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61 彼女(side 司)
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「前から思ってたけど、水無瀬さんって食べるの早いね。見てると気持ち良い」
「だって、お腹が空いてるのに、早く食べたいという気持ちを我慢する意味がわからないもん」
そう言って彼女は大きく口を開いて、自分で具材を決めたベーグルを美味しそうに食べてから、「サーモンチーズ、美味しい」とにこっと微笑んだ。そんな水無瀬さんに釣られるようにして、こちらも笑ってしまう。
俺はこの可愛くて自分のことを大好きな生き物を、後でどうやって味付けして食べようかと現在思案しているところなんだが。もちろん、口には出す訳もないので彼女は知る由もない。
「……わ。さっきベーグルの写真をアップした投稿に、いいねが来た。嬉しい。あ。ゆうくんも、コメントしてくれた。可愛いね場所教えてだって。この人って、本当にマメだよね。コミュ力カンストこわい。ここのベーグル、お洒落で可愛いもん。皆の反応すごく良いよ。芹沢くんの連れて行ってくれるところって、気の利いた可愛いところばっかりだよね」
「あ。うん。結構……水無瀬さんの好きそうな場所、調べたから。喜んでくれているなら、嬉しい」
疑う事を知らない水無瀬さんは、プライベートの友人同士で繋がっているSNSをたまに覗いたりと割と楽しそうにしているようだ。俺は一切やらないので何を書いているのかは知らないが、何故か彼女は俺の写真は撮らないので、彼氏について投稿したりはしていないように思う。
ああいったSNSは、彼氏とのラブラブ写真を載せたがるものじゃないんだろうか。自分がどれだけ幸せなのかを競い合う、終わりなき自慢のカードゲーム。
他者評価でしか自己承認が出来なくなった人間は、人心掌握が上手い目に見えぬ誰かの意向に沿うように、自分のしたいことなど二の次で動くことになる気もするんだが。
そういった人間がそれこそが幸せであると認識しているのなら、この俺とは見えている世界がただ違うだけなのかもしれない。
けど、そんなことを思いつつ誰かから来たベーグルの写真に向けられたコメントに、どう返そうかと悩んでいる水無瀬さんは可愛い。ダブルスタンダードだと何だと言われようが、彼女に関することはそれ以外とで俺の中では別なのだ。
そこを非難されても、俺が好かれたいのは水無瀬さんだけなので、特に問題はない。彼女がそういうことを望まないのなら何も言わないが、男避けに二人の写真を一枚くらい載せないのかなとは思っている。
思い通りにはならなくて予想もつかない彼女の思考に、俺はいつも翻弄されるだけ。
「……ねえ。水無瀬さん。俺と、写真撮らない?」
何故かその言葉に大袈裟に驚いた水無瀬さんは、危うく肘で押してしまったカフェオレを零しそうになったので、俺が咄嗟にマグカップをキャッチすれば恥ずかしそうに照れ笑いした。
「ありがとう……ごめんなさい。けど、な、なんで!! 芹沢くんって、写真嫌いじゃないの?」
「確かに勝手に写真を撮られるのは、嫌だとどこかで言ったかもしれない。けど、水無瀬さんに撮られるのなら、俺も何も言わないよ。彼女だし。頼むから、その手の情報は、俺の口から聞いて確認して。佐久間に色々と何かを聞いてるのは、知ってるけど。情報源の中で一番良い情報くれるのは、絶対本人だよ。あと、何より確実だ」
「そっ……それも、そうだよね。けど、芹沢くんが写真嫌いって聞いたのは、私が芹沢ガールの時だから。私たちの不文律だったの。芹沢くんにカメラのレンズ向けたら、もう挨拶に行くことすら許されなくなるって」
「だって、お腹が空いてるのに、早く食べたいという気持ちを我慢する意味がわからないもん」
そう言って彼女は大きく口を開いて、自分で具材を決めたベーグルを美味しそうに食べてから、「サーモンチーズ、美味しい」とにこっと微笑んだ。そんな水無瀬さんに釣られるようにして、こちらも笑ってしまう。
俺はこの可愛くて自分のことを大好きな生き物を、後でどうやって味付けして食べようかと現在思案しているところなんだが。もちろん、口には出す訳もないので彼女は知る由もない。
「……わ。さっきベーグルの写真をアップした投稿に、いいねが来た。嬉しい。あ。ゆうくんも、コメントしてくれた。可愛いね場所教えてだって。この人って、本当にマメだよね。コミュ力カンストこわい。ここのベーグル、お洒落で可愛いもん。皆の反応すごく良いよ。芹沢くんの連れて行ってくれるところって、気の利いた可愛いところばっかりだよね」
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けど、そんなことを思いつつ誰かから来たベーグルの写真に向けられたコメントに、どう返そうかと悩んでいる水無瀬さんは可愛い。ダブルスタンダードだと何だと言われようが、彼女に関することはそれ以外とで俺の中では別なのだ。
そこを非難されても、俺が好かれたいのは水無瀬さんだけなので、特に問題はない。彼女がそういうことを望まないのなら何も言わないが、男避けに二人の写真を一枚くらい載せないのかなとは思っている。
思い通りにはならなくて予想もつかない彼女の思考に、俺はいつも翻弄されるだけ。
「……ねえ。水無瀬さん。俺と、写真撮らない?」
何故かその言葉に大袈裟に驚いた水無瀬さんは、危うく肘で押してしまったカフェオレを零しそうになったので、俺が咄嗟にマグカップをキャッチすれば恥ずかしそうに照れ笑いした。
「ありがとう……ごめんなさい。けど、な、なんで!! 芹沢くんって、写真嫌いじゃないの?」
「確かに勝手に写真を撮られるのは、嫌だとどこかで言ったかもしれない。けど、水無瀬さんに撮られるのなら、俺も何も言わないよ。彼女だし。頼むから、その手の情報は、俺の口から聞いて確認して。佐久間に色々と何かを聞いてるのは、知ってるけど。情報源の中で一番良い情報くれるのは、絶対本人だよ。あと、何より確実だ」
「そっ……それも、そうだよね。けど、芹沢くんが写真嫌いって聞いたのは、私が芹沢ガールの時だから。私たちの不文律だったの。芹沢くんにカメラのレンズ向けたら、もう挨拶に行くことすら許されなくなるって」
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