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BL小説家と私小説家がパン屋でバイトしたらこうなった2

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 買ってきた缶酎ハイを彼にも渡し、乾杯せず一口飲んでから私は言った。

「残念だったな」

 穂積は苦笑して、うなだれた。

「ええ。気が抜けましたね」
「私は、受賞作よりも、きみの作品のほうがいいと思ったけどな」
「ありがとうございます」

 穂積の作品や、他のノミネート作品、それから選考者などについて、酒を飲みながらひとしきり語りあった。彼は編集担当者と飲んでいた為にすでに酔っている様子で、一缶飲み干すとため息をつき、珍しく愚痴を零した。

「ありがたいことですけど、賞レースだとか、厭になります。煩悩が増幅されて、これまで気にも留めなかった他作家が気になったり、すごく消耗して」
「そうだろうな」
「俺、いつも、作品を出す度に承認欲求に踊らされていて。評価されることが目的だったのかと、書きたいものが自分でもよくわからなくなってくるんですよね。ツイッターのいいねを欲しがるやつと一緒ですよ。一つ賞を取れば解放されるかもと思う時期もありましたが、たとえ賞を取っても、もっともっとと、欲望は際限がないんだろうと思うんです。解脱げだつしたいですよ。書くのをやめれば解脱できるんでしょうけど、やめられない」

 穂積はいつも飄々と書いているイメージがあったから、その告白は意外だった。
 私と一緒だと思った。作家としての穂積は私とは違う次元にいる男だが、私と同じ一人の男で、抱える悩みは一緒なのだ。
 私は彼の肩を叩き、新たな酒を手渡した。

「わかる。とてもよくわかるが、それは作り手の宿命だ。解決策は飲むしかない。飲もう!」
「そう……、ですよね!」

 それから妙な盛りあがり方をし、買ってきた酒だけでは足りず、穂積の家にあったウイスキーや貴腐ワインにも手を伸ばした。
 私は酒は好きだが特別強いほうではない。すぐにへべれけに酔い、ふざけて彼に抱きつき、二人してソファに倒れ込んだ。

「うわ。びっくりした」 
「あのな」

 焦った様子の彼を笑い、それから私は彼の胸の上で息を吐きだし、静かに言った。

「きみがノミネートされたの、先月から知ってたんだ。でも素直におめでとうと言えなかった」

 酔いがまわっていて、自分でもどうしてかわからないが、打ち明けたい衝動に駆られていた。

「私のBLの話なんだけど、じつは先月、デビューしたレーベルから切られたんだ」
「え……本当ですか」
「うん。きみがノミネートされたのを知った直後のことでさ、あまりの差に落ち込んでた。先月きみを避けていた理由は、大晦日に話したことよりこっちのほうが大きかった」

 穂積が胸の内の弱い部分を告白してくれたから、私も言いたくなったのかもしれない。もう、話してもいい。話すべきだと思った。
 話し終えた後、すぐに返事はなかった。
 何の反応もなく、もしや酔って眠ってしまったかと彼の顔を見ようとした時、ようやく「そうでしたか」という呟きが届いた。
 私が押し倒した格好なので、穂積は私の下にいる。その彼の顔を見ると、神妙なまなざしで私を見上げてきた。

「それなのに今日、来てくれたんですね」
「落ち込んでいるだろうと思ったから。私が落選した時、きみに慰められて、救われた。そのお返しが出来たらと思った」

 答えた途端、背中に腕をまわされ、抱きしめられた。

「ありがとうございます」

 一瞬体が強張ったが、感激しているだけのようなので、力を抜いた。
 彼の逞しい腕と、広く厚い胸に包まれ、その弾力とぬくもりをセーター越しに感じる。先ほど飲んだ貴腐ワインの甘く濃厚な香りに交じって、彼の香りも感じた。その香りを嗅いだら、大晦日のキスを思いだした。途端に胸に甘い気分が広がり、心臓の鼓動が速まった。
 頬を寄せている胸が大きく上下し、彼が大きく息をついたのを知る。

「好きだ……。やっぱり俺、あなたが好きです」

 ため息のような、ひそやかな声で告げられた。

「あまりこういうことを言うと引かれると思って、最近は我慢していたんですが、今日は言わせてください。知れば知るほど好きになってしまって、どうしようかと思います。本当に、どうにかしたいくらい、好きです」

 突然の甘い告白に、私は顔が一気に赤くなったのを自覚した。きっと耳も首も赤い。心臓がさらに加速していて、体が熱い。

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