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BL小説家と私小説家がパン屋でバイトしたらこうなった2
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しおりを挟む背中にまわされている彼の手が、少し動いた。たぶん他意のない、なにげない仕草だったのだろうと思うが、私はそれを意識してしまった。先月我が家で押し倒された一部始終が走馬灯のように脳裏に駆け巡り、下腹部がにわかに火照りはじめてしまった。
下腹部と、それから重なっている大腿の位置が気になって、私は身じろぎした。その時、ただ息を吐きだすつもりが、
「ぁ、ん……」
と、喘ぐような声まで出してしまった。
私も驚いたが、穂積も驚いたようで、彼の体が強張ったのを感じた。そしてまもなく、私の左脚に、硬いものが触れるのを感じた。
彼の股間のものが当たっているのは、確かめずともわかった。
「おい。硬くなってる」
はっきり指摘してやると、一拍置いて、開き直るような声が返ってきた。
「そりゃ、好きな人を抱きしめて愛を囁いている時に、股間を脚で擦られてエロい声を出されたら、こうもなります」
彼の股間を擦ったつもりはないのだが、どうやら身じろぎした時に擦ってしまったようだ。
穂積は天井へ視線を向けると、腕を解放した。私を口説くのは諦めたようだ。
それはそうだろう。真面目に愛を告げていても、股間が膨らんでいては台無し。しかしそれは相手が女子だった場合の話である。私も男であり、男の股間が意思に関わりなく硬くなるのは当然のことと熟知している。穂積の股間が膨らんだくらいのことはたいしたことではないのだが。
「少し落ち着けば、収まります。ちょっといいですか」
穂積が身を起こそうとする。私はそれに従って彼の上から退こうとしたが、はたしてそれでいいのかと思い留まった。
穂積は熱を冷まそうとしている。しかし彼に灯された私の熱は、冷めていない。まだ火照ったままなのだ。
「どうしました」
穂積が少しだけ身を起こした状態で、見上げるようにして尋ねてきた。
「あの、さ」
彼には気づかれていないようだが、私も下腹部が硬くなっている。彼との情事を思いだしたせいで、人一倍強い私の性欲が、身の内で騒ぎはじめている。
彼に口でされたときの快感。あれを欲し、疼いていた。
私は馬乗りになり、彼の股間を見下ろした。不自然に膨らんでいるそこを確認しながら唾を呑み、口を開く。
「きみは、私と、その……エロいこと、したいんだよな?」
「そりゃ……まあ。男ですから。好きな人と、したいですけど」
「その……、手でよければ、しようか」
「え……」
穂積が驚いて凝視してくる。私自身、何を言っているのかと思う。しかしやめる気はなかった。
彼のズボンに手を伸ばし、ホックをはずす。それからファスナーを下げようとした時、穂積が身を起こし、私の手を止めた。
「久見さん、酔ってますよね。いいんですか」
「ああ」
穂積のまなざしが急激に熱を帯び、私の顔を覗き込む。
「じゃあ……せっかくですから、一緒にやりませんか」
彼の手が、私のスウェットのズボンに手をかけた。
「どうせなら、一緒に気持ちよくなったほうが、いいですよね」
「だけど、セックスまでは」
「そこまでしません。手で擦るだけ」
ズボンと一緒に下着も下げられた。しかし脚を広げて馬乗りになっているから、さほど下がらない。
「立って、脱いでもらっていいですか。俺も脱ぎますから」
「脱ぐって……全部?」
「下は全部。できれば上も」
「上はいいよ」
穂積の視線を感じて羞恥を堪えながら、私はズボンと下着を脱いだ。すぐに、同じように下だけ脱いだ穂積に押し倒された。
穂積が彼自身のものと私のを重ねて握る。そして私の手も引き寄せて一緒に握らせた。女子とするときとはまったく異なる恐れと興奮で、頭が爆発しそうだった。
自分はいったい何をしているのかと、今日、何度目かの自問をする。
きっと酒のせいだ。酔いは醒めてきている気もするが、それでも、この体の火照りも胸の動悸も、酒のせいなのだ。
穂積が手と腰を動かしはじめた。その刺激に全神経が引き寄せられ、他に何も考えられなくなった。夢中になって快楽を追い求める。
「ぁ……、ん……っ」
「久見さん……」
「ん……っ、出そ、……っ」
すぐそばで感じる彼の興奮や荒い息遣いが私の欲望も駆り立て、嵐のような快楽にもみくちゃにされながら、果てた。
まもなく彼も達き、荒い息をつきながら、私の耳元で「愛してる」と囁いた。
その声は色気に満ちた低音で、腰が甘く痺れそうなものだったが、その言葉は、私の理性をひっかいた。
きみは、私を愛してはいないだろう。そんな反論が胸に沸いた。
急激に理性をとり戻した私は、息を整えるなりせわしなく起きあがり、下着とズボンを履いた。穂積はソファに座ったままゆったりと身支度をしながら、立っている私を見上げた。
「何か飲みますか」
「いや、いい。もう帰る」
ジャンバーを羽織り、玄関へ足を向ける。
「え。もう少しゆっくりしていったら……」
「邪魔した。またな」
戸惑う男を振り返りもせず、私は部屋を出て行った。
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