックもなく入ってきてしまって……どうか、お許しください」
出来るだけ素っ気なくそう言った私に、ギャビンは整った顔を歪めた。
「どうやら、レイラは僕の手紙を読んで、その話をしにここまで来てくれたと言う訳では……なさそうだね」
王族への最高の敬意を表す礼をした私を見て、ギャビンは寂しそうに笑った。
「ええ。申し訳ありません。私。実は今急いでいるんです! 話なら、別の機会にしてください」
さっき廊下で私を探していたらしいジョルジュも、今では姿が見えない遠くに行っているはずだと思い扉を開こうとしたら、ギャビンが駆け寄って手を引いた。
「待ってくれ。レイラ……僕が悪かった。あの時は誰かに操られるようにして、おかしくなっていたんだ。婚約者の君から心変わりをして、何の段階も踏まずに別の女性を傍に置けば君が怒るのは当然だ。僕が、おかしかったんだ。悪かった。どうか、許して欲しい……」
ついこの前まで、ヒロインクロエを好きだ愛していると恥ずかしげもなく口にしていたギャビンは、どうやら今は婚約解消した私のことを本当に好きになってしまっているらしい。
「……ギャビン殿下……あの、ギャビン。それって、偽物の感情なんです。私の事、あの……好きな訳じゃなくて……それは、違うんです……」
自他ともに認める器用ではない私は、つい咄嗟に嘘をつくことも出来ずに、何も知らないギャビンを訳もわからず困らせるようなことを言ってしまった。
「嘘の感情? 待ってくれ。レイラ……君は、何を言ってるんだ?」
「その……あの……ギャビン殿下は、私のこと好きではないんです。本当に違んです」
思っても見なかったことを、言われたのか。ギャビンはその時、本当に不思議そうなポカンとした顔をしていた。
それもそうだと思う。私だって彼と同じ立場で、そんなことを言われたらそう思うだろう。
どう、上手く説明するべきか……ここは乙女ゲームの世界なんだと、中世風の魔法のある世界の住人に説明するのは、とても難しい。
「いいや……待ってくれ。僕も何か良く分からない呪いにかけられていたかのように、自分の意識が自分ではないものに操られているという感覚はあった。レイラ。勘違いしないでくれ。幼いころから婚約して大事にしていた君への想いは、本物なんだ……ちゃんと時間を掛けて順を追って話せば、わかってくれるはずだ」
本当に、駄目。こんな完璧な容姿を持つ王子様のギャビンに真剣な眼差しで愛を囁かれて……恋に落ちないというのは、とても難しい。
とてもわかりやすい普通の女の子の例としては、この私。甘い言葉に押されてしまっている。今しも、簡単に彼に落ちてしまいそう。
「待って。ギャビン……それは、だから」
その時に私が追い詰められていた扉がドンドンと乱暴に叩かれて、胸が大きく跳ねた。
28
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。
白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。
筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。
ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。
王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?
【完結】転生悪役令嬢は婚約破棄を合図にヤンデレの嵐に見舞われる
syarin
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢として転生してしまい、色々足掻くも虚しく卒業パーティーで婚約破棄を宣言されてしまったマリアクリスティナ・シルバーレーク伯爵令嬢。
原作では修道院送りだが、足掻いたせいで色々拗れてしまって……。
初投稿です。
取り敢えず書いてみたものが思ったより長く、書き上がらないので、早く投稿してみたくて、短編ギャグを勢いで書いたハズなのに、何だか長く重くなってしまいました。
話は終わりまで執筆済みで、雑事の合間に改行など整えて投稿してます。
ギャグでも無くなったし、重いもの好きには物足りないかもしれませんが、少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。
ざまぁを書きたかったんですが、何だか断罪した方より主人公の方がざまぁされてるかもしれません。
転生した悪役令嬢はシナリオ通りに王子に婚約破棄されることを望む
双葉葵
恋愛
悪役令嬢メリッサ・ローランドは、卒業式のパーティで断罪され追放されることを望んでいる。
幼い頃から見てきた王子が此方を見てくれないということは“運命”であり決して変えられない“シナリオ”通りである。
定刻を過ぎても予定通り迎えに来ない王子に一人でパーティに参加して、訪れる断罪の時を待っていたけれど。険しい顔をして現れた婚約者の様子が何やら変で困惑する。【こんなの“シナリオ”になかったわ】
【隣にいるはずの“ローズ”(ヒロイン)はどこなの?】
*以前、『小説家になろう』であげていたものの再掲になります。
どうせ死ぬならとラスボスに寝返ったら、なぜかうまく行きそうな気配が……
小倉みち
恋愛
公爵令嬢のグラシアは、階段から転げ落ちたショックで前世を思い出し、ここがかつて一世を風靡した乙女ゲームの世界で、自身がそのゲームの中での悪役令嬢であることに気づく。
しかし、時すでに遅し。
婚約者である第二王子はすでに主人公と良い感じになっており、あと数日後に私は謂れなき罪によって彼らから断罪され、自分の両親によって秘密裏に始末される運命にあった。
どうしたって私の運命は決まってしまっている。
それなら、どうせ死ぬならと、私は乙女ゲームのラスボスである第一王子に寝返ることにした。
「殿下、どうか良しなに」
第一王子は了承し、私は殿下の下で働く算段をつけた。
あと数日の命、あの裏切りやがった連中に対する復讐のために使ってやろうと考えていたところ、なぜか私の知っているストーリーとは違うふうに話が進み始めてしまったようで……。
悪役令嬢なのに、ヒロインに協力を求められました
霜月零
恋愛
わたくし、クーデリア・タイタニックはいわゆる悪役令嬢です。
破滅の運命を逃れるべく、前世を思い出した十歳の時から婚約者である王子から逃げ回り、学園に通うようになってからは、ヒロインからも逃げまくりましたわ。
ですが……。
なぜそのわたくしが、ヒロインに土下座されて協力を求められていますの?
※他サイトでも掲載中です
転生したら悪役令嬢を断罪・婚約破棄して後でザマァされる乗り換え王子だったので、バッドエンド回避のため田舎貴族の令嬢に求婚してみた
古銀貨
恋愛
社畜から自分が作った乙ゲーの登場人物、「ヒロインに乗り換えるため悪役令嬢を断罪・婚約破棄して、後でザマァされる王子」に転生してしまった“僕”。
待ち構えているバッドエンドを回避し静かな暮らしを手に入れるため、二人とも選ばず適当な田舎貴族の令嬢に求婚したら、まさかのガチ恋に発展してしまった!?
まずは交換日記から始める、二股乗り換え王子×田舎貴族令嬢の純なラブコメディです。
痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。
お嬢様の悩みは…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴッドハンドで世界を変えますよ?
**********************
転生侍女シリーズ第三弾。
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
悪役令嬢はどうしてこうなったと唸る
黒木メイ
恋愛
私の婚約者は乙女ゲームの攻略対象でした。 ヒロインはどうやら、逆ハー狙いのよう。 でも、キースの初めての初恋と友情を邪魔する気もない。 キースが幸せになるならと思ってさっさと婚約破棄して退場したのに……どうしてこうなったのかしら。
※同様の内容をカクヨムやなろうでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる