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しおりを挟む出会いは半年前に遡る。
駅前大通りのファミリーレストラン『Eat me』は今日も大変に繁盛している。
人気メニューは、チーズインハンバーグに更にチーズをかけたもの。食べる者の胃袋をカロリーでぶん殴ってくる逸品だ。
そのカロリー兵器にカルボナーラ、デザートにデラックスパフェを頼む猛者が現れて、店内は俄かに騒ついた。
ピンクにイエローの水玉ワンピース、グリーンのタイツを履いた推定百キログラムの女性客。彼女を親しい者は『タムちゃん』と呼ぶ。
タムちゃんは窓から離れた席で出されたお冷を豪快に煽り、ブルネットのボブをサラリと揺らした。
そこでカランカランと来客のベルがなって、店員はハッと我に返った。
「いらっしゃいませ」
そう声を掛けた後、思わず二度見しそうになるのを店員は何とか堪えた。
入店した、ピンクのスリーピーススーツにブラックのシャツ、イエローのネクタイをしめた細身の男性客を席に案内する。彼の名を『ジョージ』という。
ジョージは豆とレタスのサラダとタマネギのスープを注文して、窓際の席で気取った風に新聞を読み始めた。
昼時のファミリーレストランは一気に混沌の最中となり、客も店員も微妙な沈黙を守っていた。
突如現れた派手な人間に、周囲は大変困惑した。
しかし、店員は仕事中である。完成した料理を何でもない顔をして、指示されたテーブルに運ぶ。
片やハイカロリーのハイファット、片やローカロリーのローファット。派手な服装で真逆の料理を口に運ぶ二人に、店内が異様な空気になった頃。
そこで二人は漸くお互いの存在に気が付いた。
(この女、メチャクチャ油摂ってるな)
(この男、全然油摂ってねーな)
テーブルの上を観察した後、各々がそんな感想を抱いた。
(しかし、まあ、服のセンスは悪くない)
お互いが勝手に値踏みし合って、フンと笑う。
そして、それぞれ何事もなかったかのように食事を開始した。
吸い込むように食べるタムちゃんの食事風景は、まさに異次元であった。それを意に介さず、ジョージは一口一口丁寧に噛んで飲み込んだ。
そんな何から何まで真逆の二人は、同じタイミングで食事を終えて、席を立った。
周囲の客が無意識に固唾を飲んで見守る中、両者はレジ前にて対峙する。
(やっぱり服のセンスは悪くない)
困惑する店員を余所に、改めてお互いをそう評して、二人は固い握手を交わした。
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