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自分に向けられた好感度を移すなんて真似、あのトリスタンにしか出来ない。クロエが頼んでそうして貰ったんだから、悪役令嬢の私が頼んだって何かの条件をつけられるかもしれないけど、それは出来るはずだ。
黒うさぎのトリスタンが乙女ゲームヒロインと初めて出会うのは、王城にある『秘密の花園』と呼ばれる、美しい赤薔薇園。
今の彼はもう役目を終えて、ヒロインのクロエの傍に居ないとなればと、そこに戻って暮らしていると考えるのが自然だ。
とにかく、私へ好感度マックスの状態になっている三人のヒーローに会う前に、トリスタンに会って、どうにかして貰えるようにお願いしないと……。
「レイラお嬢様。城へと到着いたしました」
御者からそう告げられ、私は何気なく馬車の扉を開いて、そして、次の瞬間ピシャリと閉めた。
何かの用事で呼ばれていたのか、魔塔に所属するクーデレ魔法使いハイドがそこに立っていたからだ。
彼だって乙女ゲーム攻略対象者の一人なので、もちろん美形かつ社会的成功者。多数の女の子からわかりやすいくらいにモテて、なんなら馬車を待っている様子のさっきも囲まれていた。
ほんの一瞬だったから、ハイドは私には気がついていないと思いたい。っていうか、トリスタンに会えるまで、一切私の存在を忘れていて欲しい。
とは言え、今はお忍びでもなんでもないので、この馬車の側面にはルメッツァーネ公爵家の家紋が、デカデカと描かれている。
もし、彼が好感度MAX状態だとしたら、その対象の私が居るとバレてしまうととっても面倒なことになってしまう。
「……お嬢様?」
「別の門にまわって。ここは、人が多過ぎるわ」
扉の前で待っている御者は「家のお嬢様は、一体何を言い出したんだ」と思ったはずだ。
城の車止めには特に多くもなく通常通りの人出だったし、いつもの私だったら、問題なくすんなりと馬車から降りて城の中へと入っていただろう。
「かしこまりました……では、レイラお嬢様。裏門からでよろしいですか?」
私がいつもと違う様子であることを察した彼は、貴族が通常使う門ではなく、城で働く人たちが使用する裏門を提案した。今は夕方で、開いている門は少ない。彼の提案に頷くべきだ。
「良いわ。出来るだけ、早くしてちょうだい」
御者もいつになく急いでいる様子を見せる私につられてしまったのか、焦ったようにして馬を急がせた。
何でこんなところから入るんだと言わんばかりに驚いた顔の使用人たちに対し、にこやかに微笑みながら、私は裏門より城へと入った。
ヒロインクロエと違って、私は国民からは特に愛されてはいない。
けれど、第二王子から婚約解消されたとは言え、何か致命的なトラブルなどもない。だから、どう対応して良いかわからずに、扱いづらいと思われているのかもしれない。
「……秘密の花園って、確かギャビン殿下の部屋の近くよね……」
城の廊下を歩いている時に、嫌なことに気がついてしまった。
確かに彼は乙女ゲームでのお気に入りではあったけど、婚約解消を申し入れて来た元婚約者に会いたいなんてとても思えない。
しかも、今彼は他の女性へ向けていた感情を私に向けているという、よく分からない状態になっている。
「けど、もう仕方ない。これはもう……何がなんでも、行くしかないわ」
覚悟を決めた私は、第二王子が使っている宮へと歩き出した。
サポートキャラトリスタンと会った後に、乙女ゲーム正ヒーローと出会いやすくするためなのか、ギャビンが住んでいる宮に秘密の花園は存在する。
そして、彼を使ってゲームプレイヤーは、選択肢を選んで好感度が上がったり下がったりを体験し、ここで簡単なチュートリアルを終わらせるのだ。
ゲーム的に必要だったから、必然の配置。
けど、乙女ゲームのエンディングを迎えて、よく分からない状態になっている悪役令嬢の私から見れば、それはどうでも良い。
誰にも見つからないように、進まなければ。
秘密の花園へと向かっていた私は、遠くから聞こえる足音になんとなく嫌な予感を感じて、私はとある部屋の中へと姿を隠した。
黒うさぎのトリスタンが乙女ゲームヒロインと初めて出会うのは、王城にある『秘密の花園』と呼ばれる、美しい赤薔薇園。
今の彼はもう役目を終えて、ヒロインのクロエの傍に居ないとなればと、そこに戻って暮らしていると考えるのが自然だ。
とにかく、私へ好感度マックスの状態になっている三人のヒーローに会う前に、トリスタンに会って、どうにかして貰えるようにお願いしないと……。
「レイラお嬢様。城へと到着いたしました」
御者からそう告げられ、私は何気なく馬車の扉を開いて、そして、次の瞬間ピシャリと閉めた。
何かの用事で呼ばれていたのか、魔塔に所属するクーデレ魔法使いハイドがそこに立っていたからだ。
彼だって乙女ゲーム攻略対象者の一人なので、もちろん美形かつ社会的成功者。多数の女の子からわかりやすいくらいにモテて、なんなら馬車を待っている様子のさっきも囲まれていた。
ほんの一瞬だったから、ハイドは私には気がついていないと思いたい。っていうか、トリスタンに会えるまで、一切私の存在を忘れていて欲しい。
とは言え、今はお忍びでもなんでもないので、この馬車の側面にはルメッツァーネ公爵家の家紋が、デカデカと描かれている。
もし、彼が好感度MAX状態だとしたら、その対象の私が居るとバレてしまうととっても面倒なことになってしまう。
「……お嬢様?」
「別の門にまわって。ここは、人が多過ぎるわ」
扉の前で待っている御者は「家のお嬢様は、一体何を言い出したんだ」と思ったはずだ。
城の車止めには特に多くもなく通常通りの人出だったし、いつもの私だったら、問題なくすんなりと馬車から降りて城の中へと入っていただろう。
「かしこまりました……では、レイラお嬢様。裏門からでよろしいですか?」
私がいつもと違う様子であることを察した彼は、貴族が通常使う門ではなく、城で働く人たちが使用する裏門を提案した。今は夕方で、開いている門は少ない。彼の提案に頷くべきだ。
「良いわ。出来るだけ、早くしてちょうだい」
御者もいつになく急いでいる様子を見せる私につられてしまったのか、焦ったようにして馬を急がせた。
何でこんなところから入るんだと言わんばかりに驚いた顔の使用人たちに対し、にこやかに微笑みながら、私は裏門より城へと入った。
ヒロインクロエと違って、私は国民からは特に愛されてはいない。
けれど、第二王子から婚約解消されたとは言え、何か致命的なトラブルなどもない。だから、どう対応して良いかわからずに、扱いづらいと思われているのかもしれない。
「……秘密の花園って、確かギャビン殿下の部屋の近くよね……」
城の廊下を歩いている時に、嫌なことに気がついてしまった。
確かに彼は乙女ゲームでのお気に入りではあったけど、婚約解消を申し入れて来た元婚約者に会いたいなんてとても思えない。
しかも、今彼は他の女性へ向けていた感情を私に向けているという、よく分からない状態になっている。
「けど、もう仕方ない。これはもう……何がなんでも、行くしかないわ」
覚悟を決めた私は、第二王子が使っている宮へと歩き出した。
サポートキャラトリスタンと会った後に、乙女ゲーム正ヒーローと出会いやすくするためなのか、ギャビンが住んでいる宮に秘密の花園は存在する。
そして、彼を使ってゲームプレイヤーは、選択肢を選んで好感度が上がったり下がったりを体験し、ここで簡単なチュートリアルを終わらせるのだ。
ゲーム的に必要だったから、必然の配置。
けど、乙女ゲームのエンディングを迎えて、よく分からない状態になっている悪役令嬢の私から見れば、それはどうでも良い。
誰にも見つからないように、進まなければ。
秘密の花園へと向かっていた私は、遠くから聞こえる足音になんとなく嫌な予感を感じて、私はとある部屋の中へと姿を隠した。
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