とある日

だるまさんは転ばない

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友達

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彼と出会ったのは、ある匿名掲示板だった。ゲームの話題で盛り上がったことをきっかけに、僕たちは意気投合し、すぐに個別チャットでやり取りをするようになった。彼は「ユウ」と名乗り、僕は「タク」としてネット上の存在を確立していた。顔も知らない、名前も偽名だが、次第に彼とのやり取りが日常の一部となっていく。特に深夜、僕たちはゲームについて語り合い、時には人生観を共有した。

ある夜、ユウから突然のメッセージが来た。

「タク、俺の家に遊びに来ない?」

これまで顔を合わせたこともない彼からの突然の誘いに、僕は少し戸惑った。しかし、長い付き合いから彼のことを信頼していたし、何より彼のことをもっと知りたいという気持ちが強かった。そこで、僕は思い切って訪問を決意した。

「住所教えてくれよ。近いうちに行くからさ」

ユウは快く住所を送ってきた。それは、僕が住んでいる町から電車で1時間ほどの距離にある古いアパートだった。何か得体の知れない不安が一瞬よぎったが、好奇心が勝った。

週末、僕は彼の家に向かった。古びた木造のアパートの前で立ち止まり、手にメッセージアプリを開く。

「着いたよ。どこにいればいい?」

しかし、ユウからの返信はない。何度かメッセージを送っても既読にならない。焦りを感じ始めた僕は、仕方なくアパートの階段を上がり、ユウが教えてくれた部屋番号の前で立ち止まる。扉は薄い木製で、古びた錠前がかかっていた。息を整えて、僕はノックをした。

「ユウ?いる?」

だが、応答はない。何度かノックを繰り返すが、返事は返ってこなかった。冷たい沈黙が部屋の奥から漂ってくるような感覚に、僕は少しずつ不安を感じ始めた。しかし、ここまで来た以上、引き返すわけにはいかない。

ドアノブをそっと回すと、意外にも鍵はかかっていなかった。扉がきしむ音を立てて開くと、暗闇が僕を飲み込むように広がっていた。部屋の中は静まり返っており、窓から差し込む薄い光がかろうじて廊下を照らしている。

「ユウ?いるなら返事してくれ」

僕は恐る恐る声をかけたが、依然として何の応答もなかった。玄関から靴を脱ぎ、足を踏み入れると、部屋の奥から奇妙な感覚が迫ってくる。まるで誰かが見ているかのような視線を感じた。

「やばい、これ、まずいかもな……」

部屋は意外に広く、古い家具が並んでいた。古びたソファや木製のテーブル、壁には何枚かのポスターが貼られている。だが、人の気配は全くなかった。

ふと、奥の部屋に目をやると、扉が少しだけ開いていることに気付いた。そこから微かに音が聞こえる。まるで、かすかに息をするような音……。

僕は一歩、また一歩とその部屋に近づいていった。手を震わせながら扉を押し開けると、そこに待っていたのは――

何もなかった。ただ、一つのマネキンの膝から上が床に置かれていた。それはまるで、どこかの劇で使われるような、細部まで精巧に作り込まれたリアルなマネキンだった。

「なんだよ、これ……」

僕はそのマネキンに近づくと、不意に寒気が全身を駆け巡った。の顔は、マネキンの顔まるで誰かに似ている。それは――ユウだ。

僕は後ずさりし、必死にその場から逃げようとした。しかし、足がすくんで動けない。突然、背後でガタリと音がした。振り返ると、廊下の奥から何かが這い出してくる気配がした。

「……タク……?」

その声は、確かにユウのものだった。しかし、何かが違う。声のトーンは冷たく、どこか異質な響きを持っている。僕は恐怖で固まり、次に何が起こるかもわからず、ただその場に立ち尽くしていた。

そして、その「何か」が現れた。

それはユウだった――いや、かつてユウだったもの。顔は歪み、体は異様に伸びきり、まるで悪夢の中の怪物のような姿をしていた。目は虚ろに光り、口元には不気味な笑みを浮かべている。

「会いに来てくれたんだな……」

彼はゆっくりと僕に近づいてきた。冷たい汗が背中を流れ、心臓が胸の中で狂ったように鳴り響く。

「やめろ、近づくな!」

僕は叫びながら後退したが、ユウはすでに僕のすぐそばまで迫っていた。逃げ場がない。僕はただその場で凍りつき、目の前の怪物を見つめていた。

「……友達だろ?ずっと……一緒にいようよ」

彼の手が僕に触れた瞬間、意識が真っ暗に沈み込んだ。

目が覚めた時、僕は見知らぬ部屋にいた。薄暗い空間、そして足元には一つの人形が転がっていた。それは、ユウの顔をした人形だった。

そして――鏡に映った僕の姿は、手足を失っていた。
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