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52 トラブル

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 それは私自身が、自分が完全に悪いと言い切れるようなトラブルだった。

 夏季休校中にやるはずではあったんだけど色々理由があって延び延びになっていたフィールドワークのために、とある山奥の神社へと教授と私たち生徒の何人かで来ていた。

 けど、行きに車を出してくれた教授はどうしても帰らなければいけない用事が出来てしまったから、彼だけ先に帰ることになった。

 水無瀬さんも、良かったら一緒に帰る? とは言われたものの、公共交通機関もあるし子どもじゃないし大丈夫ですと、私ははきはきとして答えた。

 残った他の皆とはまだ神社で少し調べたいことがあるからと言って別れて、その時既に私は一人行動になった。

 山頂の神社の神主さんからの話を聞かせて貰った時に、「台風も近くに来ているし、早い時間に帰りなさい」と言われた。

 今日日本に向かって台風が来ていることは知っていたけど、私は個人的にとある史跡も見ておきたかった。田舎好きの私にとっては堪らない、以前から気になっていた良い感じの苔むした史跡がその場所にはあったのだ。

 時計を見れば台風が直撃するだろう真夜中の時間帯には、まだまだ十分に余裕があった。

 バスに乗って山を降りれば、すぐに電車に乗るための小さな無人駅はある。交通機関が確保出来ていれば大丈夫だろうと、思ったのが運の尽きだった。

 そして、私は長時間道に迷った。

 迷い迷ってようやくバスに乗り山をやっと降りられた時にはもう遅い。バスを降りる時に運転手さんから大丈夫かと確認されたけど、笑顔で手を振った。

 けど、電車は運行を見合わせていて、スマホで検索しても近くに宿はない。

 田舎にある屋根が付いたバス停の下で、私は一人嵐の夜を過ごすことになってしまった。

 もしかしたら、向こうの方にポツンと見える近くの民家を訪ねれば、一晩泊めてくれたかもしれない。けど、見知らぬ人の家に泊まるというのは、都会育ちの私には心理的にハードルが高過ぎるし正直に言えば怖かった。

 もちろんだけど、見渡しても人通りは0。どこを見ても人っ子一人居ない。そこはまるで、誰も住んでいないゴーストタウンのようだった。それも当たり前のことだと思う。台風が来るのに、無防備に外に居るなんて。

 もしかしたら、日本で私一人だけかもしれない。

 スマホがブルブル震えて取り出せば、その人の名前を見ただけで思わず嬉しくなってしまう人からの着信だった。

『水無瀬さん。俺。帰って来るの、遅くない? 今どこにいるの? 電車に乗ってる? 近くまで迎えに行こうか?』

 今日、帰りに家に行くはずだった芹沢くんは、なんでこんな時間になっても私が来ないのかと、答えを聞きたい疑問が沢山あると思う。

 けど、こんな最悪な事態を招いたのは、完全に私が間抜け過ぎるだけなので、彼にどう説明すれば良いのか迷って言葉に詰まってしまった。

 今にも雨が降り出しそうな空へと視線を上げれば、ドス黒い厚い雲が流れて来た。これから荒天の中で外で過ごすなんて嫌なんだけど、状況的にはそうするしかない。
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