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81 救いの手
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「芹沢。聞いたことはないか? 人が本当に困った時に現れるという、光る救いの手だ。いつもは数多く傍にあるただの手と変わりないんだが、人が救われたいと心から思う時にだけ、それは光り輝いて見えるらしい。それを信じ掴めるかで、その後の人生は変わってしまうとか」
「……俺にとって、赤星の手は確かに光ってたよ」
偶然にこの男が俺の傍に居なかったらと思えば、今でも胸がひりつくようだった。
切羽詰まった状態になった情緒不安定な雪華さんが、あれで黙ったのは彼女が絶対的に逆らえない存在であるこの赤星が居たからだ。
自暴自棄になった雪華さんは、あの後だって自分が気に入らないからという自分勝手な理由で水無瀬さんに対し、また何かを仕掛けたかもしれない。
「なあ、芹沢。人生のすべてが上手くいくなんて、それは有り得ない。誰だっていつか必ず、落ちぶれる時が来る。俺は、そういう時。俺を知る誰からも見えるような、光っている手になりたい。これをバカバカしい、絵空事だと思うか? 俺は、自分ではそう思わない。やりたいことは、とりあえずやってみなければ、その先がどうなるかなんて、誰にもわからない。不可能だと断言されようが……未来は誰にも読めない。どこかで……一人で泣いている奴が居れば、俺は救いの手を伸ばしてやりたい」
「お前は……人の上に立つ器を、持ってるよ」
その時に心から、思った。
赤星は彼さえ居れば大丈夫だろうと、不思議と誰もに思わせる魅力を持っているからだ。
それは、決してこの男が受け継ぐ血だけのせいではない。性格の問題なのか、彼が持つ理想のせいなのか。ただの一般市民である俺には、理由はわからなかった。
「はは。お偉い先祖を持った、自分の力で手にした訳でもない権力しか持たない。張りぼての御曹司の戯言だ……力なき者が誰かを救うことを願うなど、烏滸がましい。俺は頭の固い、ごちゃごちゃうるせえのは、全部下に置いていく。自分が行けるところまで、上にまで上がるぞ」
赤星は、そう言って上を仰ぎ見た。
彼が今見えているのは、今視界に映る夜空に輝く星でもなければ月でもない。自分の思い描く、理想の未来なのかもしれない。
「……じゃあ、俺はお前が落ちぶれた時には、手に蛍光塗料でも付けとくか」
「は……? なんだよ。頭からその蛍光塗料、ぶちまけてやろうか?」
冗談にひとしきり二人で笑ったら、遠くの方にチカチカと瞬く飛行機の光が見えた。遠く何処か遠くへと、誰かを乗せて飛んで行く。
「誰もが不可能だと思っていることだって、挑戦してみなければその結果はわからない。お前の言う通りだ。俺だって、そう思うよ」
「ははっ、まじで? お前。知ってたけど。俺のこと好きだな」
赤星は楽しそうにして、いつものように笑った。
「赤星くらい、人に情がある奴は、きっと居ない。誰もが、お前が上に立つことを望むだろう」
そう、だから。もし彼が人を切るときは、それだけの苦渋の決断をしたと、誰もが納得するだろう。
「……俺も、芹沢のことが好きだよ。お前はすべてに恵まれているというのに、本当に真面目だから。誰かが傷付くより、自分が傷つくことを選ぶから。それほどの素晴らしい顔を持って産まれて来たのなら、俳優になれよはマジで思うけど。芸能界も法曹界も……大変さレベルでは、似たようなもんか。お前。そんな感じで、面倒くさい派閥の中で上手くやれるのか?」
「あそこは、法律の解釈の問題で大体学閥らしいから。それに、それこそ入ってみないとどうなるかなんて、わからないだろ?」
赤星は俺の言葉に、それもそうかと肩を竦めた。
「違いない。ま。お前には守るべき大事なみーちゃんが居るし、何があったとしても自棄にはならないだろ。無理そうなら、弁護士に転向したら良い。俺の会社で雇ってやるよ」
「それは、ありがと……水無瀬さんって、なんであんなに理解不能なんだろ。次に何を言い出すのか、俺みたいな常人には、とても想像がつかないんだけど」
どうしても可愛い恋人の思考を理解仕切れないという悩みを俺がそう漏らせば、赤星はまた笑いながら言った。
「本当に。お前は大体、頭で考え過ぎなんだよ。あの子とは真逆だから、それで相性が良いんだろ? 過去の出来事にずっと囚われていたお前を救える光る手は、多分世界であの子だけだった。よく見つけられたな。お前は間違えずに、握れたんだよ」
「……俺にとって、赤星の手は確かに光ってたよ」
偶然にこの男が俺の傍に居なかったらと思えば、今でも胸がひりつくようだった。
切羽詰まった状態になった情緒不安定な雪華さんが、あれで黙ったのは彼女が絶対的に逆らえない存在であるこの赤星が居たからだ。
自暴自棄になった雪華さんは、あの後だって自分が気に入らないからという自分勝手な理由で水無瀬さんに対し、また何かを仕掛けたかもしれない。
「なあ、芹沢。人生のすべてが上手くいくなんて、それは有り得ない。誰だっていつか必ず、落ちぶれる時が来る。俺は、そういう時。俺を知る誰からも見えるような、光っている手になりたい。これをバカバカしい、絵空事だと思うか? 俺は、自分ではそう思わない。やりたいことは、とりあえずやってみなければ、その先がどうなるかなんて、誰にもわからない。不可能だと断言されようが……未来は誰にも読めない。どこかで……一人で泣いている奴が居れば、俺は救いの手を伸ばしてやりたい」
「お前は……人の上に立つ器を、持ってるよ」
その時に心から、思った。
赤星は彼さえ居れば大丈夫だろうと、不思議と誰もに思わせる魅力を持っているからだ。
それは、決してこの男が受け継ぐ血だけのせいではない。性格の問題なのか、彼が持つ理想のせいなのか。ただの一般市民である俺には、理由はわからなかった。
「はは。お偉い先祖を持った、自分の力で手にした訳でもない権力しか持たない。張りぼての御曹司の戯言だ……力なき者が誰かを救うことを願うなど、烏滸がましい。俺は頭の固い、ごちゃごちゃうるせえのは、全部下に置いていく。自分が行けるところまで、上にまで上がるぞ」
赤星は、そう言って上を仰ぎ見た。
彼が今見えているのは、今視界に映る夜空に輝く星でもなければ月でもない。自分の思い描く、理想の未来なのかもしれない。
「……じゃあ、俺はお前が落ちぶれた時には、手に蛍光塗料でも付けとくか」
「は……? なんだよ。頭からその蛍光塗料、ぶちまけてやろうか?」
冗談にひとしきり二人で笑ったら、遠くの方にチカチカと瞬く飛行機の光が見えた。遠く何処か遠くへと、誰かを乗せて飛んで行く。
「誰もが不可能だと思っていることだって、挑戦してみなければその結果はわからない。お前の言う通りだ。俺だって、そう思うよ」
「ははっ、まじで? お前。知ってたけど。俺のこと好きだな」
赤星は楽しそうにして、いつものように笑った。
「赤星くらい、人に情がある奴は、きっと居ない。誰もが、お前が上に立つことを望むだろう」
そう、だから。もし彼が人を切るときは、それだけの苦渋の決断をしたと、誰もが納得するだろう。
「……俺も、芹沢のことが好きだよ。お前はすべてに恵まれているというのに、本当に真面目だから。誰かが傷付くより、自分が傷つくことを選ぶから。それほどの素晴らしい顔を持って産まれて来たのなら、俳優になれよはマジで思うけど。芸能界も法曹界も……大変さレベルでは、似たようなもんか。お前。そんな感じで、面倒くさい派閥の中で上手くやれるのか?」
「あそこは、法律の解釈の問題で大体学閥らしいから。それに、それこそ入ってみないとどうなるかなんて、わからないだろ?」
赤星は俺の言葉に、それもそうかと肩を竦めた。
「違いない。ま。お前には守るべき大事なみーちゃんが居るし、何があったとしても自棄にはならないだろ。無理そうなら、弁護士に転向したら良い。俺の会社で雇ってやるよ」
「それは、ありがと……水無瀬さんって、なんであんなに理解不能なんだろ。次に何を言い出すのか、俺みたいな常人には、とても想像がつかないんだけど」
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「本当に。お前は大体、頭で考え過ぎなんだよ。あの子とは真逆だから、それで相性が良いんだろ? 過去の出来事にずっと囚われていたお前を救える光る手は、多分世界であの子だけだった。よく見つけられたな。お前は間違えずに、握れたんだよ」
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