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後日談2オウギュスト
しおりを挟む近衛騎士団の式典用制服に身を包んだ佳人が王宮内に入ると、周囲はどよめきながら注目してきた。
視線を一身に浴びる佳人、イヴォンの隣を歩くオウギュストは、表面上いつも通りに、しかし内心この状況を苦々しく思っていた。
今日は国王陛下による、副団長の任命式である。
国王直々に副団長の任命式など、これまでしたことがなかった。オウギュストのときだって騎士団内部で、団長から任命書を渡されただけだ。
それなのにイヴォンが副団長になると知るや否や、国王が式をしようと言いだした。
忠誠を誓ったはずの国王陛下に悪態をつきたくなりつつ、周囲を睥睨する。
おそらく噂を聞きつけてイヴォンの姿を見に来たのだろう。普段よりも人が多い。
そんな中を通り抜け、謁見室へ入る。
謁見室内にいる侍従や役人の数も不自然に多い。しばらく待ち、国王がやってきた。国王だけでなく、王妃と王太子までもが来た。
式はつつがなく執り行われた。
国王がイヴォンに声をかけ、イヴォンが前に進み出る。国王の任命の言葉に、イヴォンが片膝をついて拝命する。その後、剣と任命書が渡されて終了。
イヴォンが一礼してオウギュストの元へ戻ろうとしたとき、国王が寛いだ雰囲気を出し、声をかけてきた。
「しかし、主教――いや、違った。つい主教と呼んでしまうな。これからはデュノア卿、もしくは副団長と呼ばねばな。貴公はなぜ、神官をやめて騎士団へ入団しようと思ったのだ。話を聞いたときには、本当に驚いたものだが」
そんな話なら、オウギュストが今日までに何度も説明した。それなのに国王はイヴォンからも聞こうとする。
「遠征の際、私の事務処理能力を見た団長が、評価してくださったのがきっかけでございます。神に仕えることも尊いですが、陛下に仕えることはそれ以上に私に喜びを与えるものだろうと思ったのです。今後は私の力を、陛下の近衛騎士団のために使っていきたいとの思いでございます」
アルカイックスマイルを湛えてよどみなく答えるイヴォン。そこに王妃が口を挟む。
「ねえイヴォン。近衛騎士団になったなら、当然護衛をするのですよね。だったら私の専属になってほしいと思うんですの。だって、元主教様の騎士ですから、神のご加護も厚いでしょう。そんな人が傍にいたら神を身近に感じられて、安心できますもの。神の御言葉を聞きたいときにいつでも聞けますわ」
ねっとりと媚びた女の眼差しをイヴォンに向ける王妃。オウギュストが口を開きかけたが、王太子が先に声を発した。
「母上! 先ほど、俺が専属にしたいとお話ししたではありませんか! カリーヌが王妃教育のために王宮へ度々来ることになりますから、カリーヌも顔見知りの主教――イヴォンがいれば彼女も安心するでしょうし、王妃教育の中にある神学の授業も任せられる。俺も一緒に学び直すのもいいかもと」
「恐れながら!」
オウギュストは不敬と承知しつつ、王太子がまだ喋っているのに口を挟んだ。
「恐れながら。副団長には副団長の務めがあります。王妃様の専属護衛を務めるには、また別の規定が設けられており、イヴォン副団長には不可能です。たとえ特例を用いてでも王妃様が傍に置きたいと望まれたとしても、イヴォン副団長には不審者を捕らえる技量がありませんから、護衛としては役立たずです。そのような者に尊い王妃様の命を預けることは、団長として認められません。また、王太子殿下、主教の仕事は現主教にご依頼ください。騎士の仕事は、護衛ばかりではありません。イヴォンは、私の補佐をするために、入団したのです。私のたっての願いを、聞き入れてもらったのです。そこをどうぞご承知おきください」
最後のほうは、一語一語、区切って強調して告げた。
王妃と王太子が押し黙る。
すかさずイヴォンが華やかに微笑んだ。
「近衛騎士団の一員として温かく迎えていただき、このイヴォン、感激しております。団長の説明の通り、私は裏方の務めを果たしていきたいと考えております」
優雅に一礼し、オウギュストの元へ戻ってくる。イヴォンとオウギュストの醸しだす空気に呑まれ、その場にいた一同が静まる。
その空気を最初に壊したのは国王の軽い笑い声だった。
「期待している。では、任せたぞ」
短く告げて、席を立つ。王妃と王太子はまだなにか言いたげにイヴォンに視線を送ってグズグズしていたが、結局退室していった。
オウギュストは嘆息した。
王妃は見目よい騎士を傍に置きたがる。そして以前からイヴォンに秋波を送っているのは知っていた。イヴォンが色目を使っているとの噂もあったが、王妃が勝手に執着しているだけだと、いまは正確に把握している。だからいずれ専属にしたいと言われる予想はしていたが、任命直後のいま、国王が見ている前であのように欲するとは思っていなかった。
王太子も、まもなく正式に婚約する予定というのに。婚約者のためなどと口にしていたが、彼もイヴォンに気があるのは知っている。なにかと理由をつけてイヴォンと会おうとする。アオイを初めて王都へ連れて来たときもそうだ。アオイを理由にやたらと神殿に行きたがっていた。旅する前は、誑かされているのかと思っていたが。
イヴォンが主教という不可侵の立場でなくなったとたん、これだ。
まったく。どいつもこいつも。
その「どいつもこいつも」の中に、自分も含まれることは自覚している。
この様子では、自分から離れたとたんに誰になにをされるかわかったものではない。一歩も離れてはいけないと改めて思う。
「口添えありがとう。無事に終わってよかった」
廊下に出て騎士団の詰め所へ戻りながら、イヴォンがこちらを見上げ、緊張を緩めるようにほろりと笑みを零した。おそらく本人はまったくの無自覚であろうその表情が、オウギュストの胸を打つ。我慢できず、その場で抱きしめたくなってどうしようもなくなった。
いや、我慢はせねば。
しかしこんな笑顔、団員にだって見せられない。
これはだめだ。そんな笑顔を不用意に見せるからいけないということを、よくわからせねばならない。
詰所に戻る前に、その辺の空き部屋にでも連れ込もう。そうするしかない。
真新しい制服姿が新鮮で、よく似合っているから、それはすぐには脱がさない。背後から抱きしめて服の上から乳首を弄り、股間をまさぐってやりながら、その笑顔を見せるのは自分だけだと約束させよう。「王太子に笑顔を見せたら、お仕置きだ」と脅すのもいいかもしれない。イヴォンはどんなお仕置きをされるのかと不安がりながらも興奮するだろう。服の上から刺激し続け、イかせて下着を汚させるのもいい。彼が泣いてねだるまで後ろを指だけで弄り続けるのもいい。そうして準備を施したら壁に手をつかせ、立ったまま後ろから貫いて――。
「……」
笑顔一つ見せられただけで、そんな妄想をしてしまった。重症だ。
これではおちおち仕事などしていられない。
いっそ、在宅勤務ということで屋敷に閉じ込めてしまおうか。そんなことを本気で考えるオウギュストだった。
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はじめまして。
まず完結まで執筆お疲れ様でした!
とても面白かったです。
普段は寡黙で男感の強すぎて団長タイプの男の人は苦手なのですが、この作品では団長のかっこよさにやられてしまいました。
後半、団長の愛がどんどん重くなっていくのもよかったですし、イヴォンがうまいこと振り回していて、でも気持ちは通じ合っているので読んでいてとても楽しかったです。
何度も読み返したいくらい、終わってしまったのが惜しいです
素敵な作品に出会えました、ありがとうございます- ̗̀ ( ˶'ᵕ'˶) ̖́-
感想をありがとうございます!
寡黙なタイプ、苦手でしたか。でも団長をお気に召していただけて良かった…!
楽しんでいただけたようで、とても嬉しいです~!
削除予定の0とは…笑
(ほろ苦い始まらなかった恋、という意味の0かと…^^;)
ポールの天邪鬼な強がりがいじらしいイイお話しだと思います💕
できればそのまま残して置いてほしいなぁと願ってます(〃ω〃)
素敵な解釈をされていたのですね…汗
完結おめでとうございます。更新中、毎日夜に読むのが楽しみでした!後日談もあって嬉しいです。素敵なお話をありがとうございました!
こちらこそお付き合いいただきありがとうございました!
楽しんでいただけたようで嬉しいです~!