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BL小説家と私小説家がパン屋でバイトしたらこうなった2

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 休み明けも穂積と一緒のシフトだった。申しわけないが、とてもこれまで通りに振舞える精神状態ではなかった私は、わざと遅刻ギリギリに出勤して慌ただしさを装い、穂積とはろくに視線も合わせず仕事に没頭しているふりをした。

「二人とも休憩入って」

 休憩時刻になり、私と穂積に茂呂が声をかけた。茂呂はすでにこの店の流れを掴んでおり、こちらがフォローする必要はなくなっていた。
 穂積が壁の時計へ目をやりながら手袋を外す。
 私は手を休めずに申し出た。

「私はまだ休憩はいいです。茂呂さんと一緒で、後半組がいいんですが」

 茂呂はきょとんとしたあと、「いいけど」と了承した。

「じゃあ穂積君、一人だけど、先行って」

 穂積が物問いたげな視線を寄越してきたのを感じたが、私は気づかぬふりをした。ここでなにげなく爽やかに「先に行ってくれ」などと声かけができればいいのだが、あいにく私はそのような配慮の出来る男ではない。
 彼の背を見送ってから、茂呂が私に目を向けた。

「どしたの」
「茂呂さんのやり方をもう少し見たいなと。店長とはちょっと違ったりするじゃないですか。コツを学びたいと思いまして」
「そんなことなら別に、前半休憩でもよくね?」
「バイトはいつも前半休憩でしょう。そのあいだ、どんな感じで動いているのか知りたいんです。ほら、また急に人事異動とかあって、急に一人で任されたら困るので」
「ふうん」

 茂呂が納得しかねた顔つきをする。それはそうであろう。私だってこんな理由では納得しかねる。

「休憩の時に聞きたいことがありまして」

 しどろもどろにそう言うと、ようやく納得してくれた。
 やがて穂積が戻ってきて、私と茂呂が休憩に入った。
 休憩をずらしたのは穂積と一緒になりたくなかっただけで、茂呂に聞きたいことなどなにもない。しかし聞きたいことがあるといってしまった手前、質問しないわけにはいかない。幸いにも仕事中は私語禁止なので、プライベートなことは何も知らなかったため、通勤時間やら住まいのことやら、どうでもいいことを思いつくままに聞いていった。

「通勤は三十分くらいかな。そこまで遠くなったわけじゃないし、交通費も出るし、まあ、しゃあないかなって感じ」
「なるほど」
「で、俺に聞きたかったことって、なに?」

 真顔で聞かれて、私は困って愛想笑いを浮かべた。

「あー、いや、だから、茂呂さんのことを聞きたくて。せっかくだから、仲良くなれたらと思って」
「あ、そうなの?」

 らしくないことを言ってしまい、目が泳いでしまう。茂呂が意外そうに目を丸くしていた。
 私は蕎麦を一口啜ったあと、それらしい質問を思いついた。

「あの、うちのパン屋、三十でも社員として採用されることって、あると思いますか」
「あ、なに。社員になりたいの?」
「いや、どうなのかなって考えてるだけなんですけど」

 茂呂が、そういうことか、と合点のいった顔をした。

「茂呂さんは、バイトから社員に引きあげられたクチですか」
「そうそう。高校の頃からバイトしてて、店長に気に入られて、ちょうど空きがあったから誘われた」

 茂呂はサンドウィッチを口に入れると、咀嚼しながら腕を組んだ。

「この店はどうなんだろうな。たぶん、年齢は問題ないと思う。店のメンバーとの相性とか、勤務状況とか……あ、給料はたいしたことないから期待しないほうがいい。残業は多いし、事務作業面倒だし。状況によってはバイトのほうが得だと思うし。久見くんは週四だよな。他と掛け持ちしてる?」

 不審に思われないようにと、ただそれだけでそれ以上意味のない質問だったのだが、思いのほか真面目に受けとめられてしまい、焦る。

「ええ、まあ。自宅でパソコン使った軽作業ですが」

 両方の収入をあわせても二百万ちょっとだと話すと、茂呂は深刻な表情をし、「バイト何年目だっけ」「結婚する予定は」など質問攻めにし、親身になって話してくれた。

「だったら社員になったほうがいいって、絶対。今は予定なくても、結婚したくなった時、収入二百万じゃ厳しいよ。俺から店長に話してみようか」
「いやいや、それはまだ大丈夫です」
「そうか? 他にも聞きたいことがあったら、遠慮なく聞いてくれ」

 休憩が終わり、仕事に戻ると、茂呂は本社から届いた書類を見せてくれた。新年からはじまるフェアの通知だ。普段は店長と社員のみが目を通す類のものだが、私が入社を考えているらしいということで、詳しく説明しようと思ったらしい。
 その後も茂呂はなにかと私に声をかけてくれて、ちょっとしたことを教えてくれたりした。初対面では気があわなそうなタイプだと感じたが、話してみると親切で、意外と悪くない男と思えた。
 その日の帰りも私は「用があるから」と穂積に告げ、食品売り場で弁当を買って一人で帰宅した。
 穂積とはそれから三日、シフトの違いにより顔をあわせる機会はなかった。茂呂と親しくなるのと反比例するように、穂積と距離ができたように思う。
 そして茂呂が来て一週間後の夕方、彼の歓迎会を兼ねた忘年会が開かれることとなった。人付き合いが面倒で苦手な私は、そういった交流会は基本断る主義なのだが、店が会費を負担してくれると聞き、夕食代が浮くならと、参加することにした。


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