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彼らの想いは分からない

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 以前、作ったクローンにバックアップされた記憶を刷り込み納品した。
 納品というと怒る人もいるが、クライアントが目を覚まさせるまではそれは物だ。人間と同じ形をして似たような生命活動をしていて既に誰かの記憶を持っていても人権は存在しない。壊しても器物破損にはなっても殺人にはならない。
 先日、その商品を返品されてきた。
 遺伝子を欠片も弄らなかったとしても後天的な部分で変化は出るし、記憶の方もバックアップを現実だと認識しさせたVRで追体験させているだけなので、現在の技術では限りなく近づけはしても同一にはならない。
 それは契約書にも記されていて、それを理由に返ってくることはないはずだったが無理を言われた。

 返ってきた個体は男性で、クライアントはその婚約者――正確にはその親だった。
 熱愛だったと聞いている。
 ただの睦言といえばそうだが、婚約者が死んだら迷わず後を追うと男性は言っていたらしい。
 けれども死んでしまったのはその男性の方だった。
 しかし婚約者の方は後を追わなかった。
 保険として男性の記憶のバックアップを取っており、クローンを作れるだけの経済力が家にあったからだ。

 こうしてクローンは作られた。
 けれどそこまで愛したはずの婚約者をクローンは拒絶してしまった。

 それは既に男性の愛が醒めていて、誤差としてその部分が表に出るようになったと仮定できる。
 けれどそんなはずはないと言い張って、もう一度作り直せという。
 それを人道的にどうかと思うような人はここを長くは勤めない。

 もう一度似た結果が出た場合も責任は取らない。代金は結果にかかわらす二人分もらう。法律上複数同一人物が長期間いてはいけないので片方は処分する。
 それ以外にも細々と条件を付けた上でもう一度クローンを作る。

 二人目はきちんと婚約者を愛していた。
 一人目も二人目も脳波を測定した限りでは嘘を吐いている様子はない。

 研究としては重要な事だが、クライアントとしてはどうでもよかったらしく、料金と共に二人目を連れて帰った。

 同じように作ったはずなのにどこで差異が出たのか。当然のように意見が飛び交う。
 解剖をしたいという意見もあったが、比較対象がない上に、記憶関係は研究途上なのでそうしたからといって無駄に終わる可能性が高い。
 もう一体作りたいという希望も予算の関係上無理だ。

 ふと一体目を作っていた時のことを思い出す。
 カプセルの中で記憶を追体験しながら人間ではあり得ない速度で成長している最中、一人目に話しかける人間がいたことを。
 社会見学とやらに来ていた女子中学生だった。
 もちろんクローンから返事があるわけもなく、その女子生徒もすぐに飽きた。
 ちょうどクローンがその子と同い年ぐらいの年齢だった時期だ。クローンの方が成長が早いので女子生徒より約二十倍は体感で一緒にいた事になる。

 しかしその程度の事で影響を受けるほど脆いシステムではない。
 けれどそう思ってしまったのは何故だろう?

 クローンは埋め込まなければ記憶はないし、埋め込まれた記憶しか持たない。
 そのはずだ。
 けれどもそれも結局は証明されていないことに気づいた。

 今までそれを直接クローンに聞くことは出来なかった。
 一人目は覚えているだろうか?
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