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後編

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 もちろん後には義姉になるものとして、そして将来の陛下を支えるための同志として、どちらかといえば好ましく認識して下さっていることは分かっていましたわ。
 けれど、それでは足りない。むしろ他の人の相手としては記憶して欲しくないと思いましたの。
 だからといって色仕掛けでもしてこちらを向かせるのは違うでしょう?
 まだ色恋ではないとはいえ、あるいは色恋でないからこそ、ご自分の婚約者を大事にしてらっしゃる殿下を評価しております。
 その方を捨ててわたくしの方に向いてしまったならば、それはわたくしが好きになった殿下かしら?
 ですからこれ以上、あるいは違う形で好かれるわけには参りません。
 なのでわたくしは憎まれる事にしましたの。


 国をかき回すのは簡単でしたわ。婚約者さまを中枢に実質的に近付ける、ただそれだけ。
 些細なわがままが場合によっては些細ではすまないと教えて下さったのは王族の方々ですもの。

 次第に婚約者さまを非難する声が高まって行きました。
 同時にそれをそそのかしたわたくしの悪評も。

 そうそう、その頃は悪女の婚約者に振り回された王子が、真実の愛に出会い悪女を退け、その愛に準ずるために王位を捨てるという物語が流行りましたわ。
 これは発禁にはなりませんでした。
 この頃からわたくしを切り捨て婚約者さまを何とか助けようという意図があったのでしょう。
 陛下は本当に婚約者さまに甘いから。
 本来はあなたが彼を切り捨てるべきでしょう?

 このような出来事を幾つか経てわたくしは国家反逆罪で捕まることとなりましたの。
 そそのかしはしましたが、直接的に手を下してはまだいなかったのですけど。
 身に覚えのないことがいくつも上乗せされていっそすがすがしいほどですわ。
 きちんと否定はしておいたので、きっと殿下はわたくしの事で思い悩んで下さるでしょう。


 その結果冤罪だと露呈する前にと思われたのでしょうね。
 あっさりと断頭台に登ることが決定しましたわ。
 殿下が反対して下さったかどうか知ることが出来ないのは残念です。
 そういう意味では今となっては遠い人です。
 けれどもわたくしを忘れることはないと確信しております。

 首を切られるのはわたくし一人。婚約者さまは塔で幽閉中だそうです。
 幽閉というと罰のようですが、あそこは中の人物を守りやすい場所でもありますから目的はそちらでしょうね。
 いずれほとぼりが冷めたなら真実の相手という名の新たな世話係に手を引かれ何処かに向かうのでしょう。
 死ぬ時まで婚約者さまに煩わされずにすんで何よりですわ。

 婚約者さまを引きずり下ろし、殿下が王位を継ぐことになったことは間違ったことをしたとは思ってません。
 巻き込まれた方には悪いとは思いますけれど、わたくしが手を下さなくてもいずれは同じ結果になったか、もっと酷い事になったかのどちらかでしょうから。
 そういう意味では貴族として恥じる気持ちはございません。

 恥じるとするならば、その行動を感情で行ってしまったことでしょうか?
 それを恥と思わなければならなかっただなんてずいぶんと貴族とは窮屈でしたのね。
 わたくしはもう巻き添えを恐れた家に縁を切られておりますの。既に貴族ではございません。
 最初から貴族でなければ言うことが出来たのでしょうか?

 出来れば首切り役人などでなく、日々鍛錬している殿下の剣で殺して頂きたかったのですけれど、そこまではいけませんでしたわ。
 わたくしもまだまだですわね、次はありませんけど。


 ごぶり、と口からあふれたのは単なる血のはずですけれど。
 ずっと言えなかった言葉をやっと形に出来た気がいたしました。
 その言葉は――。
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