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前編

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 気がついた瞬間には、断罪後に国外追放された悪役令嬢でした。

 順番に思い出すとあたしは独り暮らしなのに風邪を引き込んで、これは死ぬと思ったところまでは覚えてるからたぶん死んだんだろう。そして生まれ変わって前世の記憶を思い出した。
 で、いまの身体の持ち主の元の記憶はないが、殿下の婚約者でありながら殿下との距離を縮めるヒロインに嫉妬していじめ、断罪され婚約破棄され国外追放された元侯爵令嬢になった。
 なんでそれが分かるかというと、前世でやった中世ヨーロッパ風乙女ゲームそっくりだから。

 内容はよくある代物で、突然魔法の才能に目覚めたヒロインが本来貴族が通う魔法学園に入学し、恋に魔法に頑張る話だ。……恋より先に魔法頑張ろうよ。頑張ったところで魔法バトルとかが起こる訳じゃないけど。
 この身体の本来の持ち主は全攻略ルートにおいての悪役令嬢という位置づけだが、基本気高く美しく、ツンデレなだけで他の生徒がヒロインを理不尽にいじめるならさりげなく庇い、嫌みを言いながらも手助けし、必要な物がものがあればこっそりそろえてあげたり、時には励ましの手紙まで出したりする。
 あれ、下手な攻略対象よりヒロインに寄り添ってね? と違う層からの需要があり、隠しエンディングはないのかと探されていた。
 ところがこの子自身が恋のライバルとなる殿下ルートになると豹変する。
 これぞ悪役令嬢とばかりに率先していじめ、嫌みは心底フォローもなし、ヒロインの私物を隠す壊すは当たり前、もちろん階段から突き落とすことも忘れない、そして断罪されて無様に足掻く。
 恋は人を変えるというがいくらなんでも限度があろう。
 とにかく他のルートとの落差が酷い。酷すぎてヘイトが悪役令嬢じゃなく制作者側に向くくらい。
 シナリオの都合で性格を曲げられてかわいそうです的なレビューがどこに行っても大概あった。
 そしてその同情のせいもあり人気投票ではヒロインも攻略対象もぶっちぎりで抜き去って一位という悪役令嬢としてはどうだろう的な子だった。

 そんな子だったせいか、殿下ルートでもヒロイン周辺以外には人望はあったのか、所詮子供の喧嘩でそこまでひどいことでもないとでも思ったのか、国外追放といえどそこそこの家も用意されているし、当面の資金もあるし、いくつかの職業ギルドへの紹介状もあるようだ。
 貴族のお嬢様にはある意味充分な罰だろうけど、中の人になってしまったあたしはこうロハスというか自然派生活というかを送ってたもんで。
 乙女ゲームとかやってた訳だし、所詮現代文明の上に成り立ったなんちゃってな緩いシロモノだけど、少しくらいは使えるであろう知識もあるし。
 中世ヨーロッパ風は、実際の中世ヨーロッパに比べたら恐らく格段に暮らしやすいわけだし、令嬢の時に転生するよりよかったんじゃもしかして。細かいことはゲームの事すらよく覚えてないけど、最低限の常識までは忘れてないみたいだし、今後関係者と会うこともないだろうし、特に問題ないよね。
 よーし、スローライフをエンジョイするぞー。
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