悪役令嬢なのに、完落ち攻略対象者から追いかけられる乙女ゲーム……っていうか、罰ゲーム!

待鳥園子

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02 隠しヒーロー

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 実は私はギャビンの婚約者ではあったんだけど、どのルートでも恋敵役として現れる。

 多分、悪役のバリエーションを作るのが面倒だった開発チームに、便利に使われてしまった悪役令嬢だった。確かに大事なのは主役の二人であって、悪役令嬢は大々同じことを言っているよね。

 二人で力を合わせて前世でのゲーム知識を繋ぎ合わせ、完璧な攻略法を編み出した後、私は自らの破滅フラグは入念に折った上で、ヒロインクロエの好感度をまんべんなく上げるために彼女に嫌がらせをする悪役令嬢らしく振る舞った。

 乙女ゲームには三人のヒーローの好感度を一斉に上げるとなると、他キャラと一緒に居るところを見られてしまうと下がってしまうという、とても面倒くさい設定もあった。

 なので、クロエが好感度を上げるためにヒーローと交流をしている時には、私は他ヒーローの足止め役をするなど、私たちは涙ぐましい努力を地道に続けた。

 王子から悪行を暴露された挙句に婚約破棄され、令嬢としては致命的な破滅をしたくない悪役令嬢の私と、三人のヒーローと逆ハーレム状態という難しい条件をこなしつつ、隠しヒーローと結ばれたいヒロインクロエの利害が一致した結果。

 かくして、乙女ゲームは無事にエンディングを迎えた。

「ねえ……クロエ。今日は、オーギュスト様はどこに居るの?」

 現在、私たちは騎士団長オーギュストの所有する邸宅で昼食を取っていた。昨夜彼とドラマティックに結ばれたクロエと彼は、どうやらそのまま同居して結婚してしまうらしい。

 この国の貴族としては十八歳は結婚適齢期なので、親同士も許してくれたんだろう。

 彼のことを聞かれて照れた表情のクロエを見て乙女ゲームでのクライマックスシーンを、微笑ましく思い返してしまう。

 魔法学園卒業パーティーが行われた大広間で、学長から不祥事の濡れ衣を着せられそうになるというピンチにあったクロエを見事救い、切々と彼女への想いを語ったオーギュスト様の告白。

 どういった展開で台詞になるかなど、なんならゲーム時のスチルの記憶だって持っている私でも、感動のため息をついてしまった。

 それはそれは、甘くて乙女心をくすぐられてしまう場面だった。

「今日は、どうしても外せない仕事なのよ。オーギュストは今日レイラと会うと言ったら、大丈夫なのかと心配していたわ。それもこれも何もかも、彼の好感度を上げるためにしてくれていた、レイラの演技おかげだったんだけどね」

 可愛らしい笑顔でクロエはそう言って、肩をすくめた。

 オーギュスト様のルートだって、私は漏れなく恋敵の悪役令嬢として現れる。自分だって、これは流石に登場し過ぎだろうと思ったりはした。

 つまり、ここ一年の間、私は使い勝手の良い悪役令嬢として想い合っている二人の恋路を、わざわざ邪魔する嫌な役でいなければならなかった。

「まあ、そうなの……一刻も早く、彼の誤解を解きたいわ。だって、私はオーギュスト様のことは素敵だと思うけど、別に彼のことが好きだという訳でも何でもないもの」

「そうよね。前世でのレイラはどちらかと言うと、正統派王子のギャビン様派だったわよね」

「ええ。けど、もう私は悪役令嬢として、ギャビン様には嫌われてしまっているもの。乙女ゲームも無事にエンディングを迎えたし、そろそろ違う婚約者を見つけないといけないわね……」

 第二王子ギャビン様の幼くして親に決められていた婚約者だった私は、早々に彼からの婚約解消を受け入れていた。

 まだ共通ルートなのに婚約解消の申し出があった時、正ヒーローで最も攻略が簡単な彼は、クロエへの好感度が上がりきってしまっていた。

 だから、それ以上私がギャビンの婚約者である必要性もなくなった。

 そして、立場が上の第二王子からの申し出であれば、我がルメッツァーネ公爵家としても逆らう訳にもいかない。

 通常時の乙女ゲーム内ではその申し出に逆らって、より嫌われてしまうんだけど、私は破滅を回避することで精一杯だったから、早々に彼からの婚約解消に頷いた。

 ギャビンが聖なる魔力を持つ男爵令嬢クロエに夢中だったのは、貴族社会でも有名だった。

 だから、幼い頃からの婚約者から振られた形になった私に同情してくれる人だって多い。

 ギャビン様から婚約解消されてしまったという噂が消えるまでは少々掛かるだろう。けど、別に何か問題があったからと婚約破棄された訳でもない。

 ゲーム知識を駆使して、そういう事態にならぬように完全に避けて来たからだ。

 有力者の娘で公爵令嬢であることには変わらないし、嫁ぎ先には困らないだろう。

 ……なんて、私が自分の未来について呑気に思えていた時期は、ここまででした。

「まあ。レイラ。そんな心配なんて、ないと思うの」

 にこにこと明るく微笑んでいるクロエを見て、私はたとえようもない嫌な予感を感じてしまった。

 彼女がこんな態度だと言うことは……多分。
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