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第一章
第13話 コガネ、再び
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「あー! いい、朝!」
「うーん、太陽が出ているから雪解けには気をつけないといけないね~」
「ショッパ……」
「ヒロト。本当のことだよ?」
分かってる。分かってるけど、言わないでほしかった。
これでアカリさんの捜索が遅れたらどうするのさ。まあ、昨日雪で足止めされた分、遅れてはいるけどさあ。
「んんっ、今日は暖かそうね」
窓枠に座って外の景色を見ているメルは、ご機嫌そうに尻尾をユラユラ揺らしている。
僕たちは今、南美橋までバスに乗って三十分ほどの町にいるんだ。バスを降りたこの町は、お姉さんのいる町や港町ほど大きくはないけれど、エン太くんたちの村よりは断然大きくて、宿だけではなくホテルもあった。
まあ……、僕たちは小学生で、メルもいるから宿やホテルには泊まれなかったんだけどね。
「おはようございます、ヒロトくん。正八くん。メルさん」
「あ、山田さん! おはようございます」
「おはようございます」
「おはよ~う」
「十分ほどで朝食の準備ができますので、身支度を調えたら食堂に降りてきてくださいね」
「「「はーい!」」」
山田さんの言葉に、僕たちは声をそろえて言った。
昨日、泊めてくれる宿やホテルが見つからず、頭や肩に雪を積もらせながらどうしようかと考えていると、通りがかった車に乗っていた山田さんが、このお屋敷に連れてきてくれたんだ。
ここは山田さんがお仕えしているお嬢さんのお爺様、大旦那様の家で、お嬢さんは隣町に住む友人に会うため、このお屋敷に泊まりに来ているんだってさ。
僕たちが山田さんに連れられてお屋敷の中に案内されると、ロビーでお嬢さんとメイドさんが一緒に僕たち……じゃなくて、山田さんを迎えた。山田さんは事前に僕たちを保護したことを連絡していたみたいで、お嬢さんは僕たちのために客間を用意してくれたんだけど、その連絡をするためにわざわざロビーで待っていたって、お部屋に案内してくれたメイドさんが教えてくれたよ。
大旦那様には夕食の席で会ったんだけど、優しいおじいさんで「明日は晴れる予報が出ているから、それまでこの屋敷でゆっくり休みなさい」と言ってくれた。お嬢さんも「長旅で疲れたでしょう? 今日はゆっくり休むといいわ」と言って、僕たちの頭をなでてくれたよ。
「それじゃあ、食堂に行こうか」
「うん。メルも行くよー」
「はーい!」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました。このご恩は忘れません」
「お屋敷に泊めてくれてありがとう。とても助かったわ!」
「いえいえ。お嬢さんならどうするか、考えただけですよ。ああ、これを持って行きなさい。お嬢様が君たちのために用意した昼食です。中身は開けてのお楽しみ、ですよ」
「わあ! 本当にありがとうございます」
「なにが入っているんだろうね!」
「私のもあるの?」
「ええ、メルさんのための猫まんまも入ってますよ」
山田さんが言うと、メルは嬉しそうに尻尾を振った。
朝十時。僕たちは朝食後にお屋敷に泊めてくれた大旦那様とお嬢さん、山田さんや使用人の人たちにお礼を言って、お屋敷を出た。
山田さんは僕たちをバス停まで連れて行こうとしてくれたけど、お仕事があるからお屋敷の門のところでお別れをしたんだ。お嬢さんがお出かけの用意をしていたから、お嬢さんをどこかに連れて行くお仕事なんだろうなあ。
お屋敷からバス停までの地図をもらって、地図通りに歩いていると道に積もっていた雪がとけてきていることに気づく。僕もショッパも防水の長靴を履いているけど、道路がすべりやすくなってるってことだよね。あと三十分ほどバスに乗るから、バスがスリップしなければいいなあ。
「ここら辺って、あの村に比べたら雪が積もってないけど、太陽が出ているから雪がとけてきて屋根の上から雪が落ちてきそうだね」
「そんなこと言わないでよ、ショッパ」
「そうよ~。言霊って言うものがあるんだから、本当に落ちてきたらどうするのよ」
「えへへっ、ごめんね」
ショッパは笑っているけれど、丁度その時、道路をはさんだ向かい側の家の屋根から雪がドサリと落ちてきた。
「……」
「…………」
「え、えへっ?」
言霊って、怖いね。
僕とメルは目を見合わせて、そう思った。……と、思う。
積もった雪に足を取られないように、とけた雪で足をすべらさないように気をつけて、僕たちはバス停へと向かった。
三十分ほど道のりは、雪がとけだしてすべりやすくなっていたため、プラス十分。四十分の道のりになった。
昨日みたいに四時間以上バスに揺られるよりはマシだけど、僕たちと同じように昨日、この町で降りた人たちもいたから、バスの中は暑苦しくて大変だったよ。暖房が効いていて暖かいと言うよりは暑いし、近くに座っていたおばさんの香水のにおいが強くて、いろんな意味で大変だった。
「あー、バスの中は暑かったのに、外はひんやりしてて逆に涼しいよ」
「こら、ヒロト! マフラーはちゃんとしなさいよ。風邪をひくわよ!」
「まあまあ、メル。少しぐらい涼んでもいいじゃないか」
あまりの暑さで、バスを降りてから少しの間、僕とショッパはマフラーを外して歩いた。バスの中で茹でダコになるかと思ったよ……。
「南美橋まで、あとどれくらいかなあ?」
「十分ぐらいじゃないかな。掲示板にはバス停から十五分ぐらいって書いていたけど、雪で歩きづらいからもうちょっとかかると思うよ」
バスを降りたのは南美橋まで歩いて十五分ほどの町中。バス停から南美橋までの最短ルートは、路地裏を通って川沿いに出て上流に向かっていくらしいんだけど知らない場所で路地裏に入るのは迷子になったら嫌だからやめた。
ショッパは路地裏から行こうって言ったけど、メルと一緒にどうにか説得して大通りから川沿いを目指すことにしたよ。
それにしても、ショッパはこの町の土地勘があるのかなあ?
バス停近くの掲示板に貼ってあった、この町の地図を見ながら南美橋までのルートを考えたのはショッパだ。でも、地図は分かりやすかったから、ショッパが地図を見るのが得意なだけかもしれないね。
僕はそういうの、あまり得意じゃないからなあ。方向音痴じゃないけど、地図をすぐに覚えられないから、知らない場所を歩く時は地図アプリが必須なんだ。父さんや母さん、おじいちゃんにおばあちゃんがいれば、僕は着いていくだけでいいんだけど、一人で自分の行きたい場所に行く時は地図アプリの入ったスマートフォンと睨めっこさ。
「ヒロト、ボーッとしながら歩くと転ぶわよ~」
「ん、ごめんごめん」
考えごとをしながら歩いたら、危ないよね。
今は南美橋に無事に着くことが第一だ。そこにアカリさんがいれば、コガネくんのお母さんの時みたいにアカリさんのなくし物がどこにあるか分かると思う。いなかった時はいなかった時で、橋の近くにいる人たちに聞こう!
「……ん?」
「どうしたの、メル」
「いえ、ちょっと……。聞き覚えのある声が聞こえたのよ」
「聞き覚えのある声?」
「この町に来たのはついさっきだから、誰も知っている人はいないけど……」
「もしかして、どこかであった人がいるとか?」
どうだろう?
ただ、ここで立ち止まって考えていても時間の無駄だから、とにかく南美橋まで行かなきゃ。
そう思ったところに、進行方向にある家から見覚えのある少年が出てきた。
「あれ?」
「えっ?」
「うっそお……」
僕たちは思わず立ち止まってしまい、その少年を凝視した。
「あっ! おにいちゃんたちとメルちゃん!」
その少年は、最初の町で出会ったコガネくんだった。どうして、こんなところにいるんだろう……?
「うーん、太陽が出ているから雪解けには気をつけないといけないね~」
「ショッパ……」
「ヒロト。本当のことだよ?」
分かってる。分かってるけど、言わないでほしかった。
これでアカリさんの捜索が遅れたらどうするのさ。まあ、昨日雪で足止めされた分、遅れてはいるけどさあ。
「んんっ、今日は暖かそうね」
窓枠に座って外の景色を見ているメルは、ご機嫌そうに尻尾をユラユラ揺らしている。
僕たちは今、南美橋までバスに乗って三十分ほどの町にいるんだ。バスを降りたこの町は、お姉さんのいる町や港町ほど大きくはないけれど、エン太くんたちの村よりは断然大きくて、宿だけではなくホテルもあった。
まあ……、僕たちは小学生で、メルもいるから宿やホテルには泊まれなかったんだけどね。
「おはようございます、ヒロトくん。正八くん。メルさん」
「あ、山田さん! おはようございます」
「おはようございます」
「おはよ~う」
「十分ほどで朝食の準備ができますので、身支度を調えたら食堂に降りてきてくださいね」
「「「はーい!」」」
山田さんの言葉に、僕たちは声をそろえて言った。
昨日、泊めてくれる宿やホテルが見つからず、頭や肩に雪を積もらせながらどうしようかと考えていると、通りがかった車に乗っていた山田さんが、このお屋敷に連れてきてくれたんだ。
ここは山田さんがお仕えしているお嬢さんのお爺様、大旦那様の家で、お嬢さんは隣町に住む友人に会うため、このお屋敷に泊まりに来ているんだってさ。
僕たちが山田さんに連れられてお屋敷の中に案内されると、ロビーでお嬢さんとメイドさんが一緒に僕たち……じゃなくて、山田さんを迎えた。山田さんは事前に僕たちを保護したことを連絡していたみたいで、お嬢さんは僕たちのために客間を用意してくれたんだけど、その連絡をするためにわざわざロビーで待っていたって、お部屋に案内してくれたメイドさんが教えてくれたよ。
大旦那様には夕食の席で会ったんだけど、優しいおじいさんで「明日は晴れる予報が出ているから、それまでこの屋敷でゆっくり休みなさい」と言ってくれた。お嬢さんも「長旅で疲れたでしょう? 今日はゆっくり休むといいわ」と言って、僕たちの頭をなでてくれたよ。
「それじゃあ、食堂に行こうか」
「うん。メルも行くよー」
「はーい!」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました。このご恩は忘れません」
「お屋敷に泊めてくれてありがとう。とても助かったわ!」
「いえいえ。お嬢さんならどうするか、考えただけですよ。ああ、これを持って行きなさい。お嬢様が君たちのために用意した昼食です。中身は開けてのお楽しみ、ですよ」
「わあ! 本当にありがとうございます」
「なにが入っているんだろうね!」
「私のもあるの?」
「ええ、メルさんのための猫まんまも入ってますよ」
山田さんが言うと、メルは嬉しそうに尻尾を振った。
朝十時。僕たちは朝食後にお屋敷に泊めてくれた大旦那様とお嬢さん、山田さんや使用人の人たちにお礼を言って、お屋敷を出た。
山田さんは僕たちをバス停まで連れて行こうとしてくれたけど、お仕事があるからお屋敷の門のところでお別れをしたんだ。お嬢さんがお出かけの用意をしていたから、お嬢さんをどこかに連れて行くお仕事なんだろうなあ。
お屋敷からバス停までの地図をもらって、地図通りに歩いていると道に積もっていた雪がとけてきていることに気づく。僕もショッパも防水の長靴を履いているけど、道路がすべりやすくなってるってことだよね。あと三十分ほどバスに乗るから、バスがスリップしなければいいなあ。
「ここら辺って、あの村に比べたら雪が積もってないけど、太陽が出ているから雪がとけてきて屋根の上から雪が落ちてきそうだね」
「そんなこと言わないでよ、ショッパ」
「そうよ~。言霊って言うものがあるんだから、本当に落ちてきたらどうするのよ」
「えへへっ、ごめんね」
ショッパは笑っているけれど、丁度その時、道路をはさんだ向かい側の家の屋根から雪がドサリと落ちてきた。
「……」
「…………」
「え、えへっ?」
言霊って、怖いね。
僕とメルは目を見合わせて、そう思った。……と、思う。
積もった雪に足を取られないように、とけた雪で足をすべらさないように気をつけて、僕たちはバス停へと向かった。
三十分ほど道のりは、雪がとけだしてすべりやすくなっていたため、プラス十分。四十分の道のりになった。
昨日みたいに四時間以上バスに揺られるよりはマシだけど、僕たちと同じように昨日、この町で降りた人たちもいたから、バスの中は暑苦しくて大変だったよ。暖房が効いていて暖かいと言うよりは暑いし、近くに座っていたおばさんの香水のにおいが強くて、いろんな意味で大変だった。
「あー、バスの中は暑かったのに、外はひんやりしてて逆に涼しいよ」
「こら、ヒロト! マフラーはちゃんとしなさいよ。風邪をひくわよ!」
「まあまあ、メル。少しぐらい涼んでもいいじゃないか」
あまりの暑さで、バスを降りてから少しの間、僕とショッパはマフラーを外して歩いた。バスの中で茹でダコになるかと思ったよ……。
「南美橋まで、あとどれくらいかなあ?」
「十分ぐらいじゃないかな。掲示板にはバス停から十五分ぐらいって書いていたけど、雪で歩きづらいからもうちょっとかかると思うよ」
バスを降りたのは南美橋まで歩いて十五分ほどの町中。バス停から南美橋までの最短ルートは、路地裏を通って川沿いに出て上流に向かっていくらしいんだけど知らない場所で路地裏に入るのは迷子になったら嫌だからやめた。
ショッパは路地裏から行こうって言ったけど、メルと一緒にどうにか説得して大通りから川沿いを目指すことにしたよ。
それにしても、ショッパはこの町の土地勘があるのかなあ?
バス停近くの掲示板に貼ってあった、この町の地図を見ながら南美橋までのルートを考えたのはショッパだ。でも、地図は分かりやすかったから、ショッパが地図を見るのが得意なだけかもしれないね。
僕はそういうの、あまり得意じゃないからなあ。方向音痴じゃないけど、地図をすぐに覚えられないから、知らない場所を歩く時は地図アプリが必須なんだ。父さんや母さん、おじいちゃんにおばあちゃんがいれば、僕は着いていくだけでいいんだけど、一人で自分の行きたい場所に行く時は地図アプリの入ったスマートフォンと睨めっこさ。
「ヒロト、ボーッとしながら歩くと転ぶわよ~」
「ん、ごめんごめん」
考えごとをしながら歩いたら、危ないよね。
今は南美橋に無事に着くことが第一だ。そこにアカリさんがいれば、コガネくんのお母さんの時みたいにアカリさんのなくし物がどこにあるか分かると思う。いなかった時はいなかった時で、橋の近くにいる人たちに聞こう!
「……ん?」
「どうしたの、メル」
「いえ、ちょっと……。聞き覚えのある声が聞こえたのよ」
「聞き覚えのある声?」
「この町に来たのはついさっきだから、誰も知っている人はいないけど……」
「もしかして、どこかであった人がいるとか?」
どうだろう?
ただ、ここで立ち止まって考えていても時間の無駄だから、とにかく南美橋まで行かなきゃ。
そう思ったところに、進行方向にある家から見覚えのある少年が出てきた。
「あれ?」
「えっ?」
「うっそお……」
僕たちは思わず立ち止まってしまい、その少年を凝視した。
「あっ! おにいちゃんたちとメルちゃん!」
その少年は、最初の町で出会ったコガネくんだった。どうして、こんなところにいるんだろう……?
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