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臭い
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夕方、駅近くの公園にある公衆便所。日の光が沈み始め、薄暗い影が便所のタイルに伸びていた。ここは古びた男子便所。壁は薄汚れ、落書きで埋め尽くされ、床にはしつこい尿臭が染みついている。人が使った後の嫌な蒸気がこもり、入口から一歩足を踏み入れると、不快な匂いが鼻をつく。にもかかわらず、なぜかこの場所には今日、4人が足を運んでいた。
まず一人目は、吉田。彼は40代半ばの中年男性、汚れた作業服を着ていた。土木工事の仕事の休憩時間、急に腹が痛くなり、近くの便所を探し求めてここにたどり着いた。入った瞬間、あまりの臭さに思わず顔をしかめた。
「くっ…こりゃひでえな。掃除とかしてんのかよ…」
壁に手をつき、便器に近づくが、その汚れ具合に躊躇する。床には黒ずんだ水溜りがあり、視線を落とすと、古い新聞紙や破れたトイレットペーパーが散らばっている。踏み込んだ靴底から湿った感触が広がり、ため息をつきながら便座に腰を下ろす。
「あぁ、やっぱり公衆便所はこうじゃなきゃなぁ…」と自嘲気味に呟きながら、用を足し始めた。
その瞬間、ドアが開く音がして、二人目の人物が入ってきた。彼は直樹、20代前半の学生。黒縁眼鏡に背の高い、少し痩せた青年だ。バイトの帰りに急な尿意に襲われ、仕方なくこの便所を見つけたのだ。彼もまた、臭いに反応し、鼻をつまむ。
「ひっどいな、ここ…トイレじゃなくてゴミ捨て場じゃないか…」
そう言いながらも、用を足す場所が他にないことを悟り、しぶしぶ小便器の前に立つ。しかし、汚れた壁に落書きされた言葉が目に入る。
「おい、吉田ってやつ、ここにいるのか?『吉田参上』って書いてあるぞ。」
直樹が笑いながら言うと、個室の中から「うるせぇよ、俺はただの吉田だ」と吉田のぼやく声が返ってくる。直樹はくすっと笑い、便所の暗さと汚さに慣れてきたのか、少し安心した様子で用を足し始めた。
そして、三人目が登場した。佐々木。50代半ばの男性で、少し太り気味の体型。彼は地元の小さな会社で働いており、仕事終わりの帰り道にこの便所を見つけた。彼もまた、腹の具合が悪くなり、急いでここに駆け込んだのだ。ドアを開けた瞬間、強烈な匂いに顔をしかめたが、もう後戻りはできない。
「ん、まぁ…しょうがねぇ。出すもん出さねぇと…」
重たい体を引きずるようにして個室の扉を開ける。吉田の隣の個室だ。佐々木が入ると、吉田が小さく笑い声を漏らす。
「おい、隣の個室も占領されたかよ。」
「しゃべんなよ…集中できねぇだろうが」と佐々木は言いながら、腰を下ろす。二人は隣同士で黙々と用を足すが、しばらくして佐々木が口を開く。
「なぁ、なんかこの便所…おかしくないか?」
「ん?汚いのはいつも通りだろ?」
「いや、そうじゃなくて…何かが動いてるような気がするんだよ。」
その瞬間、便所の電灯がちらちらと明滅し始めた。急に冷たい風が吹き抜け、汚れた壁や天井が不気味に揺れたかと思うと、壁に描かれた落書きが、ゆっくりと動き始める。
四人目が入ってきたのは、まさにその時だ。美咲、彼女は30代の女性。間違えて男子便所に入ってしまったのだ。慌てて戻ろうとしたが、入り口のドアが急に閉まり、開かなくなってしまった。
「え、ちょっと待って、何これ!?男子便所よね、ここ…」
驚く彼女の声に、吉田が「おい、どうした?また便所が閉じ込めやがったのか?」と呼びかける。
「え、あなたたち、これ、何なの?どうして開かないの?」と美咲は混乱しながらドアをガタガタと揺らすが、びくともしない。
そして、異変はさらに進む。壁に描かれた落書きが、音もなく動き出し、文字が変わっていく。『助けて』や『ここから逃げろ』といった言葉が現れ、さらに壁の奥から低い笑い声が聞こえ始めた。
「うわぁ、なんだよ、これ!?」
直樹が叫び、振り返った瞬間、便器の一つが突然大きく口を開け、中から黒い影が這い出してきた。それはまるでこの便所自体が意志を持ち、彼らを飲み込もうとしているかのようだった。
「なんだこれは!?便所に取り憑かれたのか!?くそっ、逃げられないのかよ!」吉田はパニック状態だ。
「ちょっと、誰か助けてよ!このままじゃ、ここで…」
美咲の声が響き渡るが、誰一人として出口へ近づけない。便所全体が生き物のように彼らを閉じ込めている。そして、その異様な空気の中、佐々木が呟いた。
「これ、たぶん…俺たちが出すもん出さないと、この便所も落ち着かないんじゃねぇか?」
「は?何言ってんだよ!」直樹が突っ込むが、佐々木は真剣な顔で続ける。
「いや、だからさ…これ、公衆便所だろ?出すもん出して、綺麗に使ってやれば、こいつも機嫌が直るんじゃねぇか?」
「何だそれ…」と直樹が呆れた顔を見せるが、吉田がふと頷いた。
「意外と、あり得るかもな。こいつは俺たちに、ちゃんと使えって言ってるのかもしれん。」
「バカバカしいけど、他に方法もないし…」
全員が仕方なく、自分たちの用を済ませた。そして、それぞれが手を洗い、トイレットペーパーをちゃんと使い、便器を丁寧に掃除し始めた。不思議なことに、その瞬間、便所全体が静かに鳴り響き、壁の落書きが次第に消えていった。匂いも少しずつ和らぎ、便所の空気が清々しく感じられ始めた。
最後に吉田がため息をつきながら、「やれやれ、これで俺たちも解放されるってわけか…」と呟いた。
そして、美咲がドアを再び押すと、今度はすんなりと開いた。
だが、全員が外に出た瞬間、辺りを見回して彼らは愕然とした。そこには、公衆便所どころか、何もなかった。草むらと少し広い空
まず一人目は、吉田。彼は40代半ばの中年男性、汚れた作業服を着ていた。土木工事の仕事の休憩時間、急に腹が痛くなり、近くの便所を探し求めてここにたどり着いた。入った瞬間、あまりの臭さに思わず顔をしかめた。
「くっ…こりゃひでえな。掃除とかしてんのかよ…」
壁に手をつき、便器に近づくが、その汚れ具合に躊躇する。床には黒ずんだ水溜りがあり、視線を落とすと、古い新聞紙や破れたトイレットペーパーが散らばっている。踏み込んだ靴底から湿った感触が広がり、ため息をつきながら便座に腰を下ろす。
「あぁ、やっぱり公衆便所はこうじゃなきゃなぁ…」と自嘲気味に呟きながら、用を足し始めた。
その瞬間、ドアが開く音がして、二人目の人物が入ってきた。彼は直樹、20代前半の学生。黒縁眼鏡に背の高い、少し痩せた青年だ。バイトの帰りに急な尿意に襲われ、仕方なくこの便所を見つけたのだ。彼もまた、臭いに反応し、鼻をつまむ。
「ひっどいな、ここ…トイレじゃなくてゴミ捨て場じゃないか…」
そう言いながらも、用を足す場所が他にないことを悟り、しぶしぶ小便器の前に立つ。しかし、汚れた壁に落書きされた言葉が目に入る。
「おい、吉田ってやつ、ここにいるのか?『吉田参上』って書いてあるぞ。」
直樹が笑いながら言うと、個室の中から「うるせぇよ、俺はただの吉田だ」と吉田のぼやく声が返ってくる。直樹はくすっと笑い、便所の暗さと汚さに慣れてきたのか、少し安心した様子で用を足し始めた。
そして、三人目が登場した。佐々木。50代半ばの男性で、少し太り気味の体型。彼は地元の小さな会社で働いており、仕事終わりの帰り道にこの便所を見つけた。彼もまた、腹の具合が悪くなり、急いでここに駆け込んだのだ。ドアを開けた瞬間、強烈な匂いに顔をしかめたが、もう後戻りはできない。
「ん、まぁ…しょうがねぇ。出すもん出さねぇと…」
重たい体を引きずるようにして個室の扉を開ける。吉田の隣の個室だ。佐々木が入ると、吉田が小さく笑い声を漏らす。
「おい、隣の個室も占領されたかよ。」
「しゃべんなよ…集中できねぇだろうが」と佐々木は言いながら、腰を下ろす。二人は隣同士で黙々と用を足すが、しばらくして佐々木が口を開く。
「なぁ、なんかこの便所…おかしくないか?」
「ん?汚いのはいつも通りだろ?」
「いや、そうじゃなくて…何かが動いてるような気がするんだよ。」
その瞬間、便所の電灯がちらちらと明滅し始めた。急に冷たい風が吹き抜け、汚れた壁や天井が不気味に揺れたかと思うと、壁に描かれた落書きが、ゆっくりと動き始める。
四人目が入ってきたのは、まさにその時だ。美咲、彼女は30代の女性。間違えて男子便所に入ってしまったのだ。慌てて戻ろうとしたが、入り口のドアが急に閉まり、開かなくなってしまった。
「え、ちょっと待って、何これ!?男子便所よね、ここ…」
驚く彼女の声に、吉田が「おい、どうした?また便所が閉じ込めやがったのか?」と呼びかける。
「え、あなたたち、これ、何なの?どうして開かないの?」と美咲は混乱しながらドアをガタガタと揺らすが、びくともしない。
そして、異変はさらに進む。壁に描かれた落書きが、音もなく動き出し、文字が変わっていく。『助けて』や『ここから逃げろ』といった言葉が現れ、さらに壁の奥から低い笑い声が聞こえ始めた。
「うわぁ、なんだよ、これ!?」
直樹が叫び、振り返った瞬間、便器の一つが突然大きく口を開け、中から黒い影が這い出してきた。それはまるでこの便所自体が意志を持ち、彼らを飲み込もうとしているかのようだった。
「なんだこれは!?便所に取り憑かれたのか!?くそっ、逃げられないのかよ!」吉田はパニック状態だ。
「ちょっと、誰か助けてよ!このままじゃ、ここで…」
美咲の声が響き渡るが、誰一人として出口へ近づけない。便所全体が生き物のように彼らを閉じ込めている。そして、その異様な空気の中、佐々木が呟いた。
「これ、たぶん…俺たちが出すもん出さないと、この便所も落ち着かないんじゃねぇか?」
「は?何言ってんだよ!」直樹が突っ込むが、佐々木は真剣な顔で続ける。
「いや、だからさ…これ、公衆便所だろ?出すもん出して、綺麗に使ってやれば、こいつも機嫌が直るんじゃねぇか?」
「何だそれ…」と直樹が呆れた顔を見せるが、吉田がふと頷いた。
「意外と、あり得るかもな。こいつは俺たちに、ちゃんと使えって言ってるのかもしれん。」
「バカバカしいけど、他に方法もないし…」
全員が仕方なく、自分たちの用を済ませた。そして、それぞれが手を洗い、トイレットペーパーをちゃんと使い、便器を丁寧に掃除し始めた。不思議なことに、その瞬間、便所全体が静かに鳴り響き、壁の落書きが次第に消えていった。匂いも少しずつ和らぎ、便所の空気が清々しく感じられ始めた。
最後に吉田がため息をつきながら、「やれやれ、これで俺たちも解放されるってわけか…」と呟いた。
そして、美咲がドアを再び押すと、今度はすんなりと開いた。
だが、全員が外に出た瞬間、辺りを見回して彼らは愕然とした。そこには、公衆便所どころか、何もなかった。草むらと少し広い空
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