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侍女は見たかもしれない
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「酷いなぁ、僕に内緒で逃げるだなんて」
そう言った王子殿下の口調は、いつも以上にどこか無邪気で、いかにも年下に思えたけれど。
実際はどこにも隙がなかった。
実のところ今も自分がなにを見たか分かっていない。
ただ殿下付きの侍女という物理的距離としては近い場所にいたせいで、わたしがそれを知ったと思われてしまったらしい。
ある日を境に色気の欠片もない目で殿下によく見られている事に気づけば、疑問も不信感も湧いてくる。
……仮にそれが王家そのものや陛下を巻き込む問題だったのなら、わたし程度適当な冤罪をつけ監禁してしまうのは簡単な話だっただろう。
気が触れたことにして証言に信憑性をなくしてしまってもいい。
それでも心配なら事故にでも病気にでも見せかけて幾らでも殺せるだろう。
けれどもそうしないということは陛下を巻き込めない案件だということなのだろう。
殿下がわたしにそれらをした場合、陛下に疑われ、隠したいものが白日の下にさらされる可能性があると。
そしてそれは王子殿下に不利になるものだと。
物語では王位簒奪がよくある動機だけれど、確かに王女殿下がいらっしゃる以上他に継承者がいないわけではないものの、このままなら待っていれば手に入る地位を待ちきれないとは思えない。
確かに陛下はまだお若く、ずいぶんと時間はかかる気はするものの、そこまでしなければならないほど陛下に問題や殿下に目的があるようには見えない。
……もっともわたしが先を見通せるなら今の状態になっていないのだろうけれど。
きっとなにを見てしまったか気づけたのだろうけれど。
とにかく、お忙しいだろうのに気がつけば殿下に圧力をかけられているという状態に正直参り始めた。
理由が分かれば少しは心穏やかになるだろうかと逃避するが、余計気苦労が増えるだけかもしれない。
そんなときに来た見合い話に侍女をやめる口実になるとつい思ってしまった。
思った事は責めてほしくはないが、浅はかであったことは素直に認めよう。
城をやめたくらいで安心出来るのなら、そもそも自ら監視なんてしないだろうとは考えなかった。
見合い相手は政治にも王家にも直接的には関係ない人で、何かを知られたところで大きな騒ぎになる訳ではないだろう。
……そんな理屈が通じるなら、そもそもわたしが殿下に見張られているはずもないわけで。
よりにもよって見合いの最中に邪魔をしに来た。
その冷徹な目にうっかり「なにもしゃべりません」と誓いそうになるものの、万一見たかどうか確信が持てないので見張っていたのならより状況が悪くなると気づいてぎりぎりで黙る。
見合いを壊した言い訳までが必要になった殿下は、なにをとち狂ったのかわたしが好きだったからといううさんくさいことを言いだした。
何の前触れもない行動は違和感を招くだけだと思ったけれど、殿下にとってはある意味幸運なことに見張っていたのを見つめていたと解釈していた同僚が無意味に盛り上がった。殿下に愛されてうらやましいとほざくが、代われるものなら代わって欲しい。
陛下もさすがに結婚しろと命じては来なかったものの、今回の件でしばらく次の見合い話は来ないだろうし、その間だけでも仕事を続けてくれないかと打診された。臨むにも諦めるにも時間が必要だろうから、と。
陛下がどんな恋愛観を持っているのか正直分からなかったが、案外と夢見がちであったらしい。政略結婚していない時点で気づくべきだった。
そして陛下に話が行く前にどうにか止めるべきだった。命令でなくとも明確な理由なく断れるはずがない。
なにも知らないということは決して安全を意味しなかった。
知っていたなら、ここで言ってしまえたならきっと状況は変わっていただろう。
ただ見られていた事を訴えても、願う状況には届かない。
本当にわたしはなにを見てしまったのだろう?
そう言った王子殿下の口調は、いつも以上にどこか無邪気で、いかにも年下に思えたけれど。
実際はどこにも隙がなかった。
実のところ今も自分がなにを見たか分かっていない。
ただ殿下付きの侍女という物理的距離としては近い場所にいたせいで、わたしがそれを知ったと思われてしまったらしい。
ある日を境に色気の欠片もない目で殿下によく見られている事に気づけば、疑問も不信感も湧いてくる。
……仮にそれが王家そのものや陛下を巻き込む問題だったのなら、わたし程度適当な冤罪をつけ監禁してしまうのは簡単な話だっただろう。
気が触れたことにして証言に信憑性をなくしてしまってもいい。
それでも心配なら事故にでも病気にでも見せかけて幾らでも殺せるだろう。
けれどもそうしないということは陛下を巻き込めない案件だということなのだろう。
殿下がわたしにそれらをした場合、陛下に疑われ、隠したいものが白日の下にさらされる可能性があると。
そしてそれは王子殿下に不利になるものだと。
物語では王位簒奪がよくある動機だけれど、確かに王女殿下がいらっしゃる以上他に継承者がいないわけではないものの、このままなら待っていれば手に入る地位を待ちきれないとは思えない。
確かに陛下はまだお若く、ずいぶんと時間はかかる気はするものの、そこまでしなければならないほど陛下に問題や殿下に目的があるようには見えない。
……もっともわたしが先を見通せるなら今の状態になっていないのだろうけれど。
きっとなにを見てしまったか気づけたのだろうけれど。
とにかく、お忙しいだろうのに気がつけば殿下に圧力をかけられているという状態に正直参り始めた。
理由が分かれば少しは心穏やかになるだろうかと逃避するが、余計気苦労が増えるだけかもしれない。
そんなときに来た見合い話に侍女をやめる口実になるとつい思ってしまった。
思った事は責めてほしくはないが、浅はかであったことは素直に認めよう。
城をやめたくらいで安心出来るのなら、そもそも自ら監視なんてしないだろうとは考えなかった。
見合い相手は政治にも王家にも直接的には関係ない人で、何かを知られたところで大きな騒ぎになる訳ではないだろう。
……そんな理屈が通じるなら、そもそもわたしが殿下に見張られているはずもないわけで。
よりにもよって見合いの最中に邪魔をしに来た。
その冷徹な目にうっかり「なにもしゃべりません」と誓いそうになるものの、万一見たかどうか確信が持てないので見張っていたのならより状況が悪くなると気づいてぎりぎりで黙る。
見合いを壊した言い訳までが必要になった殿下は、なにをとち狂ったのかわたしが好きだったからといううさんくさいことを言いだした。
何の前触れもない行動は違和感を招くだけだと思ったけれど、殿下にとってはある意味幸運なことに見張っていたのを見つめていたと解釈していた同僚が無意味に盛り上がった。殿下に愛されてうらやましいとほざくが、代われるものなら代わって欲しい。
陛下もさすがに結婚しろと命じては来なかったものの、今回の件でしばらく次の見合い話は来ないだろうし、その間だけでも仕事を続けてくれないかと打診された。臨むにも諦めるにも時間が必要だろうから、と。
陛下がどんな恋愛観を持っているのか正直分からなかったが、案外と夢見がちであったらしい。政略結婚していない時点で気づくべきだった。
そして陛下に話が行く前にどうにか止めるべきだった。命令でなくとも明確な理由なく断れるはずがない。
なにも知らないということは決して安全を意味しなかった。
知っていたなら、ここで言ってしまえたならきっと状況は変わっていただろう。
ただ見られていた事を訴えても、願う状況には届かない。
本当にわたしはなにを見てしまったのだろう?
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