0時のコンビニ、眼鏡すっぴんで片思いの人と鉢合わせた真夏の熱帯夜

待鳥園子

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50 許せない

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「……あの出来事が芹沢くんが、裁判官になろうと志した理由だったんだね」

「俺は……人は安易に、人を裁き過ぎだと思った。あの子の時だって、結局は欠席裁判だ。ちょっと過去躓いた出来事を好きなように面白がって噂されたあの子の言い分は、俺以外の誰も知ろうとしなかった。だが、普通に生活をしていて、双方の言い分と事情をすべて知ることなど、絶対に出来ない。不可能だ。それに本来であれば、人を裁くとするなら神のような存在でしか裁けないはずだ。けど、人が人を裁く存在として、裁判官が居る。だから、自分がそうなってみたかった。そうしたら、常に中立の立場で判断し、すべてを公平に見ることが出来るようになれば。この消えない怒りも、いつか……いつか納得出来て消えるんじゃないかと、そう思った」

 芹沢くんは、怒ってる。

 きっとその対象は、他の誰でもない。あの時の若かった何も知らなかった、自分なのだと思う。彼は優秀過ぎるがゆえに、間違いを犯した若かった自分を許せない。仕方がなかったことなのだと、未だに諦められない。

 なんで、あの子を助けてあげられなかったんだと、今までずっとあの時の自分自身を責めて、何も知らなかったあの頃を許せないでいるんだ。

 隣を歩いていた私は、彼の温かな手を取って手を繋いだ。芹沢くんは自分の中に再度湧き上がった怒りをどうにか収めるようにして、何度か大きく息をついた。

「ね。芹沢くん」

「……何?」

「私、芹沢くんのそういうところも。真面目で優しくて、過去に失敗したと思ってる自分を今も許せないと思っているところも、全部全部好きだよ」

「……ありがとう。俺も、水無瀬さんが好きだよ」

 ここで無理してでも笑う芹沢くんは私の前では、私が好きっぽい彼で居ようとしている。

 私は俳優のような容姿に一目惚れしたのは事実なんだけど、知れば知るほど好きになって、芹沢くんが鼻からうどんを出していても、別に幻滅なんてせずに好きだと思う。

 こんな風に、誰だとしてもきっとどうしようもないことだったのに。何年も自分のせいだと自分を責めて続けて、今も苦しんでいるところも。

「起こってしまった過去は変わらないのはもう、仕方ないんだけど……私ね。その女の子、芹沢くんにそんな風に後悔して欲しくないと思ってると思うよ。だって、絶対に芹沢くんのこと……好きだったもん」

「それは……わからないよ。だって、俺のせいで……」

「芹沢くんから仲良くなりたいなって思われて、話し掛けられてたんでしょ? 私だったら、秒で恋に落ちてる」

「秒」

 微笑んでくれた芹沢くんの張りつめていたものは、少しだけ緩んだようだった。私も一緒に笑顔になると、彼は握っていた手の力を込めた。

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