とある日

だるまさんは転ばない

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青春と滑り台

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秋晴れの放課後、透(とおる)と健(けん)はいつものように校門を抜け出した。二人は中学時代からの親友で、よく一緒に遊んでいた。今日は特に予定もなく、ぶらぶらと近くの公園まで歩いていた。

「今日もなんもないなあ」と、透がぼやいた。

「まぁ、何もないのが平和ってやつだろ」と、健が軽く返す。

透は、そんな返答に少し不満げに肩をすくめた。「平和って言ったってさ、たまにはなんか面白いことがないと退屈すぎるだろ?高校生だぜ、俺たち。もっと青春しなきゃ、だめだろ!」

健はそんなことを気にも留めず、前を歩く。彼の目は、もうすでに公園に入っていた。透もふと前を見やると、公園の真ん中には一際目立つ、大きな滑り台がそびえ立っていた。

「あれ、結構高いな…」健が少し興味を示す。

「お、健が珍しく興味持ったな?」透は目を輝かせた。「あんな大きな滑り台、久しぶりに見たぜ。よし、行ってみようぜ!」

「滑り台か…懐かしいな」と、健は少し遠くを見つめるような表情をしたが、透が早速走り出したのを見て、ため息をつきながら後を追った。

二人は滑り台の下に立った。よくある子ども向けの滑り台にしては、少し大きすぎる。いや、大きすぎるどころか、どう考えても「子ども向け」ではない。高さは5メートル以上あり、急な傾斜が続いている。しかも、滑り降りる部分はピカピカに光る金属製。まるで「試してみろ」と言わんばかりに輝いている。

「なんか、やばくないか?」健が慎重に言う。

「何言ってんだよ、こんなの大したことないって!」透は無邪気に笑い、勢いよく階段を駆け上がった。健も仕方なくその後を追う。二人は滑り台の頂上に立ち、公園全体を見渡した。

「おお、意外と高いな。見ろよ、あの景色!」透は満足げに周囲を見回した。

「いや、見ろよって…これ、滑るのか?こんな急な滑り台、普通滑らないだろ」と健は困惑気味に呟く。

「お前、ビビってんのか?」透はにやりと笑い、健を挑発する。

「ビビってねえよ!ただ…安全性とか、考えた方がいいだろ」と健は言い訳をしたが、透の目は完全に挑戦モードに入っていた。

「じゃあ、俺が先に行くから、後から来いよ!」透はさっと足を滑らせて、一瞬で滑り台の下まで消えていった。

「おい、待てよ!」健は慌てて透の後を追おうとしたが、その前に透の叫び声が下から聞こえてきた。

「おわああああああああ!やべえええええ!」

健はギョッとし、滑り台の端から透がどうなったのか確認しようとしたが、急な角度のため、透の姿は完全に見えなかった。「え、なに、どうしたんだよ!?」

しばらくして、透が息を切らして下から声を上げた。「お前、絶対滑んな!これ、罠だぞ!尻が燃えるかと思ったわ!」

「は?なに言ってんだ?」健は不思議に思いながらも、透の忠告を無視して、自分も滑る体勢に入った。「そんなにやばいのか?ちょっと試してみるだけなら大丈夫だろ。」

そう言いながら、健はゆっくりと滑り出した。しかし、瞬く間に急加速し、滑り台を猛スピードで下っていく。「うわあああああ!止まんねえ!」

滑り台の途中で、お尻が熱くなる感覚が彼を襲った。「あっちぃぃぃ!なんだこれ、焼けるぞ!」

滑り台の最後まで来たとき、健は勢い余ってそのまま地面に転がり落ちた。透が笑いをこらえながら駆け寄ってきた。

「だから言っただろ!やべえんだって!」

「お前、なんでこんなもん滑ったんだよ!これ、火のついた尻になるやつだぞ!」健はまだ地面に横たわったまま、痛みと熱さを感じながら文句を言った。

「いや、面白そうだったからさ」と透は悪びれもせずに言い放った。「でも、もう一回やってみるか?慣れたらいけるかも。」

「絶対やらねえ!」健は即座に拒否したが、透はますます笑っていた。

「お前、青春したいって言ってたじゃん。これこそ青春の思い出だろ?」

「こんな思い出、いらねえよ!」健は怒鳴ったが、どこか顔に笑みが浮かんでいた。まさか、こんなアホみたいな滑り台に二度も挑むとは思っていなかったが、透と一緒だと何をやっても楽しかった。

そして、二人はしばらく滑り台を見上げたまま、次に何をするかを考えながら再び歩き始めた。

透と健は、滑り台から無事(?)に脱出し、少し落ち着きを取り戻していた。しかし、透の中では何かがくすぶっていた。あの滑り台が、ただの恐怖体験で終わることがどうにも納得がいかない。青春を謳歌するためには、もう一度「挑戦」する必要がある——そんな考えが、彼の心に浮かび上がったのだ。

「なあ、健」透は急に真剣な顔で言った。

「なんだよ?」健はまだお尻の熱さを気にしながら、少し警戒して返事をした。

「俺たちさ、このままでいいのか?」

「…え、なにが?」健は予想外の展開に戸惑いながらも、透の顔をじっと見つめた。彼はこういうとき、何か妙なことを考えているに違いない。

「さっきの滑り台、負けたままで終わっていいのか?」透の声は真剣そのものだった。

「いやいや、負けとか勝ちとかの問題じゃなくね?あれは単に危険なだけだろ!」健は必死に冷静に返そうとするが、透の目は輝いていた。彼の頭の中には、すでに次なる大作戦が練られつつあったのだ。

「危険だからこそ、やる価値があるんだよ!」透は拳を握りしめながら力説する。「俺たちは、この滑り台を征服しない限り、真の青春を手に入れられないんだ!」

「真の青春って…お前、マジで何言ってんだ?」健は呆れた表情を浮かべたが、透の勢いに押されるように、なんとなく拒否しきれない空気を感じていた。

「いいか、今度はただ滑るだけじゃない。俺たちの知恵と工夫を使って、この滑り台を制覇するんだ!」透は勢いよく両手を広げ、未来を見据えるように話す。「まずは、何か滑りやすいものを使って、尻が燃えないように対策する。それから、さらにスピードをコントロールできる方法を考えよう!」

「いやいや、尻が燃えない方法って、そんなもんあるか?」健は半ば諦めながらも、透の案に引きずり込まれつつあった。

「任せとけ、俺には計画があるんだ!」透は得意げに笑うと、突然バッグの中をゴソゴソと探り始めた。しばらくして、彼は一枚のビニールシートを取り出した。

「お前、それどこから持ってきたんだよ?」健は驚いた表情で透を見た。

「これはね、先週の体育祭で使ったレジャーシートさ。これを敷けば、摩擦が減って尻も守られるだろ!」透は誇らしげにシートを広げて見せた。

「いや、そんな簡単にいくか?でも…まぁ、試してみるか」健は呆れつつも、透の計画に乗ることにした。

そして、二人は再び滑り台の頂上に戻った。透は慎重にレジャーシートを広げ、座る位置を調整した。「よし、準備完了だ。今度こそ、これで完璧だ!」

「ほんとに大丈夫か?」健は半信半疑のまま、透を見つめた。

「心配すんなって!俺が先に行くから、見ててくれ」透は自信満々で、シートに座り、勢いよく滑り出した。

最初はスムーズに滑っていたが、途中で透の顔が一気に青ざめた。「うおおおおおおおお!なんか、速すぎる!!!」

透はビニールシートの効果で、異常な速度で滑り台を下っていた。摩擦が減りすぎたせいで、制御不能になってしまったのだ。しかも、滑り台の最後には、避けられない地面が迫っている。

「止まらねええええ!」透の絶叫が響き渡る中、彼は滑り台の終点でシートごと勢いよく地面に激突した。幸い、草むらが衝撃を吸収してくれたが、透はそのまま地面に大の字になって倒れ込んだ。

健はしばらくその光景を眺め、やっと笑いをこらえきれなくなった。「だから言っただろ、無理だって!」

透は少し呆然とした表情で空を見上げていたが、やがて顔に笑みが浮かんだ。「いや、やっぱり青春だろ…これ!」

「いやいや、これどこが青春だよ。お前、ただのバカだぞ」健は笑いながらも、透の挑戦心に少し感心していた。「でも、まぁ…ちょっとは楽しかったかもな」

「だろ?」透はふらふらと立ち上がり、草を払い落とした。「次はお前の番だな」

「は?絶対やらねえって言っただろ!」健は必死に拒否しようとしたが、透はにやりと笑って肩を組んできた。

「大丈夫だって、今度は俺がうまくシートを調整してやるからさ。二人で滑れば、きっといい思い出になる!」

「お前と一緒に滑るとか、マジでありえないから!」健は真剣に拒否しつつも、透に引きずられそうになった。二人は滑り台の頂上で、再び言い争いを続けた。

結局、健はどうにか逃げ切り、透は再び滑り台に挑むことになったが、結果は同じだった。勢いよく滑り降り、再び地面に激突。だが、二人はその度に大笑いし、気づけば夕方の空が赤く染まり始めていた。

「今日はこれで勘弁してやるよ」健は満足げに滑り台を見上げ、肩をすくめた。

「また来るだろ?」透は笑顔を浮かべて言った。

「まあな。でも次はもっとまともな作戦で行こうぜ」健は呆れたように言ったが、どこか楽しそうだった。

二人は夕暮れの中、公園を後にした。滑り台との戦いは続くかもしれないが、彼らは確かに「青春」を少しだけ感じていたのかもしれない。
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