結局悪役令嬢?

こうやさい

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異聞

貴方と貴方以外

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『花束』の後になります。
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「まぁ」
 差し出された色とりどりの切り花に目を見開く。
「あー、土産?」
 差し出した旦那様はどこか歯切れが悪い。
 そういえばこの間第二王子あのばかとの花束の話をしたことを思い出す。
 思わず笑みがこぼれる。
「いや、そうじゃなくて、考えたら何の花が好きとかそういう話は聞いたことがなかったなと思って」
 言ってもいないことを言い出す辺り、予想を肯定したようなものだけれど。
「確かに話したことはありませんわね」
 幼い頃からの許嫁なら言わなくても知っている事もあるでしょうし、大人になってからの政略ならば政略なりに調べたりさりげなく紹介されたりしたでしょう。恋愛ならば放っておいても知ろうとするでしょうし。
 けれど旦那様はそれを知らない。
 私も実は噂以上に知っている事は少ない。
 それを飛ばして婚姻を結んでしまった。
 旦那様が知っていたのは悪役令嬢になりたかったことと第二王子もとこんやくしゃが嫌いなことくらい……どうして私と結婚する気になったのかしら、今更ですけど。
「……もっと、普通がよかったか?」
 一瞬もった疑問に気づかれたのか、旦那様に謎な事を聞かれる。
「こう、贈り物を贈られて、ゆっくりと関係を育てるような、そんな相手がよかったか?」
 確かに関係が育っていないから今更何が好きかとか疑問を持っていると言えなくもないけれど。
「私、一応婚約者いましたけど、関係も育たなかったですし、贈り物をもらった記憶もありませんけど」
「……関係はとにかく贈り物もか?」
 確かに政略だとしてもというかだからこそおかしいですよね。
「家には届いてましたからある意味では政略として正しいです」
 ただそれに結婚という言葉を付けると当事者同士の関係がよくはならないだけで。
 それに家に贈られたのすらも恐らく誰かに言われてでしょうけど。
「だいたいこちらも離れたいとばかり考えて、愛とか恋とか信頼関係とか、そんなものを育もうとは思いませんでしたもの。こればかりは第二王子あちらのせいばかりではありませんわ」
「……それでよく結婚直前まで進んだな、政略とはいえ」
「……まぁ、表だって派手にごねたりはしませんでしたから」
 同伴者が必要なら出向きましたし、問題発言や行動を誤魔化すことも頑張りましたわ。それが難しいんですの。殿下より前に出てはいけないし、上手く誤魔化せそうな時でも殿下の方が反論を始めたりして。……子守り扱いされてもしょうがなかった気がしてきましたわ。
「それに解消したところで殿下の新しい婚約者は簡単には見つからなかったと思いますし」
 仮に殿下が理想的な人物だとしても高位の家ほど婚約者を早いうちに決めるもの。調整にはかなりもめると思いますわ。今なら違う意味でもめそうですけど。
「なんつーか、苦労してたな」
「ですので殿下自らが相手を見つけ破棄してくださるのが理想的でしたの」
 出来れば悪役令嬢なしで。
「……いや、第二王子が婚約破棄すれば分かるだろうから問題ないのか?」
「旦那様?」
 何やら言っていましたが、聞こえなかったので聞き返します。
「いやじゃあホントに贈り物とか私的に異性にもらってないんだなと思って」
 そんな言葉だったかしら?
「同世代には特には」
「……同世代以外ならいるのか?」
「もちろん家族にはもらいましたし……」
 お祖父さま甘やかしてくれましたから。そういえばお兄様は同世代に入れるべきだったのかしら?
「あと旦那様があの頃従僕としていたときの小父様が」
「くそぅ、怒りの持って行き場がねぇ」
 別に怒る必要はないと思いますけど。確かに第二王子よりは素敵だとは思いますけど、愛妻家ですし。
「ところで何のお話でしたかしら?」
「えーっと」
 ……旦那様、忘れかけてましたのね。
「そうそう、何年も離れてたのに再会した途端結婚するような事になるより、ちゃんと、段階を、踏みたかったんじゃないかと……」
 言いながら旦那様の勢いが下がってくる。
「特には」
 私の方はあっさり答える。
「……そうなのか?」
「正直言えば友人が婚約者から贈り物をもらったと聞いてうらやましく思った事くらいはありますわ。だからと言って第二王子もとこんやくしゃに贈って欲しいとは思わなかった……そういうことです」
 不思議そうな表情を向けられる。
「旦那様からじゃないと意味がないんです。好きな人にもらうから嬉しいんですわ」
 そう、嫌っている第二王子はとにかく、家族でも知り合いでも以前読んだ物語のこの上ない紳士の殿方でも、花をもらったと想像してまず浮かぶのは感謝。
 けれど旦那様がくれるのはときめきと喜び。
 それ以上に何が必要かしら?
「ですから、とても嬉しいです」
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