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03 扇風機の向き
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「ねえ。水無瀬さん。いつも、俺と話したそうにしてるのに。なんで、今日はそんなに避けるの?」
「じゃあ。いつも相手にしてくれないのに、なんで今日に限ってしつこいの?」
とても人気の芹沢くんは自分の周りに居る女の子なんて、適当に挨拶する程度だ。大学で会話が成立しているのを見たことがあるのは、何人かいる仲良しの男友達だけで。取り巻きの芹沢ガールなんて、居ないものとして扱い、相手になんてしない。
そんな人に追いかけられるという、今こうしている状況が信じられない。
「そんな風に思っていたなんて、なんか心外だけど。俺だって、別に好きであんな風な態度をしている訳じゃないけど」
「……どういうこと?」
私は顔を手で押さえつつ、彼の顔を見た。頼りない街灯の光の下でも、芹沢くんの顔が整っていることがわかってしまう。本当に、綺麗な顔をしている。
「高校の時に何も考えずに仲良くしていた女の子が、虐められて学校来なくなったんだ。俺だって、話したい子はいる。けど、そうやって誰かを選ぶと、その子の居る集団から爪弾きに遭う。俺だって、別にそんなことしたい訳じゃない。けど、大勢居る自分のことが好きそうな女の子を、全員平等に扱える訳なんてない。だから、全員平等に話さないようにしてる。それだけ」
いきなり飛び出した、今まで思ってもみなかった芹沢くんの本音に、私は驚いて目を瞬いた。だって、あまりにモテ過ぎる彼は、周囲に居る女の子のことを対等な存在だと思っていないと、ずっと思っていたからだ。
「じゃあ、なんで……今夜は、話してくれるの?」
そう言えば、芹沢くんは今まで見せたことのない悪戯っぽい笑顔を見せた。
「だって、今は俺と水無瀬さんしか居ないし……それに、これって本当にただの偶然だし。二人だけの秘密にしてたら、大丈夫だよ」
「……私が誰かから虐められるかもって、心配してる?」
こんな風にほんの少しだけ、話しただけだというのに芹沢くんは何かを心配しているようだった。
「正直言えば……うん。そうだよ。どんなに理不尽な理由だったとしても、自分より得をしているだけの人間に難癖を付けて、容赦のないことをする人間はいくらでも居る。それにそういう集団になったら、怖いから。俺が庇ったら、また変な事になる。だから、慎重にもなる。前例あっての、自己防衛方法」
芹沢くんの淡々とした口調は、彼が生きて来た中でそういうことが何度もあったことを教えてくれた。
これだけ何もかもを持つモテる人にも色々悩みがあるんだなと、未だかつてモテたことのない私は不思議に思ったりもした。
「そっか……芹沢くんも、なかなか大変なんだね」
ようやく歩く速度を緩めた私に続きながら、彼は苦笑した。
「そうなんだよ。気になる女の子に話し掛けるのも、慎重になる。利害の一致した女の子の集団って、本当に陰湿だから。だから、秘密にして欲しい。俺と、こうして会って話したこととか……うん」
「そんなにも心配なら。決まった彼女、作ったら良いのに」
芹沢ガールとして、純粋に彼の幸せを願うファンとして、私は心からそう思った。決まった正式な彼女なら、ファンとしても文句の付けようがない。推しが独り身で居るのも不安になってしまう、複雑なファン心。
「……好きな人以外と、付き合いたくないんだよね」
芹沢くんの言わんとしていることは、わかる気がする。
「付き合ってたら、好きになるかも?」
なんて、初めての彼氏と別れて長い私が言っても、あまり良いアドバイスとは言えないかもしれない。けど、恋愛上手な友達の美穂ちゃんだって、前にそれっぽいことを言っていた気がする。
「じゃあ。いつも相手にしてくれないのに、なんで今日に限ってしつこいの?」
とても人気の芹沢くんは自分の周りに居る女の子なんて、適当に挨拶する程度だ。大学で会話が成立しているのを見たことがあるのは、何人かいる仲良しの男友達だけで。取り巻きの芹沢ガールなんて、居ないものとして扱い、相手になんてしない。
そんな人に追いかけられるという、今こうしている状況が信じられない。
「そんな風に思っていたなんて、なんか心外だけど。俺だって、別に好きであんな風な態度をしている訳じゃないけど」
「……どういうこと?」
私は顔を手で押さえつつ、彼の顔を見た。頼りない街灯の光の下でも、芹沢くんの顔が整っていることがわかってしまう。本当に、綺麗な顔をしている。
「高校の時に何も考えずに仲良くしていた女の子が、虐められて学校来なくなったんだ。俺だって、話したい子はいる。けど、そうやって誰かを選ぶと、その子の居る集団から爪弾きに遭う。俺だって、別にそんなことしたい訳じゃない。けど、大勢居る自分のことが好きそうな女の子を、全員平等に扱える訳なんてない。だから、全員平等に話さないようにしてる。それだけ」
いきなり飛び出した、今まで思ってもみなかった芹沢くんの本音に、私は驚いて目を瞬いた。だって、あまりにモテ過ぎる彼は、周囲に居る女の子のことを対等な存在だと思っていないと、ずっと思っていたからだ。
「じゃあ、なんで……今夜は、話してくれるの?」
そう言えば、芹沢くんは今まで見せたことのない悪戯っぽい笑顔を見せた。
「だって、今は俺と水無瀬さんしか居ないし……それに、これって本当にただの偶然だし。二人だけの秘密にしてたら、大丈夫だよ」
「……私が誰かから虐められるかもって、心配してる?」
こんな風にほんの少しだけ、話しただけだというのに芹沢くんは何かを心配しているようだった。
「正直言えば……うん。そうだよ。どんなに理不尽な理由だったとしても、自分より得をしているだけの人間に難癖を付けて、容赦のないことをする人間はいくらでも居る。それにそういう集団になったら、怖いから。俺が庇ったら、また変な事になる。だから、慎重にもなる。前例あっての、自己防衛方法」
芹沢くんの淡々とした口調は、彼が生きて来た中でそういうことが何度もあったことを教えてくれた。
これだけ何もかもを持つモテる人にも色々悩みがあるんだなと、未だかつてモテたことのない私は不思議に思ったりもした。
「そっか……芹沢くんも、なかなか大変なんだね」
ようやく歩く速度を緩めた私に続きながら、彼は苦笑した。
「そうなんだよ。気になる女の子に話し掛けるのも、慎重になる。利害の一致した女の子の集団って、本当に陰湿だから。だから、秘密にして欲しい。俺と、こうして会って話したこととか……うん」
「そんなにも心配なら。決まった彼女、作ったら良いのに」
芹沢ガールとして、純粋に彼の幸せを願うファンとして、私は心からそう思った。決まった正式な彼女なら、ファンとしても文句の付けようがない。推しが独り身で居るのも不安になってしまう、複雑なファン心。
「……好きな人以外と、付き合いたくないんだよね」
芹沢くんの言わんとしていることは、わかる気がする。
「付き合ってたら、好きになるかも?」
なんて、初めての彼氏と別れて長い私が言っても、あまり良いアドバイスとは言えないかもしれない。けど、恋愛上手な友達の美穂ちゃんだって、前にそれっぽいことを言っていた気がする。
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