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55 推し活
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「……芹沢って、怖いくらいあんたのこと……好きなんじゃない?」
美穂ちゃんはでれでれしつつ私が話した惚気にも似た、このところのいくつかの出来事を聞いて、真顔で私を指差した。
恋愛マスターな彼女にそう言われて、私の顔はデレっといとも簡単に崩れた。言われるだろうなって思ったし、言ってくれるとわかってた。いわゆるわかりあったもの同士の、筋書きの決まった予定調和というもの。
私の期待には、ちゃんと応えてくれる良い友達の美穂ちゃんなのだ。
「えへへ……美穂ちゃんも、そう思う? あの芹沢くんが、物凄く私のことが好きなんだよ。長すぎる夢の中なのかな……ねえ。これって夢じゃないよね」
「好きじゃないと、あんな山奥まで長距離を危険を覚悟で台風の中、車に乗って迎えに行ったりしないわよ。前もってのバカな女対策もバッチリだったし、私たちが予想していたわかりやすい嫌がらせなんかも、まったく起こってない……そんな先回りをしてしまう芹沢だから、何も考えていないから自分には予想もつかない初音が良いのかもね。私は、そこはなんだか納得した」
「え。ちょっと待って。私だって、何も考えてない訳じゃないよ」
頭の良い芹沢くんが考えている百分の一くらいの何かは多分、考えている……つもり。
「少しでも物事を考えられる子は、もうすぐ台風が来るっていうのに、山の中に取り残されたりなんか……しないわよ。本当に良く、遭難しなかったわね。それで、水没した車は結局どうなったの?」
「あ。車は持ち主の久留生くんが、良い保険に入っていたから、それで全額補償になるみたいで……保険を使って保険料が上がった分だけ負担してくれたら、それで良いからって、芹沢くんに言ってくれたみたい」
あの日、芹沢くんの友人久留生くんは、私たちをあんな場所にまで迎えに来てくれた。
彼は私とはキャンパスだって違うし、誰かのSNSに載っている彼の姿をたまに見ているだけだったんだけど、医学生のイケメンなのに全く偉そうじゃない。物腰は顔付き通りに上品で柔らかくて、とても優しかった。
育ちが良いって芹沢くんが言っていた通りに、車が水没して身動きの取れなくなった私たちのことをとても心配してくれていた。
何より二時間も掛けて早朝に運転してくれて、その行動だけでも彼の人柄は伝わって来た。
「……けど、初音。そうやって自分のことを好きで居てくれるからと、慢心して油断をしていたら、あっという間に向こうの好意は目減りするものよ。付き合い始めなんて、どんな男もべた褒めと甘い言葉が炸裂するのは、当たり前のことなんだから注意しなさいよ」
「えっ……ちょっと、待って。美穂ちゃん。それって、どういうこと?」
半目になって脅すかのような美穂ちゃんからの不吉な言葉に、私は息を飲んだ。だって、彼女が恋愛関連で何か言ったことは、後々になってそういえばと考えてみると大体は間違えていない。
「常に向こうを追わせることを、意識させるのよ。男には安心感をあげるよりも、掴めそうで掴めないというもどかしさを与えた方が、より愛されるものなんだから」
「そうなんだ……ねえ。美穂ちゃん。追わせるって、どうしたら良いの? 芹沢くんを追わせてみようなんて、私は考えたこともないよ」
どちらかというと芹沢くんを常に追って来た自覚のある私は、彼から追い掛けさせるってどうしたら良いんだろうと、そんな方法は皆目見当もつかなかった。
美穂ちゃんはでれでれしつつ私が話した惚気にも似た、このところのいくつかの出来事を聞いて、真顔で私を指差した。
恋愛マスターな彼女にそう言われて、私の顔はデレっといとも簡単に崩れた。言われるだろうなって思ったし、言ってくれるとわかってた。いわゆるわかりあったもの同士の、筋書きの決まった予定調和というもの。
私の期待には、ちゃんと応えてくれる良い友達の美穂ちゃんなのだ。
「えへへ……美穂ちゃんも、そう思う? あの芹沢くんが、物凄く私のことが好きなんだよ。長すぎる夢の中なのかな……ねえ。これって夢じゃないよね」
「好きじゃないと、あんな山奥まで長距離を危険を覚悟で台風の中、車に乗って迎えに行ったりしないわよ。前もってのバカな女対策もバッチリだったし、私たちが予想していたわかりやすい嫌がらせなんかも、まったく起こってない……そんな先回りをしてしまう芹沢だから、何も考えていないから自分には予想もつかない初音が良いのかもね。私は、そこはなんだか納得した」
「え。ちょっと待って。私だって、何も考えてない訳じゃないよ」
頭の良い芹沢くんが考えている百分の一くらいの何かは多分、考えている……つもり。
「少しでも物事を考えられる子は、もうすぐ台風が来るっていうのに、山の中に取り残されたりなんか……しないわよ。本当に良く、遭難しなかったわね。それで、水没した車は結局どうなったの?」
「あ。車は持ち主の久留生くんが、良い保険に入っていたから、それで全額補償になるみたいで……保険を使って保険料が上がった分だけ負担してくれたら、それで良いからって、芹沢くんに言ってくれたみたい」
あの日、芹沢くんの友人久留生くんは、私たちをあんな場所にまで迎えに来てくれた。
彼は私とはキャンパスだって違うし、誰かのSNSに載っている彼の姿をたまに見ているだけだったんだけど、医学生のイケメンなのに全く偉そうじゃない。物腰は顔付き通りに上品で柔らかくて、とても優しかった。
育ちが良いって芹沢くんが言っていた通りに、車が水没して身動きの取れなくなった私たちのことをとても心配してくれていた。
何より二時間も掛けて早朝に運転してくれて、その行動だけでも彼の人柄は伝わって来た。
「……けど、初音。そうやって自分のことを好きで居てくれるからと、慢心して油断をしていたら、あっという間に向こうの好意は目減りするものよ。付き合い始めなんて、どんな男もべた褒めと甘い言葉が炸裂するのは、当たり前のことなんだから注意しなさいよ」
「えっ……ちょっと、待って。美穂ちゃん。それって、どういうこと?」
半目になって脅すかのような美穂ちゃんからの不吉な言葉に、私は息を飲んだ。だって、彼女が恋愛関連で何か言ったことは、後々になってそういえばと考えてみると大体は間違えていない。
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「そうなんだ……ねえ。美穂ちゃん。追わせるって、どうしたら良いの? 芹沢くんを追わせてみようなんて、私は考えたこともないよ」
どちらかというと芹沢くんを常に追って来た自覚のある私は、彼から追い掛けさせるってどうしたら良いんだろうと、そんな方法は皆目見当もつかなかった。
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