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05 能力

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「フォスター伯爵が今ここに居ないのも、扉を完全に閉めたのも僕の指示だ……君もその方が良いのではないかと思ってな」

 私が腰掛けると同時にアレックス殿下は話し出し、彼の意味ありげな目配せに苦笑いをするしかなかった。

「それは……ご配慮いただきまして、申し訳ございません」

 確かに、私が送った手紙の内容を父に知られてしまうと、カンカンに怒らせてしまうだろう。そこへ対する配慮をしてくれたとなれば、私はこうしてお礼を言うしかなかった。

「手紙は読んだ。君には好きな男性が、現在居るのだとか」

 アレックス殿下は私にどんな感情を持っているのか、この段階ではいまいちわかりづらい。これまでの流れを考えれば、伯爵令嬢ごときが自分の誘いを断ってと、怒っているのかもしれない。

 けれど、その淡々とした口調には、強い感情を持っているようには思えなかった。まるで私の反応をつぶさに見て、試しているかのような、不思議な眼差しだ。

「はい……そうなんです。まずは顔合わせにと殿下よりお手紙も頂きまして、非常に光栄なのですが、お会いしてからお伝えするよりも、お手紙でお伝えした方が良いのかと思いまして……」

 まずは顔合わせという段階で、私が好きな人の存在を盾にしてお断りの手紙を送っているため、告白もされていないのに断っているような、良くわからない事態になってしまった。

「そうか。君こそが、僕が探し求めていた存在だ。やっと見つけた」

「……え?」

 私はそう断言したアレックス殿下が何を言わんとしているか、わからなかった。だって、私はさっき彼の申し出を真っ向から否定しているのに。

「……ローズは同じ部屋に居るというのに、僕に惹かれていない。そうだろう?」

「あ。はい」

 私は彼の質問に戸惑いつつも頷いた。アレックス殿下の言葉の通りだったからだ。

 アレックス殿下は顔は整いすぎるほどに整い、とても素敵な男性だけど、私は事前情報を持っているので、恋愛対象としては見れない。

「そういう女性と、僕は是非結婚したかった。現在、ローズが好きだと言う男性よりも、僕の方が良いと必ず証明するから、結婚しよう」

「え? えっと……」

 彼の言葉の意味が、わからない。不敬だと言われても、頭の中には『何良くわからないことを言っているんだろう。この人』という思いがますます強くなるばかり。

「僕には実は、生まれながらにして女性を惑わせてしまう不思議な能力を持っていてね。君には何故か利かないようなのだが、望むと望まないに関わらず女性に好意を抱かせてしまうようなのだ」

「はあ……」

 アレックス殿下の話に驚くことしかない私は、間抜けな返事を返した。

 女性を惑わせてしまう、不思議な能力ですって……? 確かに、王族専属の魔法使いは居るという話を、前に聞いたことがあるけれど……。

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