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後編
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「そ、それでもお前は私のことが好きだよな?」
殿下は必死です。正式指名されていないとはいえ、王妃殿下の兄の娘であるわたくしと婚約していたことで殿下が立太子に有利とされていたわけですもの。わたくしに絶縁をたたきつけた以上、後はマーイにすがるしかないでしょう。
「ずっと笑顔で私のそばに居たがったもんな?」
それは確かに事実でしょうけれど。
マーイの顔に浮かんだ笑みに殿下が安堵いたします。
「わたくし、怒りが突き抜けると笑顔になるそうですの」
ええ、本当に楽しいときよりもよぽど満面で美しいので、たまにバカが釣れて痛い目を見ています。
「あなたのそばにいたのはあなたがやらかすと姉の負担が増えるからその前に止めるためですわ」
本当に姉思いの妹で嬉しいです。バカとの婚約破棄を用意してくれるなんて。
硬直している殿下の腕を振り払い、マーイが優雅にこちらへとやってきます。未だ満面の笑顔です。表面だけ見れば同性でも家族でも見とれるほどですが正直ちょっと怖いです。
「ぶ、ぶ、ぶ、無礼なっ」
指さす先が二人になったのに気づいた殿下が叫びます。言葉に合わせて指先が揺れてますわね
確かに王族相手に言うにはいささか不敬な発言も混じっていたかもしれませんが。
ナーカヨーシ家の娘との婚約破棄を宣言し、醜態をさらし、ご自分の立場が悪くなっているということを理解されているのでしょうか?
それを挽回するには今こちらを責めるのはむしろ悪手だと。
「そうそう殿下」
わたくしは妹に負けぬほどの笑みを浮かべ口を開きます。
「今度弟様かお妹様がお生まれになるそうですわね、おめでとうございます」
変わった話について行けなかった殿下が間抜けな表情を晒す。
「何だそれは?」
あら、わたくし達の方が知るのが早かったのですね。もしかして警護上の関係かしら? ……だとしても今更黙る気もありませんけれど、口止めれた訳ではないですし。
「叔母様がご懐妊なさったとお聞きしましたが?」
一瞬後、殿下の顔色が面白いくらいに変わります。
王太子殿下は王妃殿下の指名制ですが、それはあくまで王妃殿下に子供が生まれなかったときの次善の策です。王妃殿下の子供は男女関係なく優先されます。
とはいえ、今回はさすがに年齢が離れすぎているので、身の安全のためや上の殿下方の出来によってはそのまま側妃殿下の子供が立太子する可能性もあるでしょう。
けれどどちらにしろボンクーラ殿下にもう可能性は回ってこないでしょうね。
「覚えてろよっ」
捨て台詞を残して殿下が会場から駆け出してゆきます。わたくし達が覚えていれば余計に不利になるということが分かってらっしゃらないのかしら?
ですが忘れませんわ、ようやくわたくし達の願いが叶った出来事ですもの。
わたくし達もゆっくりと扉近くの壁際に移動する。
「皆様、お騒がせして申し訳ございません」
そうして再びざわめき始めた会場に向かい言葉を発する。……まぁ、端の方には聞こえていないでしょうが、無理に細かい内容を伝えなければならない言葉でもないのでよいでしょう。
「どうぞ仕切り直して皆様はパーティーをお楽しみくださいませ」
そうしてマーイとともに礼を取り、会場を後にします。
きっと違う意味で盛り上がるでしょうね。
叔母様が懐妊なさったのはボンクーラ殿下の出来が悪いのに最有力候補と言われているためにどうしようかと陛下に相談する事が多くなり、そういう事になったそうですの。
やはり共通の目標が出来ると絆は深まるものですわね。
母方の親戚からボンクーラ殿下との婚約をまとめられ、それを解消するために努力してきたわたくし達姉妹の絆も深まりましたもの。昔っからあの調子でしたので二人とも嫌ってましたの。
わたくしが目の前のことに手一杯の間に、それを何とかしてしまったんですもの。
マーイは本当に優秀でわたくしの自慢ですわ。
騒がせたので会場から離れたというのも事実ですけれど。
これからどうなるかという不安もありますけれど。
今は久しぶりに二人でゆっくりお茶でも飲みたいですわね。
殿下は必死です。正式指名されていないとはいえ、王妃殿下の兄の娘であるわたくしと婚約していたことで殿下が立太子に有利とされていたわけですもの。わたくしに絶縁をたたきつけた以上、後はマーイにすがるしかないでしょう。
「ずっと笑顔で私のそばに居たがったもんな?」
それは確かに事実でしょうけれど。
マーイの顔に浮かんだ笑みに殿下が安堵いたします。
「わたくし、怒りが突き抜けると笑顔になるそうですの」
ええ、本当に楽しいときよりもよぽど満面で美しいので、たまにバカが釣れて痛い目を見ています。
「あなたのそばにいたのはあなたがやらかすと姉の負担が増えるからその前に止めるためですわ」
本当に姉思いの妹で嬉しいです。バカとの婚約破棄を用意してくれるなんて。
硬直している殿下の腕を振り払い、マーイが優雅にこちらへとやってきます。未だ満面の笑顔です。表面だけ見れば同性でも家族でも見とれるほどですが正直ちょっと怖いです。
「ぶ、ぶ、ぶ、無礼なっ」
指さす先が二人になったのに気づいた殿下が叫びます。言葉に合わせて指先が揺れてますわね
確かに王族相手に言うにはいささか不敬な発言も混じっていたかもしれませんが。
ナーカヨーシ家の娘との婚約破棄を宣言し、醜態をさらし、ご自分の立場が悪くなっているということを理解されているのでしょうか?
それを挽回するには今こちらを責めるのはむしろ悪手だと。
「そうそう殿下」
わたくしは妹に負けぬほどの笑みを浮かべ口を開きます。
「今度弟様かお妹様がお生まれになるそうですわね、おめでとうございます」
変わった話について行けなかった殿下が間抜けな表情を晒す。
「何だそれは?」
あら、わたくし達の方が知るのが早かったのですね。もしかして警護上の関係かしら? ……だとしても今更黙る気もありませんけれど、口止めれた訳ではないですし。
「叔母様がご懐妊なさったとお聞きしましたが?」
一瞬後、殿下の顔色が面白いくらいに変わります。
王太子殿下は王妃殿下の指名制ですが、それはあくまで王妃殿下に子供が生まれなかったときの次善の策です。王妃殿下の子供は男女関係なく優先されます。
とはいえ、今回はさすがに年齢が離れすぎているので、身の安全のためや上の殿下方の出来によってはそのまま側妃殿下の子供が立太子する可能性もあるでしょう。
けれどどちらにしろボンクーラ殿下にもう可能性は回ってこないでしょうね。
「覚えてろよっ」
捨て台詞を残して殿下が会場から駆け出してゆきます。わたくし達が覚えていれば余計に不利になるということが分かってらっしゃらないのかしら?
ですが忘れませんわ、ようやくわたくし達の願いが叶った出来事ですもの。
わたくし達もゆっくりと扉近くの壁際に移動する。
「皆様、お騒がせして申し訳ございません」
そうして再びざわめき始めた会場に向かい言葉を発する。……まぁ、端の方には聞こえていないでしょうが、無理に細かい内容を伝えなければならない言葉でもないのでよいでしょう。
「どうぞ仕切り直して皆様はパーティーをお楽しみくださいませ」
そうしてマーイとともに礼を取り、会場を後にします。
きっと違う意味で盛り上がるでしょうね。
叔母様が懐妊なさったのはボンクーラ殿下の出来が悪いのに最有力候補と言われているためにどうしようかと陛下に相談する事が多くなり、そういう事になったそうですの。
やはり共通の目標が出来ると絆は深まるものですわね。
母方の親戚からボンクーラ殿下との婚約をまとめられ、それを解消するために努力してきたわたくし達姉妹の絆も深まりましたもの。昔っからあの調子でしたので二人とも嫌ってましたの。
わたくしが目の前のことに手一杯の間に、それを何とかしてしまったんですもの。
マーイは本当に優秀でわたくしの自慢ですわ。
騒がせたので会場から離れたというのも事実ですけれど。
これからどうなるかという不安もありますけれど。
今は久しぶりに二人でゆっくりお茶でも飲みたいですわね。
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