0時のコンビニ、眼鏡すっぴんで片思いの人と鉢合わせた真夏の熱帯夜

待鳥園子

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62 不文律(side 司)

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「芹沢ガールという呼称については、俺にも色々と言いたいところはあるんだけど。今では完全に諦めの境地に至ったから、とりあえずそこはもう良いとして、そんな不文律あったんだ……さっきも言ったけど、水無瀬さんは俺の彼女だし。写真くらい撮られたからって、何も言わないよ。出来たら俺だって、水無瀬さんの写真欲しいし」

 包み隠さず俺の本音を言えば、彼女の顔は目に見えてパッと輝いた。

「うっ……嬉しい! じゃあ、芹沢くんの部屋にカメラ置いて、二十四時間動画をずっと撮っても良い? 私。どの瞬間も、見逃したくなくて」

「……うん。その辺りは色々とお互いの意見に、擦り合わせが必要みたいだ。けど、俺も水無瀬さんの可愛い写真は沢山撮りたいと思ってるから……限度を越えない程度に、お互い撮影しても良いことにする?」

「うっ……嬉しいぃぃぃぃぃ。良かった。今まで、ずっと我慢してたの。付き合った日も……なんで、私の目には、スクショ機能が付いてないのかなって……ずっと」

「俺と、付き合った日? あの日に、なんか……二人で撮影するようなところ、あった?」

 確かエアコンの壊れた彼女の部屋で付き合うことを決めてから、二人でシャワーを浴びて俺の部屋へと移動しただけのような気がする。

 彼女の家から、俺の家までは駅周辺と言っても、ただの商店街続くだけ。目新しい撮影スポットなんかも特にない。

「わかってないっ……芹沢くんは、自分の放つ眩しさについて、わかってないんだよ。えっと、出来たら今度、あの時の再現のために、半裸で朝日浴びて欲しいんだけど……ダメ?」

 あの時、汗に濡れたTシャツを着るのが嫌だったので、早朝だし人目もないから良いかと、上半身裸でのままで確かに道を歩いていた。

「……水無瀬さんって、本当に俺のこと好きだよね」

「うん。私。芹沢くんのこと、全部好きだよ」

 へらっと微笑んで水無瀬さんは、目の前のベーグルに口を開いて齧(かじ)り付いた。

「……じゃあ、俺の部屋に一緒に住む? 毎日家に帰ったら、水無瀬さんが居ると嬉しいな」

 これは佐久間に相談したら、付き合ってすぐにそんなことを言えば絶対に引かれると言われていたことだったので、俺なりにかなりタイミングを図って言ったつもりではあった。

 合鍵をすぐに渡したのに、何故か俺と明確に約束している時にしか水無瀬さんは部屋に来ない。

「だっ……ダメ!」

 二つ返事でオーケーしてくれると思っていたことだったので、俺はここで内心慌てた。彼女の思考は計算が出来ないと思っていたけど、この流れで断られる理由なんて、俺には本当に理解不能だったからだ。

「うん……あの、なんで?」

 出来るだけ水無瀬さんからは平静な様子で見えるようにして、落ち着いて聞いたつもりだ。

 ちなみに心の中では「なんでだ良くわからない」という大嵐が巻き起こっている。俺の事をあんなに好きだと言ったのに、同棲の提案を断られるなんて思っていなかった。

 もう。この子の考えすべてを理解するのは、俺には一生無理なのかもしれない。

「四六時中……芹沢くんと、一緒に居るなんて。無理だよ!」

 水無瀬さんのはっきりとした拒絶の言葉を聞いて、頭をガーンと大きなハンマーで殴られたかのようだった。

 けど、きっと彼女のことだ。

 こんな普通の思考回路の俺には思いつきもしない、突拍子もない良くわからない理由で嫌がっているに違いない。だいぶ、そんな水無瀬さんがわかって来た。

「……うん。なんで? 水無瀬さんは、俺のこと好きなのに?」

「好きだから、無理なの。絶対に変なとこを、見せたくないもん」

「水無瀬さん。何してても、可愛いのに……俺へのそういう変な幻想、どうやったら無くせるのかな……」

 そんなことなんてどうでも良いとばかりに俺の写真を撮りたいシチュエーションを語る、水無瀬さんのキラキラとした目を見れば。

 その答えは、簡単には出なさそうだった。
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